aLice IN (uncer) wonDERlAnd 7 -Cracks of Alice-
ナインは、アロマ様の角を好いていた。
アロマ様のくるくるホーンはとても素敵だと思うのに、あの方は自らの角に対して、どこか劣等感を覚えているような振る舞いを見せる。
あまり敏感ではなく、特に生活に役立った覚えはないと聞く。何のためにある器官かは、自身でも御存知ではないらしい。
ただ、幼い頃は頭が大きく見えるのが嫌だった、と。今では一見、さして気にしておられないように感じるけれど。
……角自体の神経は鈍くとも、表面のざらつきに爪を立てられると、その振動が直接頭蓋に響いて、それがちょっと気になるとも仰っていた。
彼が、姿勢良く椅子に座っているアロマ様にその通りの事をした時。あの方は振り払うでもなく、ただされるがままに任せていた。
それを覗き見てしまった私は、胸の中身をなぞられたかのように、心臓がざわめいた。
私の耳を触るだけでは足りない? ふかふかだよ。
……そんな堅いのの方が良いの?
◇ ◇ ◇
宰相としての執務が終わりきらぬうちに、小さな胸騒ぎを覚えた私は、休憩がてらクリスの様子を見に行った。
扉を開けると、いつかのようにベッドの上でぼんやりしているでもなく、床の上で一人遊びをしているでもなく、机の上で何事か書き付けているでもなく。
……彼女の姿が見えない。
不安になって部屋の中に歩を進めると、切羽詰まった声と、押し殺したような泣き声が耳に届いた。
何かもみ合うような、剣呑な騒がしい音も。
慌てて聞こえた方に向かうと、クリスは、部屋の窓から外に飛び出そうとしていた。
それを、アリスが必死に止めようとしていた。
「な……!」
「アロマ様! 丁度いいところにッ、……はや、くっ、手を貸して!」
あの子が敬語すら省くほどの、焦り。
慌ててクリスの腰に手を回して引っ張ると、体格で劣るアリスだけでは確かに抑え込めないような力が手に伝わる。
「んー……んぅうう……!」
いやいやと首を振ってむずがるクリスの手を無理矢理窓枠から引っぺがすと、三人ともが反動で後ろに転がった。
途端、今までの暴れようが嘘のようにぽかんと天井を見上げ、仰向けに倒れたまま起き上がらないクリス。
息を切らせて、青い顔をしたまま、こちらに申し訳なさそうな顔を向けるアリス。
状況が読めぬまま、ただ直前の危機を乗り越えた安堵で大きく息をつく私。
……最初に口を開いたのは、アリスだった。
「水差しが……切れましたので、その……」
「この子から!」
「――っ」
彼女の声が呼び水となって、焦燥感と、そこからの弛緩ゆえの怒りを向けてしまった。
びくりと肩をすくめるとともに震えた狐耳に向かい、悲鳴を上げるように、怒鳴りつける。
「陛下から目を離すなと! あれほど言ったでしょう!」
「は、そのっ、すみません!」
この言葉は、道理によってか、感情によってか。
間違いなく、後者。
……クリスの看護を、いや、介護を任せているのは、今のところアリスだけだ。
それがこの子に、どれだけ負担をかけていたものだろう。
だけど、もう限界……考え直す必要がある。
追加するのは、それでも僅か数名が限度だ。救護班の中でも特に口の固い者をあてよう。
アリスにはそもそも、この手の専門知識がない。それでも彼女の世話役としたのは、彼女の病状を最初から知っていたから。
彼女の状態について知る者は、一人でも少ない方が良い。その私の判断は、間違っているとは言い切れないと信じたい。
……ナインがいなくなってから、半年。ずっとクリスの面倒を見ていたアリスの疲労もきっと、限界に近い。
少し業務を減らしてあげなければ、彼女が壊れてしまう。本当に、こういうのは……辛い仕事だから。
今回のように危うく命にかかわる……そんな事態を見越さなかったのは自分の責任だ。
彼女の事だけを考えていられないほどに、今は慌ただしい時期だった。
いいや、こんなもの言い訳にもならない。予見は出来た筈なのに。
僅か前に、ようやく取り戻したディアボロの城。今いるこの隔離塔の部屋の窓からは、ナインが最後にいなくなった玉座の間が良く見える。
……ああ。
もう。
「……後ほど、窓枠に格子を付けましょう。その手配を」
「承知いたしました、アロマ様」
これで私は、また。彼女の行動に一つ、制限を付ける事になるのか。
