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03 ゴリラ級怪力少女

2016.01.30 文章修正

 何時からそうであったのか、明瞭な記憶はない。ただセシリーが物心ついた時には、既に“こんな事”になっていた――。





 手塩に掛けた庭を自慢したいが為に思い付いたガーデンパーティーは、無事に成功した。

 その翌日は、喫茶店は通常営業に戻り、セシリーも昼前に普段通りに到着した。おはようございます、と告げながら扉を開くと、ルシェと彼女の両親が出迎えた。


「昨日はお疲れ様。ゆっくり休んでくれても良かったんだけど、言わなくてごめんね」

「いえ、大丈夫です!」


 一週間の間できちんとお休みを貰っているので、問題なんて無い。セシリーは笑いながら厨房奥にある作業用兼従業員休憩の小部屋へ一度向かい、腰に巻くエプロンを装着し、髪を簡単に束ねる。身支度を済ませフロアに出て、ルシェと共にテーブルや椅子を綺麗に拭いていく。


「昨日の集まりで、うちもちょっとは名前が広まったかな」

「新しいお客様、増えると良いね」


 などと軽く言葉を交わしながら、テーブルのセッティングを進める。庭の見えるテラスに設置されたテーブルなども整えた、その後、セシリーは厨房に立つ夫妻から声を掛けられた。


「ごめんね、セシリーちゃん。終わったら“いつもの”お願い出来るかな」


 いつもの、というのが何を指しているのか、セシリーはすぐに察する。笑みと共に頷くと、今度は店の裏側へ向かった。その隣にはルシェも並んでいる。


 一家で営む喫茶店なので、彼らが過ごす住居がごく短い回廊を一つ挟んだ直ぐ隣に並んでいる。それを横目に見ながら、店舗の裏側の開けた場所に踏み出す。そこは、業者から運ばれる食材や火を扱う上で必要になる薪作りなどをする作業場であった。


「やー父さんと母さん、すっかりセシリーに頼んじゃってごめんね。申し訳ないとは思ってんだけど」

「ううん、全然平気」


 セシリー達が向かった先は、薪を保管する薪置き場だった。大きく作られたその保管場所には、今日も薪を使用するのに残りはあと三本ほどしか無い。

 その代わりに薪置き場の前には、寸胴な太い丸太を大胆にぶった切った輪切りがごろんごろんと転がっている。

 正確な数は分からないけれど、全部積み重ねてしまえばセシリーとルシェの背丈くらい簡単に超えるだろう。それをこれから薪の形にしなければならないのだが、セシリーは怯む事なく腕を捲くる。丸太の輪切りにはとても敵いっこなさそうな、華奢な白い腕が現れた。

 ルシェから差し出された工具を両手に装備し、セシリーはよしと頷き、丸太の輪切りを一つ見下ろした。





 ――その光景はきっと、誰もが目を剥いて驚愕するだろう。



「よっ」


 バキャン


「んしょっ」


 メリメリメリ



 気の抜けた声と共に響き渡る、重々しい音。作業場に相応しくない、エプロンスカートの少女の手元がその発生源であった。

 太い原木を輪切りにしただけの重厚感あふれる塊を、危なっかしい手つきで転がしてゆく少女。固定する器具が近くにあるにも関わらず、そのまま地面へと立てて置き、小さな手で手斧を持ち上げた。

