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俺の人生初ラブコメが、想像以上に非常識で前途多難な件について。  作者: 小林歩夢
episode1 死んだ→神様に会った→生き返った→天使来た。 は?
7/16

6 同居系ラブコメは全て嘘でした。下

「えー、もしもし神様ー」


 もうすでに同僚に電話をかけているような気分だ。……え、流石にしたことあるからな。


『なんじゃ、神の御加護が届いたのか?』


 神様は一瞬で電話に出た。暇さ加減がよくわかる。


「そうですよ。もちろんその話ですよ。なんでお荷物を送りつけてきたんですか」

『そうか、荷物が届いたか。では切るぞ?』


 どうやら『荷物』の概念がかみ合ってないらしい。


「いやいや違いますよ。そっちの荷物じゃないです。なんですかあれ。粗大ごみの不法投棄はウチでは承りかねるんですけど」


 俺が三世代続くゴミ収集の会社の跡取り息子だとしても無理だ。


『かわいいじゃろー』


 まるで孫をめでるときみたいな口調。電話越しなのに神様が笑顔なのがよくわかる。じゃあ捨てるなよ。そのまま天界で愛でろよ、とは思ってはいけないことなのだろうか。


 まるで言っていることがごみ屋敷の住人と同じじゃないか。


「ええ、確かにかわいいですけど。……じゃなくてなんで天使なんて送り付けてきたんですか? 返品します!」


 思わず本音が漏れてしまったので、即軌道修正。


『……だって、お主にも身近に話せる人がほしいじゃろ。わかるだろう、アンジェが来て重く立ち込める空気が変わったような気がせんか?』


 急に重い口調で話しかけられた。なんだこの電話越しに伝わる神々しさ。いや、神なんだけど。


 神様……なんて慈悲深いんだ。そこまで僕のことを! 確かに重かった空気が変わっているような気がするよ。新鮮になってるような気がするよ!


『って言ったら追い出す気、なくなった?』


 なんでそこで全てぶち壊してくんだよぉぉぉっ!


 今は「ズコー」とか言って滑りたい気分だ。


「うん、あえて言うなら、あなたへの信頼がなくなりましたね。では」

『あっ……』


 神様は何かを言いかけたが、せっかくの感動を台無しにされたのを理由に俺は電話を切った。


 ぬぁぁぁぁっ! 何一つ解決してない。


 ……天使のアンジェかぁ。確かに、うん、かなりかわいい女の子だったけど。いや、俺は絶対認めない!



 ピーンポーンと、本日二度目の家のインターホンが鳴る。


 なんだよ実は神様、天使以外のものも送ってたりして。水臭いなぁ。


 期待を胸に扉を開ける。しかし、残念、宅配便ではない。お隣さんだ。


「……なんだ楓か、どうした? 用事か?」

「なんだ、とは失礼じゃない? それは今はいいや。いや、その今日の夜うちに来ないかなーって。いや、昨日クリスマスパーティーできなかったわけだし! どう?」


 よくわからないがどこぞのツンデレガールになっているような気がするのは置いといて。


「あぁもちろん、行k……」


 言葉を発し終える前に後ろからドアを開ける音がした。


「ああ、ソーマさん。シャワーありがとうございました!」


 アンジェがお風呂場からバスタオル一枚で出てきてしまった。それをばっちり見ている楓。あ、もちろん俺もばっちり見ています。……いやしょうがないじゃん。だってお風呂上がりの女の子だぞ? タオル一枚なんだぞ? 見るに決まってんじゃん。


 そして二人の女の子に挟まれ、完全に行き場を失った俺。


 なんで今出てくるんだよー! と叫びたい。いや、隠してたわけでもないのだけれど。


「ソーマさん、この女性は誰ですか?」


 そういいながらアンジェはオレンジ髪についた水分をタオルで拭いていく。ただ玄関にいる女性のことが気になっているのだろう。


「いやいや、そっちこそ誰よ?」


 それに対して、俺が女を家に連れ込んだと勘違いしているであろう楓。物凄い気迫なんですが。


 なんだ今の状況、昼ドラの修羅場シーンみたいになってるんだけど!