これではまるで、牢屋のようではないか。
「アリス、それが終われば貴女は日が落ちるまで休みなさい。私がその間は様子を見ていますから」
「え? ですがアロマ様、それは……」
「下の者には、私が戻るまで進められる仕事を任せています……貴女まで倒れてしまっては元も子もありませんからね」
一礼して部屋から出ていったアリスを見送った。あの子を怒鳴りつけた事に、申し訳なさと罪悪感がある。彼女には過度な負担を強いている。
……クリスの方に視線を向ければ、先ほどまでの狂乱ぶりが嘘のように大人しくしていて、こちらに焦点の合わない目を向けたまま、しかし何も喋らない。
ああ、今日は駄目な日だったのか。
「…………」
床の上に寝転ばせたままでいさせるのはあまりに忍びなく、クリスの脇に両手を添えて起き上がらせると、先ほどとは打って変わって体に力の入っていない彼女は、両足をアヒルのように畳んだまま座り込む。
彼女が無事でいた事は何よりだけど。
こちらの心配や苦労をとんと知らぬげなその顔つきには……思うところが無いわけでは、ない。
「……何故あのような事をしたのですか」
こんな時のクリスには、こちらの言葉など伝わらない。分かっていながら、言わずにはいられない。
事実、彼女は何を言われているのか理解できないと言いたげに、首を傾げた。
「貴女様の行いは、皆に心配をかけているのですよ。ご自身を大事になさいますよう、幼い頃より教わってきた筈ではないですか」
「んぅー……?」
…………。
「……本当は、分かっているんでしょ? 私が怒っている事も、自分が悪い事をしたのも」
…………。
「返事をなさい。貴女がこのままでは我々にも、貴女自身にも未来など……」
「あーぅ」
クリスは、こちらから目を背けて、床に散らばっている積み木に手を伸ばした。
持ち上げては、落とす。
持ち上げては、落とす。
その規則正しい単調なリズムが、どうしようもなく癪に触った。
たまり続けたままの欝憤が、そんな些細なきっかけで。
今の今までこらえ続けていた不満が、何がどう作用したものか……この小さな、だけど耳障りな音の所為で。
積み木の音よりさらに小さい、ぷつり、という嫌な音が聞こえた気がする。
――堪忍袋の緒が切れた。
「っ、クリスッ! こっちを見なさい!」
「…………ぅあう」
語調強く言うと、彼女は怯えた顔で、その手から木片を落とした。
それが……本当はこちらの言葉を理解しているのではないかと……そんな筈はないのに、そう思わせてくれるものだから。
今日は駄目な日だから、そんな筈などないのに。
「貴女は昔からそうでしたわね! 都合の悪い事からはすぐに目を逸らす、そのくせ最後は他人頼り! 挙句、今のこの有様……私がどれだけ貴女の尻拭いをしてきたか、本当に分かってるの⁉」
クリスは、じっとこちらの眼を見て、すぐに逸らす。
「面倒くさい事も汚れ仕事も、いつも私がやってきたのよ! あんたなんか何も出来やしない癖に、ええ、王ですからね、貴女は何より気高い象徴である事が求められた、だからそれが許されて……なんで、なんで貴女が! なんで私じゃなくて……貴女が……っ!」
クリスはその紅い目をキョロキョロと左右に泳がせる。
「――魔族達を救うだなんて! 出来もしない夢を皆に見せて! そうやって幼児のように、それが貴女がやりたかった事なの⁉」
クリスは指を咥えて、こちらと目を合わせようとしない。
「いつまで逃げ続けるつもりなのよ! ……貴女がいつまでもそんなんだから、私はねえ、これまでずっと……」
クリスは、低い唸り声を一つ上げて、額を床にこすりつけた。
「誰かに甘える事も出来なかったのよ!」
クリスは、不意に立ち上がった。
「……え」
ふらふらしつつも、何かしらの意思を感じさせつつ向かう先はまた窓の方向で、思わず呆気にとられながらも慌ててその手を掴む。
「何をして……! クリス貴女、いい加減になさ……ッ!」
再度、怒鳴りつける。彼女の両肩を掴んでこちらに振り向かせた瞬間……頭の中が、一瞬真っ白になった。
彼女は泣いていた。ポロポロと、その双眸から惜しむことなく、あまりにも唐突に、沢山、涙を溢れさせていた。
「ごえんらさい、マーちん、ごえ、ごえんなさいぃ」
血の気が失せたのが自分でも分かる。背中に氷柱を入れられたような、そんな感覚……!
