思い出に変わる日常6
ホールでは苛烈な戦いが繰り広げられていた。
お互い攻撃を避け合い、よけられた攻撃魔法がこちらに飛んでくる。
具現魔法によって放たれた稲妻が光り轟音がホールにこだまする。そしてものすごい速さで火の玉がそこかしこに飛んでいく。どちらも容赦がない。
だが、これは戦力は対等ではない。
ダイランは自身の持つ攻撃魔法だが、ルーディもといレオがウィリアに渡されたブレスレットは完全防御と致命傷の攻撃に対するカウンター付きというえげつないこの上ないものだそうだ。
レオの腹黒い笑顔が頭に浮かぶ。
時々魔法の衝撃波が2階にまで及ぼうとするが、それは見えない安全のために常時はられている防御魔法の壁によって霧散する。
幾度かそれを繰り返し、やがて戦闘は接近戦に持ち込まれた。
その時、黒が思い切り白の頬を殴った。
魔法でも何でもない。ただの拳だ。それによろめいた白に追い打ちをかけようとした次の瞬間に魔法の衝撃が放たれた。
黒はそのまま壁に激しく打ち付けられて倒れた。無傷で立ち上がる白に対し、黒はどうにか起き上がったがそのまま膝をついて立ち上がることはなかった。
しばらくしてベルが鳴り響く。
決着を迎えた。勝者として挙げられたのは知らない名前。
レオが勝ち、ダイランは負けた。
試合の終了と共に、リルはホールを見つめるキーラの横顔を見る。
過去キーラとこの対戦を見たことはない。今のキーラは過去にある似た情報を反映して行動している。そのため見た目に違和感はない。
だがホールを見下ろす姿がどんなにリアルでも隣にいるのはキーラではないのだ。本物でないにこの大戦を見る必要があるのかはわからない。
けれど、レオはたとえ本物でなくともキーラが見てもらったほうがいいと言ってリルに誘導を頼んだ。
激戦を繰り広げた二人はいつの間にか立ち上がり、互いに礼をしてホールの出口に向かう。
白の方はこちらに手を振って異様に元気な様子だ。表情は見えないがたぶん満面の笑顔だろう。
それと同時に、黒の戦闘衣に身を包んだ方もこちらを見上げた。
こちらも表情はよくわからない。けれどその視線の先に誰がいるのかは直ぐにわかった。ダイランはそのあとすぐ背を向けてホールから出て行った。
ダイランは今何を思っているのだろうか。
レオの推測は大部分あたっていると思う。でもそれは推測であってダイラン自身の言葉ではない。
リルは知りたかった。残された人はなにを思うのか。
そしてダイランはこの決着で何を得ることができたのだろうかを。
リルはキーラに断って、その場を後にする。
階段を下りてホールを出ると入口にいた女性と目があった。
「試合終了したら休憩室に向かっているわ。でも負けた人はみんな誰もいないホール裏で悔し涙にくれてから戻ってくるのが慣例よ」
突然そんなことを言われて驚いた。なぜダイランを探していると思ったのかはわからないが、今はそんなことはどうでもよかった。すぐリルは勢いよくお辞儀をした。
「ありがとうございます!」
リルはそのまま外へとに走った。
ホールの真裏にまわる。そこにはと木の生い茂った一角があった。
リルがそっと近づけば、誰もいない芝生に寝転がっていた。
「誰だ?」
リルに気がついたダイランが上半身を起こす。まだ黒い戦闘亥を着たままで、あの時受けた火炎魔法のせいか腕の部分に少しだけ焦げた跡がある。リルの顔を見て怪訝な顔をした。
「なんだ、オメーか。なんのようだ」
なんのようかと言われると少し困るところである。リルは取る会えず話が聞きたい。
「ええと聞きたいことがあって」
「それは、オメーが縁を切るのに必要な質問か?」
「・・・たぶん」
自信なさげにリルが言うとダイランはこちらをジロジロ見たあと溜息を吐いた。
「なら、言ってみろ」
ダイランは簡潔に偉そうにそう言う。だがそれくらいでへそを曲げるリルではない。ダイランの向かいに座って話を始めた。
「ダイランさんはキーラが好きなんですよね」
「あん?おちょくってんのか」
不良のようにメンチを切られた。初対面ならきっとすぐに謝るところだがリルは静かに首を振った。
「違います。ただそう思っただけです。ダイランさんはキーラを殺した転生者を恨んでますか?」
