思い出に変わる日常7
本編ではチョイ役予定の人物が出張ってます。
ダイランとの話を追えてリルはそのまま控え室に向かった。
ホールの裏の扉を開けて細い廊下を通っていけば、控え室と書かれた扉が目に入る。
扉を開けようとするとノブに手を掛けようとした瞬間、扉がひとりでに開く。
慌てて身を引くとそこから現れたのはグラン・ディルダードだった。
「おっと、リル嬢ではないか?レオ君を迎えに来たのか?」
グランはニカッと笑ってリルに問いかけた。
「あ、はい、ちょっと伝言を頼まれて」
「ならば向こうにあるラウンジで待つといい。レオ君は魔法を解くまでニッキー君の姿のままだからな俺も待たねばならん!」
グランはそう言う。ニッキーくんとはたぶんレオにかけられたと投影魔法によって映し出された人物の名前なのだろう。そしてそれをかけたのは目の前のグランだということだろう。
教室の戻るにはラウンジを通らないとならないので、多分すれ違いにはならないだろう。
「わかりました」
「では俺も一緒に待つとしよう」
気持ちのいい笑顔でそう言っってラウンジへとずんずん進んでいった。リルもあとを付いていき、既に座っているグランの向かいにある椅子に座る。
「さて、リル嬢。今回の戦いはどうだっただろうか」
何を言われるのかと思えば、てらいない質問に肩透かしを食らった。
「ええと、すごかったです」
「そうだろう!ウィリアの魔法は騎士団でも群を抜いていたし、ダイランも攻撃魔法だけならばそう劣らないからな!俺は攻撃魔法があまり得意でないからたいへん羨ましい」
うんうんと頷きながらそんな事を言う。あまり羨ましそうに聞こえない。
なんだかよくわからない人だ。
それにグランの中ではレオ対ダイランではなく、ウィリアの魔法対ダイランという構図になっているようだ。
そうなると、ひとつ疑問が沸く。
「ビルズ隊長はこの試合をどうして許可したんですか?」
言ってしまえば完全に私情である。
「ああ、それは特別報酬というのがあってな。王の密命でも報酬があるのはリル嬢も知っていると思うが、金銭ではなく願いをひとつ叶えてもらえるのだ。ただ、ダイランの場合状況が少し違う故マオベリスタで可能なことのみ要望を答えるという形をとっている。実際彼はよく働いているからな」
「ダイランさんはその報酬に今回の対戦を選んだんですね」
「そうだ。けれど彼は今まで一度もその権利を行使しなかった。最近色々と壊しているがそれを権利で押し通したりはせず毎度ビルズ隊長に絞られているからな。故に今回の試合は彼にとって大変意味があったのだろうと思う」
グランはそう語る。それについてはリルもうなずける。
ではグランはどうなのか。少し気になって聞いてみた。
「グランさんは何にを願ったんですか?」
「俺か?俺は女神を見守る権利を頂いたのだ!」
宣言されてリルはぽかんとグランを見た。その顔はこの人は何を言っているんだろうかと書かれているだろう。
だが、グランにはそんなものは通用しないようであった。
「この世界の女神は記録であって本人ではないが、俺は女神の情報としてはとても魅力的だと思う。なので、過去の女神を改めて見るのに大変良い!」
「そ、そうなんですか」
グランの勢いにリルは完全に気圧された。
女神が誰なのか知らないがあまり詳しく聞きたくなかったので当たり障りなく答える。
ちょっと逃げ出したくなったが、どうにかこらえて話の方向転換するために言葉をひねり出す。
「ええと、グランさんは記録を見るのにいいって言いますけど、この状況をどう思っているんですか?」
グランの言い方だとここに来てよかったといっている様に聞こえる。本気で楽しんでいるのか、開き直っているだけなのかよくわからない。
リルの質問にグランは考える素振りを見せる。
「ふむ、おれは後悔というものが好きではないからな。起きたことはまぁ仕方がないこととして、今を生きることに全力を尽くしている!この世界については別の世界として全力で楽しむ気でいるぞ!」
清々しいくらい前向きな言葉である。後悔は好き嫌いの話ではないと思うが行っても無駄な気がした。
「まぁ、それというのも俺の場合は、自分からここへ来ることを希望したのであって、そうでない者にとっては複雑だろう」
グランはそう言った。
それは転生者をしましているのか、最初にマオベリスタに引き込まれた人たちのことを言っているのか。
「あれ、なんの組み合わせ?」
後方から声をかけられてリルが振り返る。すると見知らぬ青年が立っていた。
「おお、来たか!では解くから動くなよ!」
そう言ってグランが手を掲げれば青年を包む魔力が剥がれる。
現れたのは予想通りルーディだった。ただし今は中身は当然レオである
「ありがとうございます」
「いやいや、これも任務のうちだ。それよりも頬は大丈夫か?ダイランの拳はなかなかに重いからな」
グランはレオの右頬を見ながらそういった。見た目は変わっていないが中身はどうなっているのかは知分からない。
「大丈夫ですか?」
「うーん。まぁ、大丈夫かな。やられたときはかなり衝撃はあったけど、マオベリスタの効果か腫れたりしていないし。でもあの脳が揺れた感じはもう二度と体験したくないね」
リルが心配そうに見るとレオが頬をさすりながら苦い顔をした。
頬を打つ衝撃は相当なものだったようだ。ダイランのあのすっきりした顔を思い出しリルは苦笑を浮かべた。
レオもそれを見てちょっと笑う。殴られた事を怒っている様子はない。