「お、お姉ちゃん、怖い顔してるから……! あたし、もういらない子なのかなって……!」
……『マーちん』と、『お姉ちゃん』。口調も舌っ足らずだったり、明瞭になったり、定まらない。
混濁している。失敗してしまった、最悪だ。
駄目な日じゃない、読み違えた、不安定な日だったのか……。
……それであの子は今、何をしようとした?
窓に向かっていって、自分がいらない子だと言って。
何を。
決まっている。
考えたくもない事だ。
「みんなに迷惑かけてばっかで、あたしなんかいらないんだって! いなくなっちゃえばいいのかなって!」
「……っ」
その言葉で、今までの怒りや焦り、不満や、恨み……全ての彼女に対する悪感情が吹き飛んで、身体が勝手に動くままに任せた。
「そんな事言わないで! お、お願いだから……!」
「ひう」
私の両腕が、クリスの身体を思い切り抱きしめた。
どこにも行ってしまわないように、きつく。
「ごめんねクリス、ごめんね……! 貴女は何も悪くないの! ごめんなさい、私が全部悪いの、私が弱いからいけないの……!」
「違うの、悪いのあたしぃ……あたしなの」
「違う……貴女は何も、わ、私が、全部、元はと言えば、私が貴女に全部押しつけたから……! だからもう、自分がいなくなればいいなんて、そんな事言わないで!」
「……お姉ちゃ、泣いちゃめーよ。めぇだからね」
「ええ、私もちゃんと強くなるから……! ごめんねクリス、ごめんねえ……!」
クリスの手が、おずおずと私の背中に回される。
彼女の翼の先端が、覚束ない動きでゆるりと……そっと私の頬に降りて、涙を一つ掬ってくれた。
――そのまま、どれくらい経っただろう。彼女は泣き疲れて眠ってしまった。
大人の姿をしたクリスが、子供にしか出来ないあどけない寝顔を見せるまで、私達は抱き合ったままだった。目元を腫らしたまま、また彼女は、今日と言う日を過ぎ越していく。
明日になれば、今日の事も覚えているのだかいないのだか。
全てを忘れたまま曖昧な時間と世界に生きる、私の可愛くて、愛しくて……誰より憎い妹。
……私は今までクリスに全てを背負わせておきながら、そして今度は、エルちゃんにまで……。
……『お姉ちゃん』。
深い意味なんてないんでしょうね。
ただ、今の心の幼い貴女から見て、私は大人のお姉さんだからそう呼んでいるだけ。
だけどねクリス。貴女のそのお姉ちゃんって呼び方はね?
