ヒロの旅
「オウオウオウオウ!テメエ!ヒロ!この野郎!テメエこの野郎!」
鋭い目付きの角刈り男が、細マッチョな体で肩を怒らせる。
身長は179センチ、毛皮のベストから伸びる二の腕は筋肉質。
毛皮の短パンから伸びる二本の足は筋肉質。
顔付きは精悍だが、育ちは悪そうだ。
砂漠のど真ん中に人工都市が蜃気楼の様に浮かんでいる。
名をザムゾシティー。
経済大国フリタニア共和国の自治領で、カジノ、エンターテイメントに特化した砂上の都。
水資源を人工的に確保する事に成功。
乾燥した空気も微量のミストにより快適空間を実現。
都市全体を覆う風力障壁を調整する事で、砂の流入をほぼ皆無に。
主要産業はカジノに連携したエンターテイメントであり、その為の都市運営、開発、整備が進められる。
林立する建築物はさほど統一感は無いが、カジノによる賭博益によって、金に糸目を付けぬ式でバンバン建てられて来た。
その為か無駄なインフラ整備に余計な出費を迫られる。
個々の建物はハイグレードな設備を揃えた、観光客をもてなすのに充分だったが、都市設計の全体像に配慮が欠けていた。
どう考えても、急ぎ過ぎた観が否めない。
それでも、資金源の豊富さが度重なる問題を力付くで解決に導く。
貧しい国家や都市からすれば、羨ましいと言うより、そのデタラメさに腹立たしく思うのだった。
そんな金が有るんだったら、俺達を援助しろ!
本音はそうだろう?
ザムゾシティーの中心部に複合型高層建築が、天を突く勢いで伸びている。
その高層建築の1階フロアにオープンスペースカフェが、モーニングタイムで賑わっていた。
角刈りの男はカフェで紅茶を啜る少年に詰め寄っている。
しかし、少年は完全に無視。
角刈り細マッチョは更に怒りの色が強くなった。
「もしも~~し!人生の先輩が喋りかけてますよ?聞こえてるかな?」
「聞こえん!失せろドブネズミ!!」
「黙れ牛より食う女!貴様は餌にだけ興味を示せ!」
角刈りをドブネズミ扱いした女性の目が激しく据わる。
ドブネズミをハントする眼だ。
女性の名は百合李、二十の童顔娘。チャイナドレスがよく似合うボン!キュキュっと、プリリン!な人も羨む、男も萌えるダイナミックボディー。
しかし喋りは変で性格はデンジャラス、だから彼女を知ってる者は色気を感じない。
「なんか言ったかゴミクズ野郎、あたいの乙女チックなガラスのハートを汚した罪は地球の重力よりも重い、どんな風にお仕置きされたい?」
ユーリーが虐待したい眼で角刈りを見詰める。それはそれは熱い眼差しで、色々拷問の方法を考えている様だ。
お仕置きされるのは真っ平ごめんな角刈りマッチョの名前は山吹。元盗賊団のメンバーで現在は旅仲間とお散歩中。ユーリーのサディスティックな視線に、背筋を凍り付かせて仲間の少年に話しかけた。
「やあヒロ君、ちみの名前がエントリーシートに記入されて無かったが、何処かに神隠しにあったのかな?」