「ふむ、俺はこれで去るとしようか。また機会が合えば語らおう!」
そう言ってグランが立ち上がる。リルはグランの方にお辞儀をした。
「ありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ。ではな!」
手を振っていくグランを二人で見送った。姿が見えなくなるとレオがリルの方を振り向いた。
「そういえば、どうしてここに?まだキーラと一緒に試合を見てると思ったんだけど」
「レオさんたちの試合終わった時に私だけ抜けてきたんです。それでダイランさんとお話をしたんです」
「ダイラン君と?」
「はい、それでレオさんに伝言を預かったんですけ、聞きますか?聞きませんか?」
リルの問にレオは虚を疲れたように瞬きをした。
「えっと、聞かないっていう選択肢あるの?」
「ダイランさんが聞かないって言ったら伝えなくてもいいって言ったので」
レオはそれを聞いて少し黙り込む。そして静かに言った。
「聞かせて」
「“死んだら殺す!”だそうです」
ちょっと声を低くしてそう言い放つ。レオの顔を見ればぽかんと口を開けていた。
しばらくそのままでリルはちょっと戸惑いながら反応を待っていると頭上から吹き出す音が聞こえた。
「ぶっ!ふははははは!なにそれ!?わざわざ伝言なんて何かと思ったらそんだけとか!?あははは!」
腹を抱えて笑いだした。リルはあまりの笑い用に少し面食らったあと、すぐに笑みを浮かべた。
わざわざ伝言を残すようなことではない。そして内容も今となってはもうなんだか可愛く感じてしまう。
レオの笑いだんだんとおさまっていき最後に大きく息を吐いた。
「ほんとに何というか。素直なのかそうじゃないのかわかんないね。あの人は。まぁ、本心が透けて見えてるから今更誤解のしようもないけどね」
レオはいつもの困ったような笑顔でそういった。
「ダイランさんはすっきりした顔してました。レオさんはすっきりしましたか?」
「どうかね。でもまぁ、前より気分はいいかな」
「よかったですね」
リルの言葉にレオが頷いた。そしてこの話は終わりと言わんばかりにレオは話を変えた。
「そういえば、さっきはなんの話をしてたの?」
「ここに来ている人たちの報酬の話です。王の密命を受けている人にはひとつだけ願いを叶えてもらえるんです」
「ん?ああ、あれね!でもあれって意外と個人によって差が大きいよね。叶えてもらえるのは一つだから傍から見るとそれでいいのかって思う願いだったりするし。特にグランさんのはどうかと思った」
「レオさん知ってるんですね」
「今日ちょっと話す時間があって聞いたんだ」
「私もさっき、それを聞きました。なんかちょっと危ない人なのかと思いましたけど」
「まぁ、あの人は言動がおかしいけど、やっていることに実害はないそうだよ。ジェミクスさんが言っていたからその実害っていうのがどの程度までの事を言うのかはわからないけど」
ジェミクスを思い浮かべる。ジェミクスは人を悪く言うタイプではないので情報の正確性はイマイチな気がした。
「でも、王が許したということは大丈夫だっていうことですよね。多分」
「そうであることを祈るよ。それにしても今日の試合はダイランの報酬だっていうことか。今さら気がついたよ」
得心が言ったといった様子のレオにリルは首をかしげた。
「前もって言われていなかったんですか?」
「今回の報酬云々については俺自身には関係ない話だからね。報酬の存在はルーディが王の密命を受けた時に聞いたから知っているだけだし」
「レオさんも密命を?いつですか?」
「マオ博士の研究所を探りに行った時だよ。表向きは簡単な実情調査だったけど、王はすでにマオ博士の異常性に気がついていいたから必要とあらば殺すことも視野に入れての任務だった。でもマオ博士はとても優秀だったし、周りからの評価が高くて有力貴族たちとのつながりもあったからね。そういった貴族の後ろ盾で作られた研究所には簡単に踏み込めないから、マオ博士の旧知であることを利用して入り込んだんだよ。まぁ、結果は散々だったけど」
レオは肩をすくめた。何とも返答のしづらい話にリルが黙っているとレオが笑った。
「まぁ、”ルーディ”としては無念だったけどね。任務失敗がまさか世界を脅かす事態に発展するとは思わなかったし。でも失敗したのに報酬をくれる王は寛大だと思ったよ」
「どんな願いを叶えてもらったんですか?」
「生き残ったっ場合は後から考えることになってた。それで、死んだ場合はルーディの願いは“リル”と同じだよ。俺が死んだ場合、俺に関する記憶を特定の人物から消してもらうようにした」
レオの言葉にリルはぴくりと肩を揺らす。
「でも、それならキーラやダイランさんは?」
「王の魔法は絶対だけれど、マオベリスタができてそれが崩れたんだ。ヒイル・エアリアにいる人ならいいけど、マオベリスタにいる人には効果が薄いみたいでね。ダイラン君も最初にマオベリスタに来たときは、俺についてぼんやりとした記憶しかなかったみたいだけど、2年前は完全に思い出してたよ。ダイラン君が俺に対してあたりがきついのはそのせいもあったと思う」
その言葉を聞いてリルの胸に不安がよぎる。聞きたいことがあった。でもリルの口は開くことはなく、耳にベルの音が聞こえた。
昼休憩終了のベルだ。
ふたりは慌てて次の教室に向かって懸けだした。
本当は別の人の出番でした。何故か横取りしてます。