私を壊すには、十分すぎるのよ。
◇ ◇ ◇
――私は、アロマ様が陛下を抱きしめた様子を扉の陰から見届け、そっとその場から離れた。
「……やっぱり」
アロマ様。貴女も、甘えたかったんですよね。
私もです。私もそうだったんですよ。
だから、ナインに甘えました。
……貴女は、私にとって全てでした。ナインは、そうではありませんでした。
私はただ、彼に捕らえられてしまっただけなんです。
彼は私に償わなければなりません。彼は、私に負い目がありました。
だから、私は彼に、甘えることが出来ました。
貴女は、そんな私に気付くことが出来ませんでした。
貴女も、所詮は、ただの女の子でした。
……貴女に全て依存しようとして、壊してしまってごめんなさい。
私なんか、貴女の半分にもなれませんでしょうが、それでも、ほんの少しは貴女の一部分であって、そして間違いなくお荷物の一つであったのでしょうね。
…………。
私は、彼の寝床に戻る。
……ここは彼が一番長く過ごした場所。それだけ。今はもう、彼の匂いは残っていない。
彼にあげた毛布を――やっぱりこれも埃塗れだったので、払ってから――被って、そのまま暗闇を睨み続ける。
眠りに落ちないまま、目を見開いたまま、寝返りもしないうちに一刻ほど経過した。
彼の記憶を喚起する場所は、駄目だ。今更だけど、美容と健康に良くない。考えることが多すぎて眠れなくなっちゃう。
……疲れたまま仕事して、風邪ひいたり怪我したりしたら、彼はきっと悲しむ。
まだ時間はあるし、体内時計には自信がある。もうちょっと体を休めとこ。
……固まった体を、ごろりと半回転。鼻は利く方だけど、彼の匂いはもうどうやっても捕らえれない。くんくんと嗅いでみても、僅かな残滓も感じられない。
自分の匂いしか残っていないけど、まあいい。彼が帰ってきたときにこれを嗅いでくれれば、それもいい。私の事を思い出してくれたなら、なおいい。
……帰ってきたとき……って、それはいつになる? そもそもナインは……無事なのかな?
陛下がいて、あの方は結局傷一つなくて、どうしてあの子だけがいなくなったの?
謁見室に残ってた大量の血痕は、誰の?
……ねえ?
この城にいる者は、誰も答えられない。
『ナインは帰ってくる。ウチは……そう信じとる』
……ふふ。
ピュリアってば、強がっちゃってさ。
ハーピーの皆に拝み倒して情報を集めてたの、私知ってるよ。
……何かしてないと、不安でしょうがないよね。それは、そう。分かるし。それはそれでいいと思う。
先行きの見えない不安は、心を苛む。だけど問題の解決の糸口となる何かが見つかれば、それは光となって未来を明るく照らしてくれる。
今はまだ。だけどいつかは。
生きていれば、いつか見つけられる。そういう希望を持つのは大事。
『生きていれば、いつか見つけられる』
『生きてさえいれば』
『いつか』
『いつかは』
……それはいつ?
「……う」
……こんな曖昧な言葉で、何が救われるというんだろう。
「ううぅ……」
あの子は、今、ここにはいない。
「うう……」
「う、ふふ……」
「うふふふふ……」
……帰ってきたとき……って、それはいつになる?
ふふ、そのうち。
そもそもナインは……無事なのかな?
……体のあちこちがボロボロだった、無事な訳がなかった。
でも、生きてた。
陛下がいて、あの方は結局傷一つなくて、どうしてあの子だけがいなくなったの?
……言っていいのかな。いいよね。
全部陛下の所為だよ。あの方がナインを生贄にして、のうのうと今も、あんなザマで。
アロマ様まで苦しめて。
謁見室に残ってた大量の血痕は、誰の?
ナインのだよ。舐めて確かめたもん。色で分かったし、味でも分かった。
……ねえ?
