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俺の人生初ラブコメが、想像以上に非常識で前途多難な件について。  作者: 小林歩夢
episode1 死んだ→神様に会った→生き返った→天使来た。 は?
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4 幼馴染は生粋の抱きしめ魔

 事故の衝撃や急激にきた疲労の影響か、救急搬送されている途中で眠ってしまったようだ。


 起き上がってみればここは病院。何回かお世話になったことのある海から近い総合病院である。


 腰が凝りそうな固めのベッド、清潔そうな純白のシーツ、安めのパイプ製の枕。その上で俺は眠っていたのだ。


 視線の先にあった白い壁にかかっている時計の短針はすでに六を通り過ぎたあたり。いつの間にか朝になってしまったようだ。


 時計の時間が間違えていないかどうか確かめるため、俺は近くにかかっていた空色のカーテンを開ける。病院の外にあった大樹の隙間から朝日が漏れているらしく、その残光が俺のいる部屋をささやかに照りつけていた。


 そんなほんのりと眩しい木漏れ日の暖かさを感じたのは俺だけではないようで。


「んっ……」


 窓の反対側から可愛げのある小動物のような声がした。


 俺以外に誰かいるのかと、興味と恐怖が入り交じった感情のまま声の主の元へ振り返る。そこにいたのはなんときれいな聖女様……ではなく楓だった。ベッドの隣に置いてあった丸椅子に座り、頭をベッドに乗せながら眠っていた。


 楓は急にカーテンを開けたからであろう、少しいやそうな顔をしながら寝ている。


 わざわざ病院まで泊まり込みで来なくてもよかったのに。しかも泊まり込みってことはクリスマスパーティしてないってことだよね。流石にそれはそうか。でも、ごめんなさい南雲家の皆さん。


 さらに言えばここ個室だよね。お金……はいいんだけども。本来だったら病院の廊下においてある長椅子でもよかったんですし、なんかいろいろな器具が取り付けられているし、無傷なのになんか申し訳ないなぁ。


「ふぅ……」


 俺は安堵と若干のやましさを溜息に乗せて宙に放つ。


 そして毛先がウェーブがかかった茶髪頭に手を伸ばした。……不自然かもしれないが、なぜかそうしたいのだ。


 頭までの距離が残り五センチほどになった、その時だった。ぴくりと彼女の頭が動く。それに驚いて急いで手を放す俺。


 本来どこにも届かず空気中の塵となって消えるはずだった先ほどの溜息が楓の耳に入ったらしい。


 楓のまぶたがゆっくりと開く。


「うーん……。聡ちゃん? 聡ちゃん!」


 俺を見るとすぐ目を見開いて、犬のように飛びついてくる。そしてまたも強く抱きしめられた。今度は俺の胸に顔をうずめながら号泣している。


 『抱きしめ魔』なのコイツは、と。そう思ったが、逆にそれが当然の行動のような気がしてきたため、そのままにしておく。


 今回はしっかりとした美少女の抱擁だった、というのも七割くらいはあるが。


 幼馴染じゃなかったら――うむ、この一言に限る。


 こんなシーン見られたら絶対に妬まれるだろうなぁ。特にあいつは危ない。多分嫉妬全開で俺のことを殺しにかかるだろう。


 それくらいこの幼馴染――南雲楓の学内での人気は凄まじい。確か今年行われたミスコンでも二位だったらしく……。定期テストは毎回一位を独占。体力テストは堂々のA評価。


 楓はいつも想像以上、いやさらにそれ以上を行く。俺とは立っている土俵が違うのだ。


 抱擁はかなり長く続いた。


「いや、落ち着いてくれ楓。でも心配かけたみたいでごめん」


 これ以上は幼馴染でも限界だと思ったのでなんとかして楓を引きはがす。


「だって、私のせいで、聡ちゃんが死んじゃったと思ってぇぇぇぇっ!」


 また抱き着こうとしてきたので、今度は楓の頭をなんとか押さえる。


 だめ、これ以上は俺の理性コントローラーが危ない。爆発は回避すべき、いや、しないと今度は俺の人生が危ない。


「まあ、俺は生きてるからさ。特にケガしてるわけでもないし」


 少しばかり落ち着いた楓に元気さを見せるため、上腕二頭筋を出した。


 ……残念ながらあるのかどうか怪しいレベルの上腕二頭筋。まさかこんなところで貧弱な体つきをさらしてしまうことになるとは……。


「……大丈夫?」

「やめて! その心配が俺の心を傷つける!」

「え、うん。そんなつもりじゃなかったんだけど……っとりあえず、先生呼んでくる!」


 楓はそう言うと猛ダッシュで病室を出て行った。


「……とりあえず生き返ったことだし、神様にも電話しないとな」


 近くの机に置いてあったスマホを手に取る。きっと事故の時についたのであろう、大きなヒビが入っていた。しかし電源は入れることができたため、一安心するとすぐに電話帳をチェックする。


