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嫉妬

 ……身を寄せ合って寝ている彼らは、いずれも身なりはあまり良くない。


 頭目は、優秀であると聞いている。拠点がある場所の有力者から身代金を取ろうとか、そんなことを考えるほど短慮な男ではないだろう。

 であれば、やはり貧乏なご家庭から同意も無しに掻っ攫ってきた……とか。どっちみちあんまり上品な行為ではないよなあ。


「……? そこに、誰かいるの?」


 気配に気付いたのか、もぞりと数人が起き出してきた。


「おっと、起こしちゃったか。失礼しました坊や達」

「ひ」


 こちらの声を耳にした途端に、寄り添いあう彼らの中にざわめきが広がり、寝ていた子も起き出し始める。


「ああ、どうか怯えないで。別になんもしやしませんて」

「お……じさんは」

「お兄さんね。お兄さん」


 ……今はお姉さんのつもりだったのに。そんなにイケてないのかしら。

 おっかしいな、鏡で見たら結構悪くないというか、開けちゃいけない扉開きかけちゃう出来だったのに。

 なんか傷ついちゃうわー。ため息出ちゃうわー。見てほら今のあたし可愛くなーい? モテカワすりむ―。


「……お、お兄ちゃん。僕らの事が見えてる……の?」

「そりゃ見えるよ。何さ、君ら幽霊だったの?」


 だったら無駄足だったのかなあ、せっかく態々来てみたけれど。


「ほんと!? お、お願い、僕らをここから出して!」


 ……まあ、僕の突飛な思い付きも、見当外れではなかったようだし。目的が果たせるのなら、それでいいか。


「いいよぉ。ちょっと待っててね、ええと、鍵とかは……」

「こっちから見て、右の端っこにある! お願い、早く助けて!」

「んもぅ、せっかちさんね」


 ……子供達はあんなにくっきり見えるのに、階段を降りてから妙に辺りが見辛い。手探りで見つけてみたが、えらくごっつい錠前だ。どうしたものだろう。監禁場所の傍に鍵なんか、当然保管しないだろうし。

 流石に上に戻って鍵を漁るのは……絶対見つかっちゃう、怖いなあ……。でも、こんなの壊せないし……。




 ――大丈夫よ、貴方なら。やる前から諦めてどうするの――?




 ……?

 なんか大丈夫そうな気がしてきた。イケるかな。


 えい。


 ――メキ、と軋む音がして、僕の右手の中で金属が粉々になって、地面に落ちる。


 ちゃりちゃり、と床に響く固い音に、子供たちは小さな歓声を上げた。


「うわ、鍵壊せたの!? すごいすごい、お兄ちゃん凄いや!」


 イケた。

 ……イケたけど、これ、鍵としてどうなの? 役目果たせてなくない? 錆びてたのかなあ、見掛け倒しなこと。


 騒ぎを聞かれることを恐れてだろう、密やかに喜びの声を上げながらこちらに子供が寄ってきて、格子扉をゆっくりと開けてきた。

 わさわさと剣呑な部屋の中から出てくる彼ら。その中の一番年嵩な様子の少年が、ぺこりと頭を下げてきた、が。


「どっち向いてるの」


 見当違いな方向だ。こっちだよ、と伝えると慌てた様子で、こちらから手の届く距離まで寄ってきて顔を見上げてきた。

 かと思えば、小首を傾げてくる。


「あれ? お姉さんだったの? でも声が……」

「お姉さんのつもりだったけど、もうその自信は失われたよ」

「……? お兄さんでいいの? だけど、髪……」


 いまいち話が噛み合わない。不思議に思うが……噛み合わないのは、話だけじゃなくて、目線もだった。

 こんなに近くにいるのに、なんで目が合わないの。お礼言ってくれるんなら、こっち向いた方がお行儀良いと思うよ?


 そう思うが、不意に気付いた。


「……もしかして、あんまり見えてない?」

「うん、だってここ真っ暗だよ。明かりもないのに、よくここまで来れたね」


 ……ああ、そっか。

 周りが見えにくいと思ったら、そういうことだったのか。なんとなく落ち着かない気分になり、ぺろりと唇を舐めると……余計に周りの状況が鮮明に見えてきた気がした。

 しかしまあ――不便だわね、ヒトは――なんで僕は見えるんだろう。それも、子供たちだけ妙にくっきり。


 ……まあ、別にいいか。暗くても見えるってんなら、別に困らないどころか便利だし。

 とりあえず足下が危なそうだし、先導して、脱出させるとしようかね。


 そう思って子供たちに声をかけると。


「あっちの奥にも部屋があるんだ。そこにも一人捕まった子がいるから、助けてあげて!」

「おやまあ」


 ……僕の冒険はまだ続くらしい、が。


「先に君達からね。安心しなよ、ちゃんとみんなここから出してあげるから」

「う、うん」

「静かについておいで。足元に気をつけなね」


 はあい、と皆が大人しく……だけど不安げに、通路の奥の方を何度かついと振り返る。未だ捕らわれたままの誰かを気にして、そうやって。


 ――ああ、美しい。この子達は……人の事を思いやれるんだ。こんな目に遭いながらも、この子達は……。

 美しくって、眩しくって……好ましくって。


 ……妬ましい……。


 こんな子供ばっかりなら、世の中平和になるんじゃないだろか。

 そうしたら、きっと……僕みたいなのの居場所は、どこにもなくなるんだろな。


 だから子供は……好きだけど嫌いなんだ。人の持ってないモノを、気安くこうやって見せつけてくるからさ。

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