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10年ぶりに……

10年ぶりに光を取り戻した男とその妻がラブラブ過ぎてどうにかしてほしい

作者: 燦々SUN

短編『10年ぶりに光を取り戻した夫が目を合わせてくれなくなってしまったんだがどうしたのだろう』の親友視点です。

 私の親友とその夫の話をしよう。


 私の親友ミリアとその夫ウィルは私の1つ下で、小さい頃から時々顔を合わせる間柄だった。

 と言っても、別に幼馴染と言うほどではない。

 ミリアとウィルは家が近所同士だったが、私はそんなことなかったので、幼少期はそれほど接点はなかった。


 そんな私がミリアと親友になったきっかけは、今から8年前、私が13歳でミリアが12歳だった時のことだ。

 ある日突然ミリアが訪ねて来て、「魅力的な女の子になる方法を教えて欲しい」と言い出したのだ。

 こう言うと自慢になってしまうが、私は小さい頃からモテた。

 単純に町の同年代の女子の中ではトップ10に入るくらい容姿が良かったこと、我ながら気さくで明るい性格だったこともあり、当時はそれはもうモテた。


 ミリアもそんな私を知って、私に魅力的な女の子になる方法を聞きに来たのだろう。

 その時は突然の申し出に驚いたが、頼み込むミリアの目があまりにも真っ直ぐで必死な様子だったので、思わず引き受けてしまった。

 当時女の子に人気だったファッションやアクセサリーを教えて、肌や髪の手入れの方法、少ししてからは化粧の仕方も教えた。

 そして、それ以来ミリアは私を実の姉のように慕ってくれ、私もミリアのことを妹のように可愛がってきた。


 そのミリアは大人になってからも、時々お茶菓子片手に我が家を訪ねて来ては、ウィルののろけ話をしていく。

 まあミリアがウィルにベタ惚れなのは昔からだ。

 そもそも私に魅力的な女の子になる方法を聞きに来たのだって、ウィルに相応しい女の子になるためだったのだ。

 正直、どう見てもやり過ぎて、段々とウィルの方がミリアと釣り合わなくなっているのだが、ミリアがそのことに気付く様子は一向にない。


 それに、ミリアが話すウィルの話は明らかに美化されているので、その全てを鵜呑みにする訳にはいかない。

 そもそもあの平凡顔のウィルを世界一カッコイイと公言している時点で、ミリアの眼にどれだけの思い込みフィルターが掛かっているかは推して知るべしだろう。 

 ミリアに言わせればあのむごたらしい傷痕すら魅力的らしいのだから、恋とは恐ろしいものだ。




 そのミリアなのだが、結婚してからはその愛情の形が少しずつ歪んでいる気がする。

 いや、親友にこんなこと言うのもどうかと思うのだが、はっきり言うなら変態度が増している気がするのだ。

 部屋の壁一面に張られたウィルの肖像画を見せられた時などは、あまりの恐怖に悲鳴を上げそうになった。上げなかったけど。いや、正確に言うなら上げられなかった。人間本気で怖いと声って出なくなるんだね。


 それ以来、私はすっかりミリアの家からは足が遠のいてしまったのだが、ミリアは変わらず定期的にウチを訪ねて来ている。

 その度にのろけ話をされ、目の前で妄想の世界に旅立たれ、その度に内心「(こじ)らせてんなぁ~」と思っていたが、それを敢えて口に出すことはなかった。え?だってなんか怖いじゃん。


 しかし、昨日の相談ではとうとう言ってしまった。

 というのも、いつになく落ち込んだ表情で、今にも死にそうな負のオーラを纏ってやって来たミリアは、いつも通り散々のろけ話をした挙句、思わず「はぁ?」と言いたくなるような相談をしてきたのだ。


 何でも、ウィルが目を合わせてくれないのだとか。


 ミリアは「ウィルに嫌われたかもしれない」とか「もしやウィルは聖女様の虜に!?」とか言っていたが、私からすれば見当違いもいいところだった。

 というか、聞いただけで分かるわ。ただ恥ずかしがってるだけじゃん。


 ウィルのことなら身長体重からほくろの数まで分かるくせに、なんでそんなことが分からないのか。恋というフィルターで目が曇っているのか?

