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秋色  作者: 椎堂 真砂
1/13

無知と愛 01

 この小説は西宮東先生の『風の中でそっとつぶやく。』を椎堂真砂風にアレンジした作品となっています。詳しくはお手数ですが、後書きをご覧ください。

 

   ●


 君がなくては、愛することはできない。

 君がなくては、死ぬことはできない。


   ●


 椥辻帥嗣ナギツジヒキツグはいつものように、級友である霊山弥彦リョウゼンヤヒコと帰途に付いていた。

 帥嗣が高校に入って早半年が経ち、季節は秋、十月になっていた。

 ちょうどその日は帥嗣の通う公立高校では四日間続いていたテストの最終日で、勉強を得意としていない二人の顔には色濃い疲労が見てとれる。

 前年までならばテスト最終日は午前中にテスト全過程が終了し、そのまま放課であった。しかしながら、今年からは授業時間数確保のため、テストが終了してもそのまま授業が行なわれるようになったのだ。

 全学年合わせて計四百人のおおよそ九割五分がやる気がなく、憂鬱に思っている。帥嗣の隣を補修の事を思いながら、肩を落として歩いている弥彦も、その一人であった。

 だが、帥嗣は違う。全校生徒の中の残り五分、二十人程度しかいない生徒に帥嗣は含まれていた。

 帥嗣は部活もやっていなければ、塾にもいっていない。バイトもしないし、遊びもしない。クラスメートと一緒に騒いだりもしない――今時珍しい、堅物な人間だった。

 その為、彼は特にすることがなく、時間が空いているのだ。帥嗣にとって、授業は丁度よい暇潰しなのである。

 その割に勉強が得意でないのは、単純に要領が悪いのだ。弥彦のように、勉強を苦としているわけではない。当然、テストも帥嗣にとって、顔に疲労を浮かばせるほど、大変ではなかった。

 彼が疲れを見せているのは、テストとは全く関係のない問題が起因してのことだ。

 彼が先日起こしてしまった、とある問題の所為で職員室から呼び出しをうけ、担任から執拗に経緯を説明させられたのだ。その後帥嗣は罰として、グラウンドの隅で草むしりをさせられ、先刻、ようやく解放された。

 基礎体力があまりない帥嗣にとって、固い土に根を張った雑草を、腰を屈めて引き抜き続けるのはかなりと重労働だ。

 担任に説明した問題はといえば、未だに解決しておらず、帥嗣は今日、精神的にも肉体的にも疲弊しきっていた。

 帥嗣はふと、重たく下がった頭を上げ、天を仰いだ。

 空は西の空から東の空へ、紅色から漆黒に綺麗なグラデーションを描いていた。草むしりで遅くなったとはいえ、時刻はまだ五時半、日が沈むには時間として早すぎる。そんな風景に、帥嗣は秋を感じた。

 グラデーションは空だけでなく、帥嗣達が歩いている商店街も同じである。彼等の進行方向は目を背けたくなるほどに赤々しく、振り返り見た後ろは吸い込まれそうに黒々しい。

 帥嗣が風景に気をとられていると、前から人が来た。彼は慌てて軽く横に飛び、何とかかわす。避けた先にはまた人が居て、今度は反応することが出来ず、帥嗣は軽く肩をぶつけてしまった。

 時間帯が夕食前なだけあって、人通りが多い。近くに大型のスーパーマーケットがないので、近隣の住民は皆、ここに食材を求めてやってくるのだ。

 帥嗣達が何故わざわざ、そんな混雑した商店街を選び、縫うようにして歩いているかといえば、単純に道がないからだ。俺らの通う高校からこの町の大半が居住する住宅地行こうと思うと、どうしてもこの商店街を通過しなければならない。