「ああ、聞いたのか。別に恨んじゃいねーよ。キーラも覚悟を決めてマオベリスタに来た。俺は守ってやるなんておこがましい考えは待っちゃいない。そんでそれを聞いて何か分かるのか?」
あっさりとした様子でそう言われリルは少し驚いた。
「いえ、キーラは学院で初めて出来た友だちで、私は今でも大好きです。死んだと聞いて悲しかった。でももし、私も2年前召喚されてたら敵対することになったかと思うとすごく複雑です」
リルは正直な思いを口にする。
「俺はヒイル・エアリア側の人間だからやるときゃためらわねー。でもあの状況で分かり合えるならそれに越したことはないっていうのがキーラの考えだった」
「キーラの?」
「詳しく言うつもりはねーが、キーラは問答無用で殺すんじゃなくて転生者の話を聞こうとしたんだ。アンタが来ててもキーラ相手なら即殺し合いにはなんなかっただろうよ。まぁ、それもルーディがいたからってのが大きかったんじゃねーのかと思うがな」
ルーディの名前が出てきてリルが首をかしげた。
「キーラはルーディに会わなかったんですよね?」
「会わなかった。でもそんなのは関係ねーんだよ。想いの方向性はどうあれ、キーラはずっとルーディを見てた。ルーディだけが特別だった。転生者のことを考えたきっかけはまず間違いなくアイツが転生者だからだろうよ」
ダイランの言葉にレオはそういうのはなかったといっていた。でも、キーラをずっと見ていたダイランはそうだという。
リルは恋愛面のことはわからないでも特別だったのはきっと確かなことだ。
けれどどちらの言い分が正しいかなんてわからない。
キーラは死んでしまった。死んでしまった人の想いを憶測で言い合ってもどうしようもないのだ。
「レオさんのこと恨んでますか?」
「アイツが悪いとか思うほど俺も馬鹿じゃねー。生きる手段があるのに死ぬのは馬鹿のすることだ。ただあのタイミングでいなくなることには正直腹が立ったな」
「試合を申し込んだはそれでですか?」
「このままだと、どうにももやもやするからな。あの面を一度殴ってやりたかったんだよ。生きることを選んだくせに、のこのこと顔出したあの憎たらしい面をな」
ダイランの考えはほぼレオの推測通りだった。
でもダイランは言い方は悪いがその言葉の根底にあるのはレオに対する心配がある様に聞こえる。なんだかんだで結局仲がいいのだろうと思う。
「ええと、それですっきりしたんですか?負けてしまいましたけど」
「・・・オメー、意外に言うじゃねーか。まぁ、別に勝ち負けは気にしてねーからな。実際、俺が今日戦ったのはウィリアの魔法だから負けて当然とも言えるし。それでも攻撃魔法の中に物理攻撃を一撃入れてやったからな。あいつの面張り飛ばせたから取り敢えずいいかと思った」
怒りは感じられない。静かに空を見ていた。 口は悪いけど本当にまっすぐな人だと思う。
そんなダイランをじっと見ていると視線を感じたようで、ちらりとこちらを見た。
「んで、参考になったのか」
「なった、と思います」
「ならいい」
ダイランはそう言ったあと少し考える素振りを見せる。そしておもむろに質問をした。
「そういえば、俺も聞きてーんだけど」
「なんですか?」
「あいつの嫁さんどんなんよ?」
真面目な顔でそんなことを聞かれてリルは目をぱちくりさせた。するとダイランはそれに補足する。
「キーラをふって選んだ女なんだ。さぞかしいい女なんだろうな」
どうやら気になるのはそこらしい。本当にこの人はキーラが好きなんだと思って思わず笑みを浮かべた。そして胸を張って答えた。
「キーラと同じくらい笑顔の素敵な人ですよ、私の自慢のおば様です」
「おばさまって・・・アイツ年増好みだったのか!」
「違います!」
ひどい言われように思わず声を大にして否定した。するとダイランが意地悪そうに笑った。そこにはもう憂いなどない。
「まぁ、いい女なら認めてやるか」
そう言ってダイランは今度は不遜に笑い、そしてそのまま芝生に寝転んだ。
それを見てウィリアの言葉を思い出す。
『二人とも頑固ですからね。”対話”では終着点が見えないとわかっているからほかの終着点を探しているんでしょう。場所さえ考えてくれれば文句は言わないんですがね』
ダイランは終着点を見つけたのだろう。寝転がるダイランの晴れ晴れとした表情を見てリルはそう思った。