 とにかくあまりにも妄想を拗らせ過ぎていたので、呆れて思わず口が滑ってしまった。


 内心「あっ、やべっ」と思いつつ、とにかく気にしないよう伝えると、ミリアは渋々といった感じで帰って行った。


 …まあ、結局何の心配もなかったことはすぐに判明したのだけど。


 その相談に来た翌日、つまり今日、ミリアは昨日とは打って変わって酷く上機嫌な様子で訊ねて来たのだ。

 話を聞くと、無事にすれ違いは解消されたらしい。

 まあ心配はしていなかったが、親友の心が軽くなったのならよかった。

 …幸せオーラいっぱいのミリアはいつにも増して妄想が酷くなっていたので、それだけは不安だったが。




「じゃあまたね。今回は本当にありがとう♪」

「いいわよ別に。それより、浮かれ過ぎてまたよだれ垂らさないようにね」

「う……分かった。それじゃあ」

「はい、またね」


 ミリアを送り出すと、扉を閉めて自室に戻る。

 と、その途中で弟と鉢合わせた。


「やっと帰ったのか。今日はいつにもましてテンション高かったなぁあいつ」

「あらいたの?って、まさかまた聞き耳立ててたんじゃないでしょうね?」

「人聞き悪いこと言うなよ。隣の部屋まで聞こえる声で話してる方が悪いんだろ?こっちだって聞きたくて聞いてる訳じゃないっての」

「だったら外にでも出てればいいじゃない。女同士の会話を盗み聞きするのは感心しないわね」

「だから盗み聞きじゃないっての……しっかしまあ、相変わらず“いいお姉ちゃん”をやっているようで」

「…何よ」

「いや?よくもまああんな偉そうなこと言えるもんだと思ってな?」

「…私の方が年上なんだから別におかしくないでしょ」


 どこか馬鹿にしたような弟の態度にイラつきながらそう言えば、弟は表情に呆れをプラスしつつ言った。…私が一番言われたくない一言を。


「でも姉貴だって処女じゃん」

「それを言うなぁぁぁぁああぁぁーーーー!!!!」


 頭を抱えながら絶叫する。

 認めたくない現実を意識から遮断するように。




 私はたしかにモテた。付き合った男の数など、両手の指では数え切れない。

 それは事実だ。

 しかし、恋愛経験が豊富かと言うと、それは否だ。恋愛の経験値なんてはっきり言って0に等しい。


 なぜか?それはひとえに私が小さい頃からモテ過ぎたからだ。


 私は小さい頃からモテた。

 その結果、小さな私は調子に乗った。今思い出すと羞恥に悶えたくなるくらい完全に調子に乗った。


 そして、男を手玉に取る“いい女”を演じ始めたのだ。

 …なぜかと問われても困る。とにかく当時の私はそれがかっこいいと思ってしまったのだ。


 周囲の男子に無駄に思わせぶりなことをしたり、告白を受け入れておきながら、「女の扱い方が分かってない」とか「一緒にいてもつまらない」とか適当な理由を付けてすぐにフッたりすることを繰り返し、思春期男子の純情を散々(もてあそ)んだ。

 その結果、私はいつしか完全に“いい女”と真逆の“悪女”のレッテルを張られてしまった。


 そして時を同じくして、ミリアが化けた。

 所詮町の同年代の中でトップ10程度の私では、本気を出したミリアの足元にも及ばなかった。


 ウィルに対する狂おしいほどの恋情と飽くなき執念によって女を磨きまくったミリアは、たちまち町一番の美女の称号を獲得した。

 そして、既に私から離れかけていた男共は、一気にミリアの方になびいた。


 正直嫉妬しなかったと言えば嘘になる。

 しかし、当のミリアはウィルしか見ていなかったし、私と違って他の男に思わせぶりなことをすることもなかった。なにより、それまでと変わらずに私のことを姉のように慕ってくれていたので、その純粋な目を前にしては、私だって可愛い妹分に暗い感情を向けることなど出来なかった。




 そして、私は未だにその“いいお姉ちゃん”としての立場を捨てられずにいる。

 私が作り上げた“いい女”の幻想を信じているのは、最早ミリアだけだ。

 町の同年代の女には“いけ好かない高飛車女”だと思われているし、男には“男を手玉に取る悪女”だと思われている。

 そして、家族にはただのき遅れでしかないと見抜かれている。

 ミリアだけが、私を“恋愛経験豊富ないい女”だと思っているのだ。




 あぁそうですよ!私はただの調子ぶっこいて大失敗したいったい女ですよ!!