 無理にでも商店街を通らないように帰ろうと思うと、大きく迂回することになる。時間にして二十分の差。

 普段ならば、この時間に通らず、人が少ない一時間前に下校している二人にとって、この混雑具合は予想外と言っていい。

「それじゃ、また明日な」

「あぁ、うん、また」

 商店街をやっとの思いで抜けてすぐ、帥嗣は弥彦と別れた。

 特に何か話していたわけでもないのに、帥嗣は急に静かになった気分に駆られる。商店街を抜けたということもあるだろうが、やはり一人になった孤独感が原因だろう。

 そんなことを考えても仕方ない、と帥嗣は少しの間止めていた足を再び動かし出した。

 歩きながら両脇の家を確認すると、もう窓から明かりが漏れている。帥嗣は再び、空を見上げる。空は鮮やかなグラデーションを描くことなく、真っ黒に塗り潰され、星が瞬き始めていた。どうやら帥嗣は商店街を抜けるのに、相当時間を費やしてしまったらしい。

 彼はこれ以上遅くなって、昴さんを待たせてははいけないと、歩幅を広め、歩を速くした。

 その上最近、急に寒くなってきている。帥嗣は早く家に帰って温まりたかった。

 手袋さえつけていない帥嗣の両手は真っ赤に染まり、感覚まで麻痺してきている。彼は軽く肩を揺らし、持っている鞄を肩に深くかけなおした。

 そうして鞄を安定させてから、帥嗣は制服に付属しているポケットに手をいれる。帥嗣は布と手が擦れて少しは痛みを覚えたが、家までの辛抱だと我慢した。

 それで手は何とか暖をとれたが、彼にとってより大きな問題は耳をどうするかだ。手袋さえ持っていない彼が、イヤーマッフルなど持っているはずがない。

 帥嗣はほんの少し迷ってから、小走りで家まで変えることにした。いくら基礎体力がないとは言っても、さすがに目と鼻の先にある家までは持つと判断したのだ。

 帥嗣の家は彼から十メートルほど先にある、コンクリートで出来たタイトなカーブを曲がればそこから玄関が見える位置。直線距離にして三十メートルもない。

 間もなく角を曲がり、玄関が見える。

 そこでふと、脇にある電柱に目が奪われた。帥嗣は電柱マニアでもなければ、電柱オタクでもない。ただ、そこにあった張り紙が気になったのだ。

 張り紙には文字の羅列と小さくデフォルメされた人間の絵。一番上にある大フォントの『アルバイト募集』の文字が、帥嗣の目についたのだ。

 張り紙の内容はありきたりで、書いてある通りアルバイトの募集だった。そのバイトは近所のコンビニの店員業務で、時給は高くはないが悪くはない。彼にとって何かと好条件だ。

