思い出に変わる日常5
に「正直に言うよ。キーラはもういない。ヒイル・エアリアにもマオベリスタにもそして地球にもいない。ビルズたちと同じ立場としてマオベリスタで死んで、そしてその核はヒイル・エアリアに返された。あれは誰が悪いなんて言える状況じゃなかったけど後味悪い出来事だったよ」
淡々とそう告げられる。リルにとってそれはまるで予想できないことでもなかった。でもやはり胸が痛む。
「そうですか・・・やっぱりキーラはもういないんですね。死んでしまった理由を聞いてもいいですか?」
「俺と同じ転生者に殺されたんだ」
リルはその言葉にぴくりと肩を震わせた。レオはそのまま話を続ける。
「マオベリスタではダイランとは会ったけどキーラは合わずじまいだったからすべて伝聞でしかないんだけどね。ダイラン君ならそのところを詳しく知っていると思う。でもキーラを殺した転生者は俺も会ったことがあったんだ」
「知り合いだったんですか?」
「一度だけ殺されそうなところを助けたんだ。その子は死にたくないって泣いていた普通の女の子だった。少しだけ一緒に逃げたけど結局はぐれたんだ。それで彼女は追い詰められてキーラを殺した。俺がそれを知ったのはウィリアが縁切り魔法をあみ出したあとだった。その時生き残った転生者には選択肢が与えられた」
「・・・その女の子はどうしたんですか?」
リルは無意識のそう問いかけた。胸に黒いモヤがかかる。
「残ることを選んだよ。あの子の決意は硬かったし、止められる人間なんていなかった」
リルは言葉にし難い思いが沸くのを感じた。キーラを殺して今も生きているならきっとリルはその女の子を許せる気がしない。でもリルは彼女を責めることはできない。
リルには何が正しいのか分からない。
「俺の中では現世の方が比重が大きかったからかな。俺は縁を切ることを選んだ。ダイラン君には世界を捨てていくのかって言われたよ。ダイラン君は反対しなかったけど2度と俺の前に現れるなと言われた。多分それがあの時できる精一杯の配慮だったんだと思う。ダイラン君はキーラの死を俺のせいだなんて思ってはいないけど、やっぱりそう上手く割り切れるものでもないよね」
リルはレオに対するダイランの態度の根底に有るものが少しわかった。
誰が悪いかといえば、もとを正せばマオになるがそういうことではないのだろう。人の心はそんな単純ではない。
「ダイランさんはなんだかんだ言ってレオさんのこと好きですよね。ただ、レオさんにどう対応していいのか分からにように見えます」
「好きって言われるとちょっと背筋が寒くなるけどね。まぁ、ダイラン君はああいう人だから。本気で嫌いでなら眼中に入れないし、憎いならウィリアが止めようと死ぬ気でかかってくると思うから、ある程度会話できる時点で嫌われてはないのはわかるよ。俺は割り切れてるけどダイラン君はどうだろうね。縁切り魔法は自分の認識が変わるけど、外側から見たらわからないんだ。感覚的なことだからわかってもらうのは難しいみたいだし」
リルは目を瞬かいた。レオの言葉は初耳だった。
「そうなんですか?」
「これは俺の体験談だけどね。あれは前世の強制終了みたいなもんだよ。死んで転生しても前世の延長線上にいる感覚があるから心を縛られる。それがなくなれば世界の見方がガラリと変わるよ。だから俺は今は自分がレオだって自信を持って断言できる。でも2年前はそうじゃなかったから、あの時ヒイル・エアリアを捨てる決断をしたのは”俺”あり”ルーディ”でもある。認識は変わっても、その事実はなかったことにはならないからね」
「後悔・・・していますか?」
躊躇いがちにリルが聞くと、少し目を開いたあとすぐに首を振った。
「いいや、してないよ。後悔してるなんて言ったらそれこそ今隣にいてくれる利保への裏切りだよ。だから俺は謝らない。そもそもダイラン君にしても謝罪なんて求めてないと思うし。再開したときの口ぶりからして俺が戻ってきたことに怒ってて、でもウィリアの采配でこうなってるから全否定はできない。それ以外にも色々と複雑な心境だろうけど、最終的に出した結論は”一発殴ってやりたい”とかそういう感じにたどり着いてんじゃないかと思うよ。ダイラン君は基本真っ直ぐな人だからけじめをつけたいんだろうね。ただちょっと人よりだいぶ過激だからその一発が死ぬ一歩手前までやりかねないのがこわいところだけど」