 ミリアに純粋な目で「ファリンは結婚しないの?」って言われる度に、「いい男がいなくて」とか「1人の男に縛られたくないのよ」とか悩ましげな顔で言いながら、その裏でガリガリと心のライフを削られてますよ!!

 さっきだって「いつになったらアンタは処女卒業するワケ?」とか呆れ顔で言っときながら、内心いつ先を越されるかドッキドキでしたよ!!

 というかはたから見たら痴話喧嘩にすらなってないちょっとしたすれ違いでうだうだ悩み過ぎなのよ!この前の相談でも何回途中で「自慢か!自慢なのか!?」って叫びたくなったことか!

 結婚して2年も経つのに今更キスから始めるとか、お前ら思春期か!付き合い立てカップルの嬉し恥ずかしか!!羨ましいんだよこんちくしょおぉぉーーー!!!




 はぁ、はぁ


 内心で思いっ切り本音をぶちまけていると、どうやら態度にもそれが出ていたらしく、弟に益々(ますます)呆れた顔をされてしまった。


「おい姉貴、滅茶苦茶殺気が漏れてんぞ。そんな感じで、本当にあいつに先を越された時大丈夫か?」

「う……」


 正直、大丈夫とは言い切れない。

 もしそうなった場合、私は“いいお姉ちゃん”でいれる自信は全くなかった。


「だからさっさと恋人作れって。21にもなってまだ実家暮らしとか、いい加減ご近所の眼が冷たくなってんぞ」

「分かってるわよぉ……」


 だからと言って、簡単に恋人が作れるなら苦労はしない。

 なにせ私は“悪女”なのだ。今となっては火遊び目的のナンパ男くらいしか寄って来ない。

 いくら婚期を逃し掛けていても、流石にそんな男を相手にするのは嫌だ。

 正直、最近ではもう町を出て一からやり直すしかないかなぁと思い始めている。


「まあ今の内に覚悟はしとけ?姉貴があいつの“いいお姉ちゃん”でいたいならな」

「……」


 弟のその言葉が、私に重く圧し掛かった。



* * * * * * *



 しかしこちらの予想に反し、それからしばらくの間、ミリアは全く私を訪ねて来なかった。

 いつ“大人になった宣言”をされるか内心ビクビクしていたのだが、いつになってもそんな時は訪れず、あっという間に2カ月が経過した。

 流石にここまで音沙汰がないと少し心配になってくるが、だからと言ってこちらから訪ねて行く勇気も湧かずに迷っていると、遂にその時は訪れた。




「姉貴~ミリアが来てんぞぉ~~」


 自室でくつろいでいると、玄関の方から弟の声が聞こえて来てビクッとする。


 遂に来たか。


 ふぅーーーっと深く長く息を吐き出し、気持ちを落ち着ける。


 大丈夫。この2カ月で覚悟は決まった。

 そうだ。考えてみれば先に結婚されている時点でとっくに先を越されているんだ。今更先に処女捨てられたくらいで動揺しててどうする。

 そう、こんな会話はそもそも2年前の新婚の頃にされてて当然のものだったんだ。むしろこの2年間は私が嫉妬に狂わないでいられるようにするための準備期間だったんだ。うん。

 よし!そう考えればかなり気が楽になった。

 精神の耐久力は限界まで引き上げた。これでどんな幸せオーラをぶつけられようと心が折れることはないだろう。


 最後にもう一度深呼吸をすると、私は戦場に向かう気持ちで玄関へと向かった。

 念入りに表情を作ると、腹に力を込めて扉を開ける。



 ガチャッ



「いらっしゃいミリア」

「ファリン!!」


 扉を開けると、そこには幸せオーラ全開の満面の笑みを浮かべたミリアの姿。


 ……っ!いや、大丈夫。

 これしきなんてことない。

 ふっ…この程度の攻撃では今の私は……



「子供出来た!!!」



 ボギュグッ!!



