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変わりゆく思い12

 日の暮れ出した時間。柚姫は見慣れた住宅街まで帰ってきた。

 柚姫はぼんやりと手元にある一枚の紙片に目をやる。

 そこにあるのはきれいな花の模様のかわいらしい名刺だった。












 話せる範囲で話を聞かせてもらった後のこと。

 しほりから教えてもらった現在地は、柚姫の家からはそれなりに遠かった。とりあえず歩いて帰る距離ではない。そして現在の柚姫は身一つで金銭などは一切持ち合わせてはいなかった。

 持っているのは、しほりが柚姫を運び出す時に持ち出したという家の鍵と靴だけだ。他のものは慌てていたため持ち出す余裕がなかったというがそれだけでも十分ありがたい。


 とりあえずそのような状態のため、自力で帰るすべはない。

 行きも車で運んだとから場所はばっちりだ、と笑顔で言われればもうその言葉に甘えるほかなかった。


 けれど流石に家の前だと身内の誰かと鉢合わせた時に言い訳に困る。

 柚姫の交友関係ははっきりいって狭い。故に両親の把握していない交友関係は無きに等しい。

 うまい言い訳が思いつかない。

 わがままを言って申し訳ないと思いつつそう説明すると、しほりは笑顔で了承してくれた。


 そして駅に着いて車を降りた後、別れ際にしほりが柚姫に一枚の名刺を渡してきた。

 その名刺にはアドレスと電話番号が書いてあった。

 けれどそれだけではなかった。


 名刺の裏に3つの名前と番号がシャーペンか何かで書かれている。


 名前は隆史、レオ、栄史と書かれていた。


 目を瞬く柚姫に、しほりはただ苦笑した。

 柚姫の疑問に気が付いていただろう。けれど「誰でもいいから何かあったら連絡してね」とだけ口にした。

 柚姫はしほりが応えないことを察して言葉を飲み込んだのである。











 歩きながら柚姫は一つの名前と番号を見つめる。


 栄史***-****-****


 この中で唯一記されている理由があいまいな人物とその連絡先である。


 隆史とレオはすでに前世を知っている。でも栄史については未だ分からない。

 けれど、しほりが態々書いたのだから確実に関係があるのだろう。

 ならば、どのように関係しているのだろうか。


 栄史はウィリアの転生者なのかと思ったが、それは以前レオによって否定されている。けれどレオの口ぶりからすると栄史は転生者ではある可能性が高い。


 それならばしほりがわざわざ番号を教えてくれた理由も多少は理解できる。


 けれど柚姫の知る転生者たちは、わざとその話題を避けている節がある。だから聞いたところで答えは返ってこないだろう。

 そう思うと新たに疑問が浮上してくる。結局答えは出てこない。


 あれこれ考えていると、あっという間に家は目と鼻の先までたどり着く。

 だが、家の門を開けて柚姫は足を止める。

 玄関が開いているのだ。

 思わずその場にとどまり、様子を見ていると知った顔が現れる。


 噂をすると影というのは本当なのか。


 そこには吉村栄史がいた。

 驚く柚姫に栄史が気付く。少し目を見開いた後すぐにそう言って会釈した。


 柚姫もすぐに我に帰り頭を下げた。


 なぜここにいるのか疑問に思ったが、その思考は玄関から飛び出て駆け寄ってきた利保によってさえぎられた。


「お帰り!どこに行ってたの?メールのも出ないから心配しちゃったよ!」


 大げさにそう言いながらで大きく息を吐く利保に苦笑を浮かべる。


 2年も家出していた利保からそんなことを言われるのは妙な気分だ。

 けれど実際命の危機にさらされた事実もあるので、そんな心配いらないと胸を張っては言えない。


「ごめんね、でも家にスマホ忘れちゃっただけだから。それで吉村さんは?」


 利保に謝ってから、栄史に視線をずらす。門のそばまで近づきながら栄史は手に持ったおかもちを掲げた。

 なるほど出前である。


「ええと、ご苦労様です」


「栄ちゃんありがとう!」


 柚姫と利保が続けざまに労いの言葉をかけるとそっけなく「まいど」と短く返される。


 柚姫は無意識に吉村を観察するが相変わらず表情が読めない。

 いったい栄史は誰なのか。そんなことをぐるぐる考えていると利保が突然後ろから抱き着いてきた。


「柚ったらそんなに顔ガン見したら栄ちゃんが勘違いしちゃうよ!栄ちゃんが私の甥っ子なんてお断りでーす!」


「は、え?」


 唐突な利保の発言に柚姫は目を白黒させると、あきれたため息が前方から聞こえる。


「妊婦は早くは家入れ」


 栄史が冷たくそう返すが、利保はめげた様子はなく子どもっぽく口をとがらせる。


「もう、ノリが悪いなぁ、わかりましたー!じゃーまたね!」


 そう言って未だに戸惑ったままの柚姫の手を引いて玄関に向かう。


 柚姫は逆らう理由もなく吉村の小さく会釈してそのまま足を進む。

 聞きたいことがあるが利保がいる場ではできない。あきらめるしかないと思った柚姫の耳にかすかに声が届く。


「――――――――」


 思わず振り替えった柚姫の目に映ったのは、門の向うに見える吉村の後ろ姿だった。

 

 本当にかすかに耳に届いたそれに問い返すこともできず、ぱたんと音を立てて玄関の扉が閉じた。


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