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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

思いつき短編

神様試験? こんな性悪を神にして良いのか!?

作者: まあ

「な、何なのよ!?」


 私、『葛城由香かつらぎゆか』は運転手が居眠りをしているトラックに追いかけられている。

 何を言っているんだ? と思うだろう。

 言いたい事はわかる。私だって自分がこんな状況じゃなければ笑い飛ばすに決まってる。

 ご丁寧にマンガみたいな鼻ちょうちんを作ったおじさんが運転しているトラックが追いかけてくる。

 自分の身を隠そうと道を曲がっても信号無視でプロも顔負けのドリフト走行をして、それも事故を起こさずにだ。

 まるで、私一人を狙っているかのようにとトラックが追いかけてくる。


「く、苦しい」


 私は運動部に所属しているわけでもないし、自分で言って悲しくなるが運動神経もない方だ。

 そんな私が逃げきれているのだから、速度はあまり出ていないだろう。

だけど、速度が出てなかろうがトラックである。ぶつかられて、ケガで済めば良いものの最悪死ぬ。

息が切れるが死にたくはない。だから、逃げるのだが、なぜかトラックは私を追いかけてくる。

意味がわからない。


そして、何より、意味がわからないのが私を狙っているトラックの助手席に美形の青年が私を指差し、腹を抱えて笑っているのだ。

 生まれて、今日で16年、こんな扱いは当然、受けた事などない。


「あの男、絶対にしばく」


腹の中からふつふつとわき上がる怒りを感じながらも今は逃げる事ができず、今にも途切れそうな声でつぶやく。


「あれ?」


 その時、背中から感じていたトラックの圧迫感がなくなり、私は足を止め振り返る。

私を見て爆笑していた青年の姿だけではなく、トラックも見えない。


「夢? そうだよね。こんな事、あり得ないよね」


 自分の身が安全だと錯覚し、胸をなで下ろした時、何か大きなものが私の横からぶつかり、私の身体を跳ね飛ばした。


交差点? 赤信号?


 視界が真っ赤に染まりところどころ黒く塗りつぶされて行くなか、自分が立っていた場所が交差点の真ん中であった事に気づく。

 しかし、跳ね飛ばされた時にすでに肉体はかなりの損傷をしていたようで声は出ない。


トラック?


 私を跳ね飛ばしたのは先ほどまで自分の後ろを付いてきていたトラックであり、先ほどまで鼻ちょうちんを作っていたおじさんは顔を真っ青にしてハンドルを握り、身体を震わせている。当然だよね。人を跳ねたんだから……

 震えている男性の隣りの助手席が視界に入るが先ほどまで自分を指差し笑っていた青年の姿はない。


……ひょっとして、あの男って死神かなんかだったのかな?


 ふとそんな事が頭をよぎるが笑う余裕なんてない。


 夢だよね? 死にたくないよ……


 薄れて行く意識のなか、声にならない声を上げるが誰かが答えるわけでもなく、私、葛城由香はこの世界での人生を終えた。16年と言う短い生涯だった。

 悔いは当然残っている。

 

「やっと、死んだ。まったく、俺の手間を増やさないで欲しいよね。まぁ、逃げる姿は滑稽で面白かったけど。それじゃあ、面倒だけどもっと滑稽に踊って貰おうか?」


 私の死に顔を覗き込み、めんどくさそうにため息を吐く青年が一人。


この死は終わりではなく、まだ始まってもいなかった事に『私』はしばらく後に気づく事になる。


 ……イヤな夢を見た。


 頭が覚醒して一番初めに思った事。

 視界が開けて行く。

 身体には痛みもなく、先ほどの痛みも絶望も夢だと笑い飛ばそうとするがそうもいかなかった。

 開いた目が脳に伝えた情報は見た事のない空間。


 何もない? ここどこ?


 視界が晴れた事でキョロキョロと辺りを見回すが何も見つからない。

 空がないため、室内だとは思ったのだが床らしいものもない。

 それどころか自分自身の身体すら見つける事は出来ない。


 ひょっとして、死後の世界? やっぱり、私、死んじゃったの?


 自分の意識しか存在しないのではないかと言う不安が押し寄せ泣き出しそうになるが、そのための肉体うつわが存在していない。


「見つけた。まったく、仕事を増やすなよ」


え?