レオは肩をすくめて笑う。ウィリア立ちの力関係は既に把握している。リルもその分析には納得である。
リルが知る限りのダイランの行動を考えると ”取り敢えず殴る”というのがものすごくしっくりくる。
そのために舞台を用意するというのだからすごい行動力である。ビルズもよくこれを了承したなと思う。
ダイランのそうまでさせるものはなんなのか。思い浮かぶのはやはりキーラの姿だ。
ルーディとキーラ、そしてダイランの関係は本当はどういったものだったのだろうか。先ほどレオが恋愛に発展しなかったという言葉を思い出しリルは”リル”いなくなってからのことを尋ねた。
「ルーディが研究員で、キーラは騎士になったんですよね。ふたりとも結婚とかはしなかったんですか?」
「しなかったね。少なくとも俺にはそういった関係の人はいなかったよ。キーラは大切だったけどもう家族みたいな扱いだったから。とくにキーラはいくつになろうとあのまんまだったよ。そこに最後まで食らいついていあのがダイランだった。フィアーメルンの時既に好きだったみたいだから、ダイランの片思いは相当長いよ。多分30年以上かな?」
「30年・・・なんといったらいいんですかね」
ダイランの気が長いのかキーラが鈍すぎるのか。何とも言えない。レオも呆れたようにため息をつく。
「まぁ、そんな感じね。二人は同じ騎士団で同期だったから卒院した後は”ルーディ”よりもずっと長く一緒に居たと思う。まぁ、恋愛方面で付き合っているという話は耳に入ってこなかったけれど、ダイラン君はずっとキーラしか見てなかったのは誰から見ても明らかだったからね。さすがのキーラでもなんとなくくらいは気づいただろうし、もう少し時間があればそうなってもおかしくなかったんじゃないかなって」
レオの推論にリルは内心首をかしげる。
”リル”として関わった短い時間でも、お互いに欠かせない存在に思えた二人だった。いなくなっても他の人を隣に置くイメージがわかない。
恋愛経験のないリルにはわからないだけなのだろうか。
納得いかない様子のリルにレオは苦笑を浮かべた。
「まぁ本人はもういないから全部推測でしかないけどね。でもダイランと一緒になったら幸せだったんじゃないかなって思うよ。まぁそれもただの俺の願望かもね」
レオはそう語る。まるで保護者である。
そしてレオはダイランに対して普段は辛辣でだいぶ大人げないが、目の前にさえいなければいないとなると随分好意的である。
辛辣なのはダイランが突っかかるせいもあるかもしれないが、レオ自身もやはり全て割り切れているわけではないのだろうか。
どこかにダイランもしくはキーラに対して負い目があるのかもしれない。
そんなことを思いながらレオの様子を窺う。
「提案を受けるんですか?」
「受けるよ。俺としても前世だから関係ないって全て切り捨てるつもりはないからね。先にリタイアした人間としては付き合わないわけには行かないよ。それに俺がとしてもいい機会だからね」
「どういうことですか?」
リルが不思議そうに尋ねれば、とレオがからりと笑う。
「”ルーディ”は攻撃魔法は不得手だったから実践ではダイランに勝てなかったんだ。でも今ならウィリアのブレスレットで勝てるかも知れないから。まぁ、勝てなくてもダイランをぶっ飛ばしたらすっきりすると思ってね!」
レオが意外に腹黒いことは知っていたが、思った以上だったようだ。毎度くってかかられて鬱憤が溜まっていたのだろうか。レオの方には感傷はみられず楽しげだ。
負い目を感じているかもという考えはあっけなく霧散した。
そうなるとダイランの方がかわいそうになってくる。リルの知っている”ルーディ”どちらかというと拳より言葉を選ぶ人間だったように思う。
今回ガチンコ勝負を選んだところをみると、今の二人は意外に似た者同士なのかもしれない。
あくまで推論だ。
リルはそれは口にせず、ただ「頑張ってください」と激励だけしておいた。