「あのー、楓さん。絶賛勘違い中だと思うんですが違いますからね。んな、アンジェ?」


 とりあえず、楓をなだめる。そしてアンジェを見る。


 『さぁアンジェよ、小学三年生並みの頭脳でもしっかり考えてくれよ?』という視線をアンジェに送った。ついでに気持ち悪いウィンクを添えて。


「はい、ソーマさんとはそんな関係ではないです! ソーマさんとは『一線を越えた仲』みたいなものですよ!」


 アンジェは自分で自分の首を絞める発言、いや、俺の首だけを絞める発言をしているのにも関わらず、ヘラヘラと笑っている。最後にウィンクをしてみせる。


 いや、何「うまくやり過ごしました」みたいなウィンクしてるんだよ。全然大失敗してるからな。


「一線を越えた……仲?」


 楓は絶望的な顔をしながらこっちを見ている。目もちょっとうるんできている。


 え、ちょ、涙浮かべないで! さっきあんなに泣いたのに楓の涙貯水タンクはどうなっているのよ。


「ぬぉぉぉぉぉぉう(NO)、いつお前と俺が一線を越えたんだ!?」


 アンジェを楓の死角である場所まで連れていく。


「だってさっき、『ただの天使と人間』の関係から『契約天使とご主人様』に変わったじゃないですか!」


 アンジェはひそひそ声で耳打ちした。耳打ちってエロくね、と一瞬でも思ってしまった自分が情けないのだが。


「いつお前と契約なんてしたんだよ?」


 そんな詐欺まがいの契約書にサインした覚えはありません。こんな信用度ゼロ+ポンコツといつ契約したってんだ。


「でも確かにソーマさんは『アンジェの居候の許可』をしましたよね」


 あれはアンジェが泣くのかと思って、致し方なく認めただけなんだけど……。


「そんな証拠どこにもないから無効ですぅ」


 小学生レベルの発言なのは許してくれ。マイルールだと「バリア」は何されても無効化するんですぅー。


「証拠ならありますよ?」


 アンジェは真顔で言った。その表情は俺の心臓を「ドクリ」と刺した。


「へ、どこに?」


 動揺したのか声がだいぶ上ずってしまった。


 そんな契約いつしたっけ。覚えがないのだけれど。


 アンジェはその質問を終えるとゆっくりと視線を下にもっていく。行きついた先はどうやら俺の第三の足。あらまぁイケない子ね、はしたないですわ。


「いやいや、どこ見てんのさ」


 俺は恥ずかしくなって咄嗟に第三の足を押さえ……られなかった。


「うん?」


 俺は汗だらだらになりながらアンジェを見た。


「はい!」


 対してアンジェは俺を見て微笑んでいる。


 こいつ、絶対天使の皮をかぶった悪魔だ。そう確信した。


 ない……。もう一度触って確認。でもやっぱりない。何度触っても俺の俺は存在しない。


 そ、そんなまさか……。


 猛ダッシュですぐに洗面台のある風呂場に駆け込む。鍵を閉めると衣服を下におろし鏡越しに恐る恐る下を見た。


「…………なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっいっ!!」


 俺の『ONLY MY WISH』が何度見ても見当たらない。いや、全然希望でもないけど。半ばあきらめちゃってるけど。ってそんなことはどうでもいい。


 どこに隠したあのクソ天使! 食器棚か? ゴミ箱か? ポケットか?


 家のなかで鳴り響く雄たけび。玄関からは楓から「大丈夫? どうしたの?」の一言。ただその返答はできるはずもない。


 涙ながらにアンジェのいるところへ行き、彼女の右頬を強くつねる。


「俺の……、俺の『ONLY MY WISH』をどこへやったんだ!」

「おっいいいいういえうええ……」


 何を言っているのか全然わからないため、頬から手を放した。


「ドッキリに気づいてくれて嬉しいです! 契約の証としてソーマさんのソーマさんは天界にいます!」


 唖然。驚嘆。悲傷。と今の感情を三つの言葉で表現してみる。


 はい? 翼が生えて飛んで行ったとでも言うのか!? 


「すぐ返せぇ! ドッキリで済むと思ってんのか!? おかげで俺のハートがポッキリなんだよ!」


 うまいことを言った自覚は微塵もない。ただ、座布団は3枚ほど欲しい。この前の座布団も併せて生け贄にして、俺のあれをシンクロ召喚してみせるから。


「おお、なかなかやりますねぇソーマさん」

「だろ? ……じゃないんだよ、やかましいわ! これしか契約方法ってないのかよ」


「まだまだたくさんありますよ?」

「最初からそれにしてくれ……」


 でもやっぱり身体の一部を欠損するくらいだから他の契約方法も結構つらいのでは。


「えー、折角面白かったのに……。じゃあ『腕に天使の紋章を描く』でいいですよ」


 アンジェはぶつぶつと不機嫌そうに言っている。ってかそれくらいのことでよかったのかよ!


「じゃあ、左腕でいいか?」


 腕まくりをして左腕を出す。いつ見ても頼りない腕っぷしだ。


「はい。では始めます。《天使の御加護よ、来たれ》」


 俺の左腕を握ると、そう唱えるアンジェ。そして光り輝く魔法陣のようなものが形成される。


 しかし数秒経つとその光色の魔法陣のようなものは黒く色が変わり、光も次第に弱くなり、ついには消えた。「こんなんでいいのか」と言いたいくらいになんか、予想以上にしょぼい。


「あれっ……?」


 何か違ったのか、アンジェが間の抜けた声を出した。契約魔法、とやらもできんのかこのポンコツさんは。

 