 第三者が見れば思わず「止めてくれ、俺が代わりにやるから」と叫びたくなるほどの、危うい絵面だった。

 しかし止める者は周りにいないため、手斧は慎重に輪切りへ宛がわれ、「んしょ」と間の抜けた声と共に軽く押し込まれた。


 ――その瞬間、丸太の輪切りは、ぽろんと半分に切り離される。


 野菜でも切ってんのかという軽やかさで、太い丸太は半分になり、さらに半分に切って四等分になる。大胆なカットを施されていくそれらは、ころんころんと地面に転がった。

 その作業をものの数分で終えると、少女は作業用の椅子に腰掛ける。四等分に分けただけの大胆なサイズなので、次はそれをオーブンなどにくべるのに丁度良い太さへ調整する。

 四等分カットされた薪を地面に真っ直ぐ縦へ置くと、手斧の刃を丁寧に添え「えいっ」と軽く落とした。


 ――カポンと軽い音を立て、薪はさらにスマートな形に分けられた。


 たまに長すぎるものは手で折りながら、次々に手頃なサイズへと形成していく。


 ちなみにこれは本来、力自慢の男達が汗水垂らしながらする危険な作業であって、間違っても華奢な少女が鼻歌交じりにするお手軽な作業ではない。

 ないのだが、しかし。

 瞬く間に、大量の薪が傍らに転がっていく。


 恐ろしい事に、それがセシリーだった。


 汗一つ、疲労一つ見せずに薪を作るセシリーの近くでは、薪置き場と往復して片付けるルシェが居る。


「父さんと母さんも、腰がー腰がーって言ってるから助かるよ。男手は父さんしか居ないし」

「気にしないで、これくらい全然平気」


 一通り作業を終えると、セシリーも散らばった山ほどの薪を片付ける。すっからかんだった薪置き場は、たっぷりと満杯になった。これで二週間はきっと尽きないはずだと、セシリーも大満足だ。

 ちなみにこれまでの経過時間は、僅か数十分。つっこむ者が誰もいないが、間違いなく達人もびっくりの猛スピードである。


「痛くない? 大丈夫?」


 ルシェの手が、セシリーのそれを持ち上げる。ふにふにと触るルシェに小さく笑いつつ、セシリーも自らの手のひらや指先を見下ろした。そこには何の変哲もない、白く細い少女の手があるだけ。力負けしそうな、いかにも頼りないその外見なのに。

 かれこれ幼少期から付き纏う“特異な力”に、心の中で今日も不思議に思った。



 いつからだったのかは覚えていない。物心のついた時には既にこうなっていたので、セシリー本人もよく分からないでいた。

 この国の辺境、小さな小さな田舎の村で生まれ育ったセシリーは、一貫してごく普通な少女だった。特に珍しくはない、色味の薄い金とも銀とも付かない色に染まる、毛先がほんの少しく波打つ髪。少し控えめで大人しい、外遊びよりも絵本を読む方が得意な女の子。

 だったのだが、身体に備わった余りある“特異な力”のせいで、非常に肩身の狭い思いを味わってきた。


 どれくらい特異だったのかと言えば。


 石を投げれば壁を砕き。

 机に手を落とせば真っ二つに割れ。

 大人五人掛かりでも運べない大荷物を軽々持ち上げ。

 ……村の屈強な男衆を、蒼白させる程度には。


 つまりセシリーは、幼少期からとんでもない怪力の持ち主だったのだ。


 家族も心底不思議そうにしていたが、何とも能天気な一家だったせいか、「力仕事も出来るなんて凄い」とセシリーを邪険に扱わなかった。けれど、全ての人がそう思ってはくれない事を、幼少期から身をもって学ぶ事になる。

 同年代の子ども達は皆怪我をさせられる事を恐れた親に関わりを止められ、セシリーは一人ぼっちになった。女の子からは遠巻きにされ、男の子からはからかわれ、さらにとんでもない呼び名で揶揄される羽目になった。


 ……曰く、ゴリラ女、と。


 お前それはゴリラに対して失礼だろうと今なら思うが、生憎大人しい子どもが当時言い返せるはずもなく、輪に掛けて大人しい性格に陥っていた。

 だが、それ以上にあの頃辛かったのは、自分だけならばまだしも家族までもが怪訝な目で見られる事だった。一家の中でそんな特異性を現したのはセシリーだけであったから、尚の事そう思ったのである。どうして私とは違う普通の家族まで、そんな風に見られなければならないのか、と。

 だから少女なりに何とか現状を変えようと、この過ぎた怪力との付き合い方を模索した。絶対に人を傷つけないように、その代わり誰かの手助けになるように、家の裏の作業場で岩石相手に格闘する日々。一方で、その反動か将来の夢はお嫁さんと言えるくらいには女の子らしさを求め、家事や料理に率先して参加した。