 ……あぁ、なるほど



 ……これが心が折れる音か



* * * * * * *



「それじゃあ、また今度懐妊祝いを持って行くワ」

「うん、ありがとね!私、ファリンと友達で本当に良かった!!」

「ソウネーワタシモヨ」



 バタンッ



 …ふぅ



 ……………



 ……………



 ……………



 …っ!!どっちくしょうがぁぁぁぁああぁぁーーーー!!!!!

 全っ然来ないと思ったら滅茶苦茶順調じゃねぇかぁぁぁああぁぁ!!!

 大人になるどころかまさかの母親になってやがったよ!!ウチに来なかったのはそんな暇ないくらい ―自主規制― してたからなのか!!?私が「上手くいってないのかなぁ」とか考えてる間もあいつらは ―自主規制― してたのか!?タガが外れたように昼夜問わず ―自主規制― して ―自主規制― してたのか!?そんなにも ―自主規制― は ―自主規制― だったのか!!?あんのイチャラブ夫婦めぇもう2人まとめて ―自主規制― してしまえぇぇぇーーーー!!!!



 ……………



 ……………



 はぁ、はぁ


 落ち着け、落ち着くのよファリン

 ひっひっふー、ひっひっふー

 いや、これは違う。色々と違う。


 フ、フフフ……

 まさか、まさか妊娠してたとはねーー。2カ月かけて上げた精神の耐久力を一瞬で突破されたわ。防御力無視の問答無用の即死攻撃だったわ。何とか取り繕って追い返したけど、最後の方ポーカーフェイスを維持出来てた自信全くないわ。まあ幸せいっぱいのミリアは全く気付いてなかったみたいだけどねぇーーークソがっ!!


 はぁ…とにかく、懐妊祝いを持って行くと言った以上、近い内にミリアの家を訪ねなければならない。それまでに心を鍛え、鋼の精神力を身に付けなければ。


 あれだけ幸せオーラを垂れ流していたのだ。今のミリアの家は間違いなく、垂れ流しの幸せオーラが充満して、生半可な精神力では入ることすら不可能なデスゾーンと化しているはずだ。

 念入りに準備して行かなければ、一気に心のライフを持って行かれることは間違いない。


 よし!とりあえず笑顔を作ることから始めよう。

 今の私はきっと凄い形相ぎょうそうになっているはずだ。

 いくら家族しかいないとはいえ、そんな姿を見せるのは女として色々と負けな気がする。


 さあ笑うのよファリン!

 私は可愛い妹分の懐妊を喜ぶ優しい姉!

 間違っても、どこまでも先を行く妹に嫉妬する醜い姉ではない!



 ふぅ、ふぅ……



 口角…よし。目尻…よし。眉毛…よし。

 うん、完璧。流石私。

 伊達に8年も“いいお姉ちゃん”やってない。

 この調子なら懐妊祝いを持って行くのもあまり遅くならずに済むかもしれない。



 自分の表情を完璧に作り上げた私は、もたれていた玄関の扉から背を離すと、ゆっくりと自室に向かった。

 と、その途中で弟と鉢合わせた。

 だが問題ない。玄関できっちり表情を作り直した私に死角はない!!




「…姉貴」

「ん?」

「…殺気出てる」

「……」




 …どうやらまだまだ道のりは長そうだ。

求められるままに書いてはみたものの、何だかどんどん内容が酷くなっているような……。


いや、もうこれ以上書きませんけどね?

親友の弟が出て来ましたけど、もう書きませんよ?


……書きませんよ?

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラストのツッコミが良い。 [気になる点] この調子で後10話ぐらい書いてくれ [一言] v(*⌒0⌒)v頑張って♪
[良い点] 女の平常運転・・・・・・・ [気になる点] フリが出ててるって事は 次回は 弟編なんですね! えぇ~えぇ~解ってますとも 書くんでしょ
[良い点] うつくしいゆうじょうでしたね(棒) [一言] 『10年ぶりに光を取り戻した男の妻に殺気を飛ばす姉をどうにかしてくれ』みたいなタイトルで、親友の弟視点書いてくれませんかねぇ?(チラッチラッ
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