 見つけたのは『神様』のメルアドと電話番号。


 へぇ、神様ってソフ〇バンクの携帯だったんだ。どこまでも期待をうらぎらないよなぁ。


 080-××××-〇〇〇〇、っと。


「えーと、もしもしー。俺です、柊城聡馬ですー」


 まるで部活の先輩にでも電話しているような感じ。したことないけど。部活入ったことないけど。


『もしもし、神様じゃ。電話してきたということは無事に生き返ったようじゃな』


 出たのは代理のアロハシャツを着たおっさん、ではなく神様。確かにあの時の声である。夢とかではない。


「はい、おかげさまで。少し寝てしまって病院なんです、連絡が遅れてすみません」

『いいんじゃ。あとどれくらいで退院できそうなんじゃ?』

「うーん、今日の正午には意地でも抜け出しますよ」


 無傷です、と連呼でもしておけばどうにかなるだろう。強制ではないんだし。


『ちょうどよかった。でも無理はするんじゃないぞ?』

「何がちょうどいいんですか?」


 気になるフレーズを聞いたので、謎の自分の解決欲からか、俺はすかさず質問する。


『ああ、神の御加護が今日の15時くらいに着くらしいからの』


 時間指定配達とかAm〇zonかよ、とそんなツッコミを隠し切れない。


 きっと家の中で魔法陣でも発動してその中から『神の御加護』とやらが出てくるのだろう。


 傍から見ればヤバいやつ認定されそうな程の思考である。しかしすでに『生き返り』と『神様との遭遇』というどこぞのファンタジー感満載な出来事を連続して体感してしまったわけで。


 こんな現実離れしていたら、そりゃ俺の考えもおかしくなるわ。


「ええ、わかりました。では楽しみに待ってます」

『じゃあ、楽しい青春をおくるんじゃぞー』

「ありがとうございます、切りますね」


 耳からスマホを離すと、神様との電話を切る。


 いやはや、神の御加護っていったいどんなモノが配達されるんだろう。気になって仕方がない。


 そわそわしながら俺は、壁掛け時計の『3』を強く見つめた。


「聡ちゃん、お医者さん連れてきたよ」

「少し検査をするよ。いいかい?」

「はい」


 楓がまた猛ダッシュで病室に戻ってきた。いかにも「できそう」な若い男性医師を引き連れて。


 まぁ検査といってもなんの異常もないんですけどね。


 ――五分後。


「まったく、わからない」


 少し困り果てた顔をする若い医者。


「何がですか?」


 と、何が言いたいかわかるのだが、俺は何も知らないふりをする。しらばっくれていた方が無難だろう。


「確か救急隊員の話だと大型トレーラーにはねられた、なんだけど間違いないよね?」

「え、はい。多分あっていますが」


 それを聞いた若い医者は頭を抱えた。


「なのに打撲も骨折もないどころか、出血多量だったはずが治療を始めた時には傷跡すらなかった。もう、医学のレベルでは説明ができないよ。神様のおかげとしか……」


 あきらめてはいるけど大正解、この医者当てちゃったよ。もうちょっと神様にはうまくやってほしかったなぁ。もしあの場でもし機転を利かせて倒れてなかったら、もっとやばいことになっていたんじゃないか?


「よかったぁぁぁぁっ!」


 横から飛び込んでくるのやめてください楓さん。勘違いしちゃうでしょうが。


 また楓を引きはがす。


「どうする? 一日休んでいくか、それとも退院するか」

「じゃあちょっと休憩したら退院します」


 『神の御加護』が届く時間には家にいないといけないしな。でも急ぐ必要はないだろう。


「わかった。またなんかあったら呼んでくれ。あとそこの彼女さんにも感謝するんだよ?」


 そう言うと、若い医者は楓を見るとクシャっと笑った。


 だから彼女さんじゃないんだけど。どう見ても釣り合ってないじゃないか。そんなに彼女にみえるの? むしろ光栄ですけどね。


 そして俺公認の『できる』医者は部屋を出て行った。


 また、この幼馴染と二人っきりになる。


 さすがの楓も『彼女』と言われ、動揺したようだ。その態度、好きになりそうなのでやめていただきたいのだが。


 とりあえず、話でもしよう。なんかねーかな。うーん。……あっ!