 涙ぐましくも多感な年頃のほとんどを費やした甲斐があってか、怪力の扱いには慣れ、息をするように小出しから大判振る舞いまで調整可能となり、大荷物の運搬を手伝っても褒めて貰えるようになった。なによりパスタやパンなどの生地を練る事に関しては右に出る者は村で居なくなった(味はともかくとして)。多くの人々が不安に思っていただろう、大怪我をさせられる心配も杞憂に終わり、友達だって増えた。

 一番良かったのは、謎の怪力が無くなってしまう事であったのだけれど、結局それは単なる願い事でしかなくて。上手く付き合いながらの、現在である。



 しかし、一番の不幸だったのは。

 多感な少女期を、ゴリラ級怪力女などと呼ばれ続けた事かもしれない。


 セシリーをからかってきた男の子達のせいで、こんな大人しすぎる性格になったと言っても過言ではない。何をしたってゴリラ女ゴリラ女……恥ずかしいような悔しいような思いを抱くには十分過ぎた。村の人々から遠巻きにされなくなってからも、その男の子達の中でも一際セシリーを構う子だけは態度を改めなかった。初めてパン生地からパンを作って上機嫌だったあの日なんて、ついには“ゴリラの嫁入り”とか訳の分からない事を……。

 あの時ばかりは本気で泣いた事を、今でも覚えている。

 その男の子も、その時はさすがにうろたえていただろうか……その辺りの記憶は少々曖昧だが、初めて村の中で声を上げて大泣きした事だけは鮮明だ。



 セシリーは、幼少期から現在まで、持って生まれた怪力に翻弄されてきた。


 一度は家族も不思議がって調べに駆け回った事があり、その際に分かったのは、一家の遠い遠い祖先で異種族と婚姻を結んだ事実があったという事だけだった。

 あんまりにも古い記録だったらしいので真偽のほどすらも定かでないが、今になってその遺伝子が現れたのではないかというのが一先ずの結論だ。そして家族は「例え祖先がゴリラでもセシリーは俺達の家族だ!」と、そこに落ち着いてしまった。

 ちっとも慰められた気はしなかった。

 今はセシリーもこの怪力と上手に付き合っているので、古い祖先にどのような血が加わっていたとて、さほど問題は無かったりする。



 けれど根付いた劣等感は、早々無くならず。村を出て街にやって来た事が、セシリーの心の最たる証明だった。

 ゴリラの嫁入り呼ばわりされたのが決定的だったのだろうか。いつか村を出ると決めたセシリーを、誰も止めなかった。意外にも家族が苦笑いはしたものの後押しをしてくれたのは、セシリーのこれまでの不憫な扱いを知っていたからだろう。


 そして、この街――隣国との国境線にも当たる雄大な山脈が彼方に見える、わりと重要な土地へやって来たのが、半年ほど前の事であった。



「それにしたって、セシリーのそんな便利な力をゴリラだなんて言った奴、とんでもないよ!」

「ゴリラよりも凄いけど、事実だから」

「馬鹿よねー! セシリーの力がどれだけ凄いのか分からないなんて!」


 ルシェは悪戯っぽく笑った。店で働く際にはお団子の形に纏め上げる、彼女の明るい茶色の髪がきらりと光る。

 街にやって来てから、日の経過は決して深いとは言えないが、それでもこの半年間、ルシェの存在は本当に頼もしかった。



 街に来てから、セシリーはこの過ぎた怪力を絶対に誰にも明かさず、秘密にしたまま生きていくつもりだった。それこそ、墓にまで持っていこうと本気で思ったくらいに。頑なであったのは、全ての人が受け入れてくれる訳ではない事を、もう昔に知っていたからなのだろう。従って当然、ルシェ一家にも言うつもりはなかった。

