出会いは突然に
僕、高原 翔太はとある書店にいた。
その書店は妙月高校の近くにある一番大きい書店で、本の品ぞろえが良く、中にカフェがあるため妙月高校の生徒の溜まり場になっている。
その書店の入り口から左へ進み、三番目漫画コーナーに僕はいた。
日曜午後三時の混み具合は中々のものだなぁ、と思いながらも僕は一冊の漫画を探していた。
気まぐれメモリーの八巻。超人気ラブコメディ漫画である。男子はあまり見ない作品だが、超素晴らしい作品だ。
何といっても何気ないやりとりが見ていてなごむというか、心を満たしてくれる。
日曜午後三時に買いに来るようなもんなのそれ?と思うかもしれないが、発売日に買いに来るほど素晴らしい作品なのだ。
帰ったら、一人で思う存分読もう--そんなことを思いながら本に手を伸ばした、そんなときだった。
「あ、高原君。何してんの?」
突然声をかけられたため、俺の伸ばした手はすぐに引っ込み、硬直状態になる。
誰だろうか。透き通るような優しい声からして声からして女の人らしいが僕と仲のいい女子なんて数少ないはずだ。
後ろを振り向き僕が見たのは一人の美少女。美しい黒い髪に、透き通るような瞳。ロングスカート、襟のついた長袖に身を包み、リボンのついた肩に鞄をかけている。彼女は僕に微笑みかける。
僕はこの美少女の名前を知っていた。いや、妙月高校の生徒なら知らない人間はいないだろう。
秦織 花子。「高嶺の花子さん」の異名を持つ僕とは無縁の完全無欠の美少女。
そんな彼女が僕に何の用だ。
「こんなところで奇遇だね」
「……あの、一体何の用ですか」
「用なんてないよ?同じ学年で同じクラスの子を見かけたから声をかけただけ。同じ学年なんだからそんなにかしこまらなくてもいいよ」
「ああ、そういうことね。じゃあ俺はこれで……」
「ねぇ、待ってよ。今何を買おうとしてたの?」
彼女は僕に微笑みながら聞く。そんな彼女の微笑みに圧倒され、僕は苦笑いを浮かべる。
なぜそんなことを聞くのだろうか?そもそも話すのは今日が初めてじゃないか。何の本を買おうとしてたかなんて言えるわけないだろ馬鹿なの?とか色んなことを考えながら、結局口が開いてしまう。
「気まぐれメモリー。俺も俺の妹も読んでるから、買いに来たんだよ」
「へぇー意外。私もその本好きでさ、買おうとしたら高原君がいたからびっくりしちゃったよ」
「確かに男で読んでいる人は少ないですね」
「そういう意味じゃないんだけどなぁ……」
「え?」
「ていうか、妹さんいるんだ。何歳なの?」
「十五だけど……」
「あ、じゃあ私の妹と同い年かー。妙月中?」
何でこんなにも話を盛り上げることができるんだろうか。やはりいつも色んな人と話しているだけあって、もうなんかすごい。
このままだと僕がコミュ障だとばれてしまう。
「今日高原と喋ったんだけど、あいつコミュ障じゃね?ウケルー笑笑」という状況だけは何としてでも避けたい。
「秦織さん。僕はこれで」
「わかった。高原君、また今度学校でも話そうね」
そういうと、秦織さんはまたね、と言って丁寧にも小さく手を振る。
また今度?
その言葉を疑問に思いつつ、僕はその本屋のレジへ向かった。
この出会いが僕と秦織さんとの始めての会話であり、僕が秦織さんに振り回されることになるとは知る由もなかった。
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