 その時、意識の中に男の人の声が届く。

 声の先にはトラックの助手席で自分が必死に逃げているのを見て笑っていた青年が立っている。


 こいつは? 私を笑っていた男? こいつが運転手を起こしていれば


 視線の先に青年が映った瞬間に殺意にも似た感情が湧きあがる。

 死ぬ前に見た青年さえ、常識的な行動をしていてくれさえすれば自分がこんな事になるはずはなかった。

 そんな考えで頭が一杯になる。


「勘違いしているようだから、言っておくぞ。俺はお前の運命()に干渉する権限は与えられていなかった。ただ死ぬより、この後の事を考えればトラックにひかれておいた方が良いと思っただけだ。お前達の世界ではトラックにひかれれば転生だ。召喚だと噂されているんだろう? 安心しろ。お前の死に関わったあの男は特別処置としてお前を引き殺したと言う事実は世界から、拒絶され、何事もなかったかのように扱われる。もちろん、お前自身もあの世界からなかったものとして扱われるようになっている」


 青年はタブレットにも似たようなものを覗き込みながら言う。


 こいつ、何を言っているの? 転生、召喚、そんな非現実的な事があるわけないじゃない。


 その態度に由香の怒りは増大していくのだが青年は気にする様子などない。


「お前は俺が嘘を言っていると思っているのか?」


 ……なぜ、考えている事がわかるの?


「……姿が見えないのは面倒だな」


 青年は由香の考えを読めているようで呆れたように言うと指を鳴らす。

それと同時にぼやけていた由香の意識がさらにはっきりとして行くだけではなく、彼女の肉体とともにトラックにひかれる前の衣服が再生されて行き、突然、戻った身体の感覚に由香は尻餅を付いた。


「……痛い」

「これで少しは話しやすいか? まったく、どうして俺が人間(下等生物)に話をしないといけないんだ? 面倒だ」


 ぶつけたお尻が痛い。だけど、目の前の青年は私の事を気にする事なく、ため息をついており、怒りがふつふつと湧き上がる。

 

「面倒だが、説明をしないと始まらないからな」

「面倒だからじゃないわよ。説明しなさいよ!!」

「だから、説明をしてやると言っているだろ。その程度の事も聞けないのか?」


 こいつ、絶対にしばく!? な、何なのよ!? 本当に考えている事が読まれているの?


 青年の様子に苛立ちを覚え、彼につかみかかろうとするが青年は由香の身体を交わすと足を引っ掛け、彼女は顔面からダイブし、ぶつけたようで鼻先は赤くなっている。


「ねえ。私、死んだの? そんなわけないよね? これはおかしな夢だよね?」


 青年は由香を見下ろすように言い、由香は殺意のこもった瞳で青年を睨みつけるが腑に落ちない事が多く、頭に残っている1番、強烈なイメージが嘘だと否定して欲しいと言う。


「さっきも言っただろ。何度も同じ事を言わせるな」


 嘘に決まっている。こいつはあんな状況でも私を見て、爆笑するような奴なんだから、私が絶望するのを見て喜んでいるだけよ。


「何だ? 死んだと言う現実が受け止められないなら、思い出させてやろう」

「何てもの、見せるのよ!?」


 現実を受け入れようとしない私を見て、青年はもう1度、指を鳴らす。

 その瞬間、白い空間は私が胸をなで下ろした後、直ぐにトラックで跳ね飛ばされて宙を舞い、道路を真っ赤に染めるシーンと身体がひしゃげ、血だらけになっている自分だった物が角度を変えて何度もリプレイされる。

 そのスプラッタ映像に吐き気を催すものの、どこか非現実的なものである。


「何だ? お前自身が自分が死んだか、どうかを知りたいと言ったんだろ。まったく、生き物がただの肉塊になるところを見たいなんて、変わった趣味を持っているな。それも自分自身がひき肉になるのを何てな……あれか? お前達の世界で言うマゾヒストと言う奴か?」

「誰がドМよ!! こんな物を見せろなんて、言ってないわよ!? あんた、デリカシーとか無いの?」

「デリカシー? お前達、人間(下等生物)に俺達天使が気を使う必要などない」


 ……天使? 何、この人、頭が残念な人なの?