 なのだが、雇って貰って働き始める初日に、あっさりとバレた。

 キラキラした街並み、キラキラした装い、行き交う異種族の様々な姿。色鮮やかで交流も盛んな街にやって来たばかりで、戸惑うしかないセシリーを雇ってくれた上に親身になってくれたのが、ルシェ一家だった。そして喫茶店の看板娘でもあったルシェは、ほんの二歳ではあるが年上だったため時に姉のように接してくれた。

 だから、ある時夫妻が「腰がそろそろねー」と呟いているのを聞いて(言うほど年を取っていないはずだが)、せめてもの感謝とお礼を考えたその初日、裏口にうず高く積まれていた食材を詰め込んだ木箱をこっそりと運んでいた。両手に三箱ずつ乗せて、軽々と鼻歌交じりに。

 そして運んでいるところを、あっさりとルシェに見つかった。

 墓にまで持ってゆく秘密は、あまりにも呆気なく白日のもとに晒される羽目に。

 驚いたルシェからは当然、その剛腕について尋ねられた。何を言われるのか怯えたけれど、意を決して事情を説明すると……ルシェは途端に表情をキラキラさせて両手を打ち「凄い凄い!」と大絶賛。さらにはセシリーが呆然としている間に、あれよあれよと夫妻の前へと連れ出して大暴露。彼らは驚いたものの、実際にいかにも重い荷物をひょいと持ち上げて見せれば、もう大絶賛の嵐。

 セシリーはこの間、からくり人形のように呆然と暮れていた。

 負い目を感じていた怪力が、まさかの怒涛の感謝を浴びている。一体何が起きたのかと混乱する彼女に掛けられたのは「力仕事も得意なんて文武両道だね!」という謎の褒め言葉であった。その時、能天気な身内の姿が彼らに重なって、そういえばこんな風に正面から受け入れてくれたのは彼らだけだったなと、つい泣いてしまった事は忘れてしまいたい記憶だ。

 ルシェ達はセシリーの心境を察し、絶対に誰にも口外しないと言ってくれた。以来約束は果たされ、この街で知るのは彼らだけ。だからセシリーも、彼らの助けになるようにこっそりと使っている。ささやかだが腰を痛める事が無くなったと喜んで貰えるので、セシリーもそれが嬉しかった。


 元々、彼らが暮らす環境が人間離れしているから、今更ゴリラ級の怪力女が出たところで、驚く事でもないのかもしれない。空を見上げれば竜が飛び、街を見渡せば獣が二足歩行で歩いているわけなのだから。


 この街で出来た友人であるルシェには、特に救われている。夫妻の人好きする雰囲気や性格を引き継いで、彼女の周りはいつも楽しげに空気が踊っている。控えめで物静かなセシリーですら、壁を軽く超えて直ぐに打ち解けるのだから、その朗らかさは言うまでもない。

 セシリーは、自らを卑下するわけではないが凄い美人ではないと知っている。珍しくもない色素の薄い髪と緑色の瞳。人より少々小柄で華奢、全体的に薄っぺらい身体付き。唯一張り合える部分は、華奢さに不釣り合いな大きくまろびを帯びて成長してしまった胸くらいなもの。そのありふれた凡庸さを嫌ってはいないが、対するルシェは陽の下が似合いそうな快活な少女。二歳ほど年上で、明るい茶色の髪と同色の瞳が笑顔と共によく煌めいていた。明るい性格だが、ちょっと食に囲まれ過ぎた環境で育ったせいか、初対面時にセシリーを「ミルクティーみたいな髪の色ね、美味しそう!」や「摘みたてのハーブみたいな目の色ね、美味しそう!」と評価したのは今も記憶に残っている。取り立てて珍しくもない自らの色をそう評価される気分は、気恥ずかしいが悪い気分ではなく、ユーモアもある子なんだなあと微笑んだものだ。

 ミルクティーとハーブ、そう言われると確かに美味しそうな色にも見えてくる。だとすれば、ルシェの明るい茶色の髪と瞳は、チョコレートだろうか。


 ちなみに、ルシェの名の由来は、ルシエラの実という春先に実る甘酸っぱい赤い果物だという。彼女が生まれた日、ルシエラの実を育てている近所からたくさんお裾分けで届けられたらしい。