他の誰も、彼が今どこにいて、どうしてるか。知らないよねえ。
私は知ってるよ。
教えてあげないけれど。
「く、ふ、ふふふっ」
よりにもよって、という感じ。
まさかね。
まさかピュリアが、エヴァ様にねえ。私に内緒で、あそこまで縋るなんてね。よくできたお話だね。
最後の罪悪感が、ああやって私を誘わせたのかな。
ねえピュリア、貴女もズルしたもんね。だから私もズルしていいよね。
皆、滑稽だよ。
セルフィさん。貴女もだよ。私は貴女の事、分かるよ。
ほんとは、カイネっていうんだってね。貴女が悪魔だったんだね。
……貴女がメルクリウスだったんだね。
知ってるよその名前。貴女、故郷のリール・マールじゃ有名だもん。
言い伝えと姿が違うから、実はただの偽物かな? 別にどうでもいいけどさ。
「あはっ」
……ボルトも迎えて、三人で暮らそうか。アロマ様は来てくれるかな。そしたら四人だ。
陛下は駄目。殿下も駄目。ガロン隊長も駄目。
ピュリアは……んー、やっぱ駄目。
エヴァ様も駄目。人間モドキは、駄目。私が許す人間はナインだけ。
……半人半魚は、もっと駄目。あいつムカつくんだもんさ。
「くふっ、くふふふふ……」
どんどん増やそう。なんなら、ボルトのお嫁さんも見つけてあげてさ。
ねえナイン、私ね、子供、ぽんぽこ産んであげる。アロマ様にも産んで貰お。
そうして、どんどん増えよう。地に満ちよう。私たちで世界を満たそう?
この小さな狐が、ねえナイン? 貴方の世界を埋めてあげる。全部全部、隙間なんかないくらい、見渡す限りにびっちりとさ。
吸血鬼の軛も振り切って、この私があなたの欲しかったもの、全部あげる。そうすれば私の欲しいものも手に入るんだ。
お互いが最高に幸せ。否も何もない。コレが貴方の幸せなの。私が幸せなら、貴方だって幸せ。そうでしょう? そんな事言ってたもんね。
これこそが、生きる上での至上の幸福。分かって……くれるよね。
……そう。これが私の幸せの形。
貴方のくれた綺麗な絶望を塗りつぶせる、私の信じる幸福の色。
「ふふ……あはっ、アハハハッ! キャハハハハッ!」
――まっさらになったあなたにかぞくをつくってあげる。このアリス・クラックスが。
壊れた陛下もいない。
壊れてる殿下もいない。
壊された人狼も、抜け駆け好きのハーピーも、俗物の人間モドキもいない。
彼女らがいない世界で、彼女らを恋しがる貴方を抱きしめてあげる。あの小汚い蝙蝠からだって守ってあげるよ。
そうしてたら、そのうちきっと。
私の事しか見られなくなったら、きっと、私以外の誰かの事なんて考えられなくなるはずだから。
それがナインのあるべき形。私が決めた。もう決めた。
……だって私はもう、この欺瞞だらけで、優しくない世界に疲れちゃったから。
「待っててねナイン、あたしがね、今からお迎えよこしたげるから。アイツラにもそん位の仕事はあげるの! どっちでもいいの、駒鳥でも、半端者でも、どっちでもいいの! あんたがあたしのとこに来てくれるならさ!」
……だから待ってて? あたしを待っていて? あたしが貴方の居場所になってあげるから。
「アハハハハ……笑わなきゃ……ナインは、笑顔が好きって言ってたからね……そうだよね……?」
「キャッハハ、はは、あー喉痛い……あはははは、あーこれ違った。ひひひひひ、だっけなあ。悪趣味ぃ……」
……アンタがずっと放っておくのが悪いんだよ、ナイン。お姉ちゃん、寂しいって言ったのにさ。
ねえ……ほら。見てよほら。こんなんなっちゃったじゃん。
撫でてよ。笑いかけてよ。
……また、あたしの事、からかってよ。
構ってよ。構えよ。一人にしないでよ。そんなの契約違反じゃんか。
……あたしの事、愛してくれるって言ったじゃん。
嘘つき。
……寂しいと死ぬって、あたしちゃんと言ったのに。
それなのに、アンタが構ってくれなかったからさ。
お姉ちゃん、壊れちゃったじゃん。