 この前、弥彦と一緒に県下有数の巨大なショッピングモールに出かけて、必要雑貨を買い揃えた帥嗣は金欠だった。

 渡りに船であり、これを機にバイトを始めてみようと、帥嗣は思い詳しく内容を読み込んだ。そうすると一番下に『年齢十八歳以上から』という但し書きを発見した。

 帥嗣は軽くやるせない気分になり、ため息を吐く。そして彼は珍しく、八つ当たりのように電柱を蹴り、張り紙を剥がして丸めて捨てた。

 帥嗣の手から投げ放たれた紙屑は緩い弧を描き、そして道路の反対側にある町内掲示板にあたる。そしてそのまま勢いをなくし、地面に落下した。

 今度はやるせなさを身体中に感じながら、ため息をもらす。

 帥嗣は振り返り、自分が投げ捨てた紙屑を拾う。基本的に善人である彼にとって、それは当然とも言える行動だった。

 帥嗣はゴミを拾ったついでに、そこにある掲示物も読んでみた。

 『バサーのお知らせ』

 『ゴミ収集日の変更』

 『みんなで止めよう温暖化!』

 ありきたりで、手作り感あふれる張り紙。そんな中、帥嗣の目を一際引いた一枚があった。

 『猫探しています』

 張り紙には、そう書いてあった。

 その張り紙は、決して奇抜なわけではなかった。猫なのに犬の写真が張ったりしていれば、目につくだろうが、そうではない。

 猫の写真も至って普通。特徴をまとめると、血統書付きの白毛の雌、名前はミィ、だそうだ。郡を抜いて製作資金がかかっていそうな張り紙ではあったが。

 目についたのは、また別のところ。

 その張り紙の角には、後から付け加えたように縦書きの文章が付け加えられていた。

『死にたい』

 ただ冷淡に、綺麗な字で書いてあるその字。少なくとも帥嗣にとっては、見ていてあまり気分のいいものじゃない。

 あまりに簡素で、それでいて重い。

 石でも嚥下したかのような気分の悪さに、帥嗣は駆られた。

 見てしまった罪悪感と、どうしようもないという無力感が帥嗣を包む。

 ただの悪戯かもしれなかった。死にたいほどの重たい悩みを、こんなところに書くはずがない。

 でももし、と帥嗣は思う。

 ふと帥嗣は、何かその馬鹿げたその言葉に、遊び半分に付き合ってやろうと思ってしまった。

 わざわざ鞄の中から適当なボールペンを一本だけ取り出し、軽くノックする。カチッと良く通る単調な音が響いて、ペン先が顔を出す。

 堅物である帥嗣にとって、掲示板に張ってある張り紙に、消えにくい文字を書くなんて些か気も引けた。が、見つかれば一生懸命消せば良いだけだと、軽い気持ちのまま帥嗣は文字を付け加えることにした。

 黒ペンの先を掲示板の裏につけた瞬間、板が荒い所為で思った以上に抵抗が強い事を帥嗣は思い知る。字が綺麗な部類に入る帥嗣だが、あまり見映えのよい字が書けなかった。

『死ぬなよ』

 それに加えて、稚拙な文。帥嗣は我ながら、恥ずかしく思う。内心、苦笑も。

 それに、書き足した位置が悪かった。短くつづられた二つの言葉は無秩序になっている。子供の会話と変わりない。

 実際のところ、相手が本物の子供かもしれない、互いの顔も知らぬ会話なのだが。

「冷え込んできたな……」

 脇を抜けていく木枯らしに、帥嗣は身を縮こまらせてぼやく。

 それを境に帥嗣はその落書きのことを頭から排斥し、小走りにすぐ近くに見えている家の敷地中に踏み込んだ。

 金属製のノブが氷のように冷たく、手に刺さるようだった。荒い掲示板の感触を一切忘れさせてくれるほどに。

 帥嗣は冷たさに堪え、ノブを回して家に入った。

 前書きにも書きました通り、この作品は西宮東先生の、『小説家になろう』内では最長の部類に入る短編・『風の中でそっとつぶやく。』の椎堂真砂アレンジとなっています。

 アレンジとは言っても名前を全員跡形もなくかえ、一人称も三人称に変えてしまいました。あと内容と展開も少々。

 最初は原作の文章に加筆修正をちょっと加えるぐらいの軽い気持ちでしたが、やっている内に殆んど別作になるのではないかと私も思うほど変えてしまいました。

 一応了解ももらってますが、やりたい放題やらせてもらってすいません、西宮先生。

 ですが一応、原作を書き換えている形で執筆しているので、もともとの文章もいくつか残っています。

 もし、西宮先生のファンの方が読んだときのために、ここまで文章を変えてしまったことを謝っておきます。

 すいません。

 本当にごめんなさい。

 さて、この『風の中でそっとつぶやく。』のアレンジをしたのは訳があります。

 この度、自己紹介文には書いたのですが、西宮東先生の『榎凪といっしょ!』の続編を手掛けることになりました。

 その為のワンクッションとして、西宮東先生の文章を書くとこうなる、という試験として書かせてもらいます。

 その為、参考意見などを寄せていただけるとありがたいです。

 ちなみに『秋色』は一日一話ペースで投稿し、終了してから意見を参考にしながら『榎凪といっしょ!』の続編を書く予定。

 どうも長々と失礼しました。

 最後まで報告ばかりの後書きを読んでくださりありがとうございます。

 最後の最後、付け足しみたいで西宮先生に申し訳ありませんが、原作である『風の中でそっとつぶやく。』、『榎凪といっしょ!』のほうもよろしくお願いします。


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