 名は体を表すと何処かで聞いた。彼女の好物はルシエラの実だ。




「馬鹿と言えば、昨日の騎士も馬鹿だと思うの」


 突然何を言い出すのかと、セシリーはルシェを見た。


「だって昨日の集まり、婚活でしょ? そりゃあ未婚の騎士が制服でぶっこまれたのは驚くけど、でも婚活の場なら気になった異性に突撃するくらいの気概は見せなきゃ」


 うーむ、さすがは積極的なルシェ。ぽややんとする私とは雲泥の差だと、セシリーは感心する。


「その制服着てたっていう竜人、参加させられたとは言えセシリーの事に興味を持つくらいの気概を見せろってのよ。ねえ?」

「わ、私は、従業員だもの! それに参加したくなかった人だし、そういう風には見なかっただけだよ」

「……もしもそう思って声を掛けなかったのなら、やっぱり馬鹿で十分だわ」


 結構遠慮がないわりに、妙に後を引かず爽やかなのが彼女の良いところだ。

 セシリーは小さく笑い、エプロンの埃などを払い落とす。


「……昨日来てた人達、みんな身長が高くて、女の人なんか身体つきも凄く綺麗で。騎士様もそう、凄く綺麗な鱗が生えていて、背も大きくて。私なんか、あの人達の視界にろくに入りもしなさそうだった。良いの、近くで見れただけで」


 それだけでも、自慢になるもの。セシリーは控えめに微笑んだ。


 ルシェは溜め息をつき、落胆で肩を落とす。騎士も騎士だが、セシリーもセシリーだと思う。彼女はその怪力ぶりをこれまでからかわれ、備わった力を恥ずかしいもの、あるいは隠すものだと思い込み、そしてそれは深い深い場所に根付いて離れないでいる。ルシェは接客業をしている家柄で育ってきたため、様々な人を見る場面が多くあった。だからそんなに卑下する必要はないと思っている。

 まして彼女は、これだけ気立ても良く優しい子なのに。隠れているなんて、勿体ない。

 同年代の娘達よりも背丈が小さく、華奢な身体付き。白い肌とほっそりとした四肢は、その頼りなさを煽っている。思わず振り返るほどの美人ではないのかもしれないが、柔らかい微笑みを浮かべて小さな唇を緩める仕草は可愛いらしい。色素の薄い髪も、緑色の綺麗な瞳も、慎ましい彼女によく似合う。そういう華奢で繊細な印象を与えるくせに、同性のルシェから見ても彼女の持つ胸は大きく、衣服を押し上げはっきりと主張している。なまじ身体の線が細いから、その丸い二つの膨らみはよく目立った。成熟した女性に至る途中にある、少女の放つ危うげな繊細な魅力。それは十分に美しいと言えるものではないだろうか。怪力くらいで、それが霞むとは思えない。

 実際、これまで足を運んだ客の中に、セシリーに気がある素振りを見せた者は居たし、現在も居る。

 が、いかんせんその物静かで自信のない性格が、セシリーを決して前には出させないし、全く気付いていない。変な虫が付くよりはよほど良いが、ルシェとしては……彼女の事を分かってくれる良い人が必ず居るはずと思うのだ。


 とはいえ、それを強く押しつける真似はしたくないので、困ったように笑うセシリーの頭を軽く撫でるだけだ。


「……ところで、その竜人の騎士って、どんな人なの?」

「どんなって……四本の角があって、綺麗な白い鱗が付いていて、凄く大きい竜人としか……」

「セシリーからしたら、男の人なんて誰でも凄く大きいわね」


 冗談っぽく告げたルシェに、セシリーも頷いて噴き出す。


「それにしても、竜人の騎士、か……」

「どうかしたの?」

「何でもない。さて、中に戻ろっか、そろそろ開店」


 ルシェが手を伸ばすと、セシリーの白い指先がそっと握った。




見た目と中身は清楚な、ゴリラ級怪力少女。

苦労してきた人生です。


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