「おいどうした。ミスったのか?」

「……いえいえ成功ですよー?」


 少々イントネーションがおかしかったような気がするのだが……。こいつ、絶対ミスっただろ。


「この黒い魔法陣みたいなマークが天使の紋章ってやつなんだな?」


 首を思い切り左に曲げて紋章を見た。天使が作ったとは思えないほど、なんとも暗黒色な紋章だ。


「…………はい! 残念ながらそのしるしは契約が解除されるまで消すことはできません。いくら洗っても無駄ですよ?」


 何か考え事でもしていたのか、アンジェは遅れて返事をする。そして急に改まった、というか調子を整えて話し始めた。ミス確定だな。


 そんなことより大切なことがあったのだ。


 またも猛ダッシュで洗面台のあるお風呂場に駆け込む。


「…………あったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 洗面台の目の前でひとりでに万歳をする俺。感動の涙を流し、へなへなしながら玄関の前へ到達した。


「どうしたの聡ちゃん、疲れ果ててるけど」


 玄関の絨毯に頭から突っ伏した俺を見て、楓が心配そうにうかがってきた。


「ああ、大丈夫。一時的に男性としての尊厳失ってただけだから心配しないで?」

「……? ま、いいや。それで、あのアンジェちゃん? とかっていう女の子は誰なの?」


 俺が言い訳を考案している途中、いつのまにか着替えてきたアンジェも玄関に来た。……毎度場違いなアニメのコスプレ衣装で。


「アンジェは天使なのです!」

「……?」


 困り果てる楓。うん、その気持ちわかる。


「い、いや天使みたいにかわいいってことだよ。しかもアニメのコスプレをする趣味があってさー」


 ナイスフォロー俺。


「で、どんなご関係で?」

「えーと、あれだよ、おじさんのいとこの娘の友達みたいな?」


 あれ、それじゃただの他人では? ってのは置いといて。楓の視線のレーザービームがすごすぎて咄嗟に出た嘘だ、しょうがない。


「そんな身内いたっけ?」


 どうやら気づいていないらしい。楓が学力以外はバカでよかったとつくづく思う。


「あー、うん、一か月前くらいに遺跡で発掘されて……じゃなくてずっと田舎暮らしだったから親御さんが都会というのを学ばせるために……千葉だけど」


 アンジェが古代遺跡のオーパーツ、というのはあまりに無理がありすぎたのでまた新しく即興で嘘を上塗りしてみた。千葉が都会というのは疑念が残るが。


 あまりに即興の嘘すぎてハチャメチャなことを言ってるような気がする。大丈夫か? 某海賊団の長鼻君すごすぎだろ、初めて尊敬したわ。


「へー、そういうこと。うん、理解した。じゃあアンジェちゃんもクリスマスパーティー来る?」


 どうやら楓の脳内では千葉は都会だったらしい。いやほんと政令指定都市でよかった。モノレール万歳。


 いや待て、なんでアンジェを誘った? 何爆弾増やそうとしてるの? 今夜はペットフードとキャットフードの炒め物を食わしてあげようと思ったのに。


「いいんですかぁ! もちろん行きます!」


 アンジェはよだれを垂らしながら楓の誘いに乗る。


「じゃあ、19:00に南雲家で待ってるから二人とも忘れず来るように! じゃあね」


 楓はそう言い残すとドアを閉めて自分の家へ戻っていった。


「ふぅ、危ないところだった」


 額に流れ出た汗を拭う。


「よく頑張りました、ソーマさん! そしてそんなソーマさんに頼みがあります」


 ほんとだよ。俺なんも悪いことしてないのにな。悪の根源全部お前じゃん。


「はぁ……。んで、頼みってなんだ?」


 一応聞いてあげる。あー、優しすぎるぜ俺。


「アンジェ今お風呂上りじゃないですかー」


 クラスに絶対一人はいる「じゃないですかー」使いかよお前は。もうすでに何かねだろうとしているのバレバレだぞ。


「ああ、そうだな」

「お風呂上りと言えば『牛乳』じゃないですかー」


 ちなみに俺はコーヒー派。はい、意見が合わないので嫌い。


「ああ、そうだな。牛乳なら冷蔵庫にあるから取っていいぞ」

「でもアンジェー、〇×牛乳しか飲めない体質なんですぅ」


 なんかだんだん言い方に腹が立ってきた上、何をしてほしいのかも推測できた。


「で、俺に買ってこいと」

「えへへ、物分かりが良くて助かります」

「やだ」


 なんでアンジェのためにそんなめんどくさいことしなきゃいけないんだよ。断固拒否。無理。天界に帰るって条件なら喜んでパシられますけどね。


「じゃあ、ソーマさんのソーマさんがまた天界に旅立ってもいいんですか?」


 アンジェは透き通るようなにっこり笑顔。何故そんな純朴な目でいられるのか俺には不思議でならない。


「うぐっ……」


 しかしそれを言われてしまうと何も言い返せない。

 くそっ、このクソ天使がぁぁぁぁっ。


 俺はその思いを胸に今、自転車で近所のスーパーへ旅に出る!

まとめてしまって五千文字越え。大丈夫か

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