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変態は今

 ――一応、先に聞いておくが、と。


 第二撃を避けた後、姿の見えぬ敵対者にバッカスは問いかける。


「……頭目はどうした。オレぁ役目柄な、まずそいつを聞いとかなきゃなんねえ」

『始末した。もはや不要』 

「おーぅ、手間が減ってありがてぇ……って訳にもいかんのな。一応こっち、調べなきゃいかんことが結構あってなあ」

『…………』

「この様子じゃ……屋敷内に生存者はゼロか。派手にやった割にはあんま血の匂いがしねえな」

『一人殺して、釣りをした。釣りの後は追い込み漁をした。防音故、外の案山子のみ残した。他、全員が三階で眠りについた』


 ……予想はしていたが、面倒なことになった。バッカスは内心で舌打ちする。

 だが、『眠りについた』……?


「ご丁寧にありがとよ。じゃあ、後は関係者席にいらっしゃるお前さんよ。……テメェに聞く必要があるって訳だ」

『お前がここに来た要件は知っている。頭目の部屋の隠し金庫に、奴自ら記した薬物売買の記録が残っている』

「はァン?」

『暗号化されているが、貴様らの使うものと一致するはずだ。奴は部下の報告を完全には信用していなかった。教団もだ。暗殺を想定して、教団の不利になるよう……』

「――本当に親切すぎるな。何考えてる?」

『冥途の土産だ。これだけ聞けば、心置きなく死ねるだろう』


 ……暗殺者にしては、喋りすぎだ。それに律儀過ぎる。

 声に潜む殺意こそ凄みを増していくものの、なおさらそのギャップに戸惑ったが。


 ――腕は一流。教団に恨みを持つ。世間ずれが著しい。

 ……妙に気取った、教会の坊主どものように死を『眠り』と表す感性。

 何より、未だに姿を見せないこの不可思議な能力……周囲のマナの乱れも、一般的な法術……あるいは魔術の引き起こすそれとは違う。

 ……こういった存在には、心当たりがあった。


「……成る程」

「……?」

「お前さんの正体に、予想がついた」


 バッカスが言い放った瞬間、三撃目が放たれた。それも首を傾げてかわす。


「……名乗っとけ。折角のお前さんの、最期の晴れ舞台だ。カッコつけても罰は当たらんぜ」


 そう言って、初めて得物を……大工の使うような金槌を無造作に構えた使徒に、男はぽつりと返した。


『ヒミズ』

「覚えとく。んじゃ、死んどけ」


 ……ヒミズと名乗った男から、再びバッカスに向かって不可視の凶刃が振るわれた。



 ――――――――――――――――――――


 同時刻。一人の変態が同じ屋敷内に侵入していた。


 奇しくもバッカスと全く同時に裏口から入り込んだため、幸運にも暗殺者の注意を引かずに済んだその男。訝しがる少女から言葉巧みに借り出した衣装を纏い、こそこそうろつきまわった結果、たまたま見つけた隠し扉から地下へ続く階段へ進み行くところであった。階段脇にぽつぽつと等間隔に置かれて揺らめいている明かりが不気味極まりない。


「……んー、なんざんしょね、この屋敷」


 侵入時は、見つからずに助かったと思ったものだが、こうも人の気配がないと不安になってくる……と思ったところで見つけた謎扉。

 入り込んだはいいものの、もしかして自分は、侵入場所を間違えてしまったのだろうか。町の人の噂でしか頭目の居場所は知ることが出来なかったしなあ。

 だとしても、普通の人がお家にこんな仕掛け作るとも思えないしなあ。変なの。


 ……っていうかさ。

 万が一見つかった時にアタイの美貌で誑かしてやろうと思ったのに拍子抜け。

 貴様何してる。あらごめんあそばせ、風に誘われてまいりましたわ。おお、よくよく見れば美しいご婦人、ささどうぞ中へ、って寸法だったのに。

 ぼさぼさ頭に櫛を通して、片目を隠したミステリアスヘアァにして。

 廃棄されてた牛の皮で靴をいじくって、服の裾から見れば一見モテカワブーツに見えないこともない程度に仕立て上げ。

 食堂裏のゴミ捨て場から手に入れた香辛料と油を唇に塗って、つやつやの愛されリップにした挙句。

 おサルよろしく、石を削って研いでナイフを作って、ヒゲどころかすね毛まで剃ったっていうのに。結構痛かったのに。

 こんなに気合入れておめかししたのに! エスコートもしないってどういう事かしら。失礼しちゃう。人が恥を忍んでこんな真似したっていうのに、無駄な努力だったってどういうこと?

 癖になったらどうしてくれるのよ! いっそ夜の蝶になっちゃおうかしら!


 ……全く拍子抜けである。まあ、あちこち回ってみて、子供がいなければそれで良し。カラスがとうに鳴いたから帰りましょっかね……とそこまで考えたところ。


「……嫌な予感」


 いかにも怪しげな鉄格子のはまった空間が、階段を降りきった先の通路の右手に見える。

 ……悪だくみとかする人が、攫った人を閉じ込めておくとか、そんな用途にぴったりっぽい素敵空間。

 足音を立てないように近づいていくと、果たしてそこには、子供たちが……十数人寝転がっていた。

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