「あっ、そーいえば、クリスマスプレゼント! あれ、死……意識失う前に渡した、よね?」


 あぶねー、あぶねー。思わず口走っちゃうところだったよ。このことは墓場まで持っていこう。


 それにしてもあの時は自分でも何を考えてたのかわからない、とっさにプレゼントをポケットから出していた。俺に似合わずかっこよすぎだろ。どこかの有名俳優がやれば日本中の女性がみんなキュンキュンしちゃうよね。


「これでしょ、やっと気づいてくれたー、記憶なくしちゃったんじゃないかと思ったよぅ」


 と言うと、彼女は頭を近づけて見せてくる。


 あ、ほんとだ。確かにあった。なんで気づかなかったんだろう。


 そう、今年俺が楓にプレゼントしたのは『ヘアピン』だ。雪ウサギが飾りとしてついているやつ。無難と言えば無難。年頃の女子に何をあげればいいのか物凄く迷ったけれど楓に似合うだろう、と思ったのを事前に買っていた。


 そうそう、買うの大変だったんだぜ。お店には女子か、リア充みたいなやつしかいなかったし。いざ勇気を振り絞って店に入ったら、店員さんに「彼女さんへのプレゼントですかー? でも……もしかして……」って言われたし。


 絶対「でも……」の後続の言葉って「彼女とかいなさそうですよね」だったに違いない。多分「もしかして」の後続の言葉は「自分用ですか」だろう。あの焦り具合を見ればわかる。


 もうあんな失礼なお店二度と行きたくない。体力消費がえぐい。怖い。ちょっとトラウマ。


 でも、行ってよかったと思う。気に入ってくれたみたいだし。かわいい女の子にアクセサリーなんて関係ないけど、似合っている。


「いやさすがにもうつけていてくれたとは思わなくて。うん、とても似合ってるよ」

「へへー、ありがとう。そうそうクリスマスプレゼントと言えば、私からはこれ!」


 楓は近くにあったバッグから何かを取り出している。


 そして「はい!」などと男がイチコロになりそうな笑顔を向けて渡してくる。幼馴染の俺はゼロコロだけど。なにそれかっこいい。


 俺が楓から受け取ったのはワンセットの群青色の毛織の手袋だった。見ているだけで温かそう。


「ありがとうな。でもいつこんなの買ってきたんだよ。あそこの店か?」


 あそこの店とは事故現場の近くにあった、あの衣服店のことである。


 救急車には一緒に乗っていたから病院から行かないといけないし、でもここからあの店って結構遠いよな。


「んーん、それ手作り……」

「……えっ?」


 え、これ? これ手編みなの? 一日で? レベル高すぎだろ! 普通に売っていても気づかないぞ。


 さすが完璧人間。


 いやいやここで重要なのは『手作り』だということ。


 柊城聡馬脳内会議の開幕である。


 初めての女子からの手作りだぞ、しかも南雲楓の。男子に言ったら最低半殺しはまぬがれないような気がする。


 柊城聡馬脳内会議閉幕。議論の結果、「死なないように頑張る」が採択。


「……って手作りだし完成度が情人離れしすぎてすごいのは置いといて。これ病院でつくったのか?」

「うん、病院から裁縫道具とかいろいろ借りて」


「最近の病院はすげぇんだなぁ……。ありがとな、大切にするよ」

「……」

「……」


 長い沈黙にこの部屋は包まれた。


 プレゼント交換なんて普通カップルがやるものだ。今更ながらそんなことが急に頭の中で湧いてきて、流石の俺もとてつもなく恥ずかしくなる。きっと向こうが黙り込んでしまったのも同じ理由だろう。


 意識するな、意識するんじゃない俺。幼馴染とは言え、ほぼ家族だぞ。ある意味俺の双子の妹オア姉。でも家族内というのはある意味刺激に……ってばかじゃねぇの俺。ぶっ殺すぞ。


 自分に謎の殺害予告を送信したところで落ち着いた。


「とりあえず、帰ろうか」

鈍感なのかな。

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