 青年は自分を天使だと言い切るが由香には信じることはできず、青年を痛い人を見るかのように可哀そうだと言いたげな視線を向ける。


「……考えていることはわかるんだが、せめて、もう少し表情に出さないようにしろ」

「ちょ、ちょっと、いふぁい、いふぁい。わたひ、おんにゃのきょ」

「知るか。それにそんな貧相な体で言われても説得力などない」


 青年にはやはり、由香の考えていることがわかるようで彼女に鼻フックを食らわせると由香は女の子としての尊厳を守るように鼻を手で隠しながら悲痛な声を上げた。

 しかし、青年は由香の身体を見定めるような視線を向けた後、ため息を吐く。


「……」

「それで、話を聞く気になったか?」

「お願いします」


 頬をさすりながら青年を睨み付ける由香。

 彼女の様子に青年は由香を見下ろしながら聞く。

 納得はいかないものの、これ以上、話を滞らせては鼻フックだけではなく、何をされるかわからないため、由香はしぶしぶ頭を下げる。

 

「簡潔に言う。今から、お前には俺の代役として、次代の神を決めるための試験を受けて貰う」

「次の神様? ……なんで私が?」


 青年はけだるそうに本題を話す。

 由香は今までの流れで青年が人間ではない事は何とか理解したようであるが、自分が青年の言う物に選ばれた理由がわからずに首を捻った。


「リストにあった人間から、一番、ダメそうなのを選んだ結果だ」

「そうダメそうな……ダメそうって、どういう事よ!?」

「決まってるだろ。俺は神になどなりたくないんだ。神や天使にも寿命があるんだが、ここ最近の神の死因は過労死だぞ。そんなものになりたいと思うか?」

「か、神様が過労死? あなたが神様になりたくないのはわかったけど、それなら、どうして、この試験に参加してるのよ? 断ることはできなかったの?」


 乗り気じゃないのか青年はため息を吐くとここ最近の神様の死因を告げる。

 それは由香には信じられないようであり、眉間にしわを寄せると目の前の青年が試験参加を決めた理由が腑に落ちないようである。


「決まってるだろ。合格、不合格は別として、この試験に選出されると一生が約束されるんだ。神になどなりたくないが、他の天使をあごで使って楽に生きていけるんだ。参加して試験に落ちるのが一番、賢い生き方だ。不参加を表明するとその権利も与えられないからな。だから、一番、使えないのを選んだ。納得ができたか?」

「……自分のため、こんなのが天使? 天界は大丈夫なの?」


 青年はきっぱりと自分のためだと言い切り、由香は自分が知っていた天使と目の前の青年があまりに印象が違うため、彼女の眉間にはくっきりとしたしわが寄っている。


「だから、頑張る必要はない。それとこの試験に選ばれた報酬として、試験が終われば天使として生まれ変わる事が出来る」

「天使に? ……あの、もし、私が試験を終えたら、合格、不合格で私の待遇は変わるの?」

「関係はないと思うが、お前が俺を神にできれば、待遇としてはかなり良いものになる。まあ、関係ない話だがな」


 由香は青年を神になどする気は起きないようだが自分の立場が気になるようであり、青年に尋ねる。

 青年は由香が試験をトップで合格する事などないと思っており、正直に答えるがやる気はないのか欠伸をしている。


「待遇が上がるって事は……下級天使と上級天使の違いがあるって事ですよね?」

「そうなるな。だからと言ってやる気など出すな。下級天使になろうが、待遇が不満なら後で引き上げてやる。後はお前の家族が死んだ時も天使としてこちら側に引き上げてやろう」

「それは……魅力的かも知れない。この人が神様になったら、色々と問題が起きそうだし」


 考え込む由香の様子に下手なやる気を出されても困ると思ったようで、青年は裏取引を持ちかける。

 由香も目の前の青年を神様にしてはいけないと思ったようで、楽して上級天使になれるなら彼の言葉に乗っても良いと考え始めたようで大きく頷いた。


「わかりました。不肖葛城由香、この試験に参加させていただきます」

「契約成立だな。試験中は俺がお前を補佐する事になる。私の名はエリアスだ。これから、よろしく頼む」


 由香は笑顔で頷くと青年は小さく口元を緩ませた後、『エリアス』と名乗り、2人の間には契約が成立し、2人は天使とその見習いとは言えないくらいの悪い笑みを浮かべた。























 この後、2人の思いとは裏腹に2人は試験を合格してしまい、エリアスは次の神となるのだが、それはまた別の話である。


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