夢と現を繋ぐもの6
場所は変わって学校のカフェテラス。時間帯のせいか人はあまりいない。
あの後、ウィリアの指示に従って教室を離れた。あのまま放置して大丈夫なのかリルが聞けば心配いらないと返された。
先ほどのことは、マオベリスタの許容範囲外と判断されて王の魔力を持っていないものは忘却魔法が発動し認識されないらしい。
リルが今回の出来事を覚えているのは、ほんの少し核に混じったエミリアの魔力と魔石のペンダントのおかげらしい。
リルの周りを空間魔法で擬似空間を展開し、干渉してくる魔法を妨害する。それによって忘却魔法の対象外になるということで、本当に便利なアイテムである。
長年ここに暮らすビルズたちにはどこまで許容されるかを把握しており、対処もある程度心得ているという。
だからといって問題がない分けではない。壊れたものは勝手に直るわけではなく世界に歪みを生みそれは、ヒイル・エアリアにも影響を及ぼすらしい。
破壊の限りを尽くされた教室にはジェミクスが出張してきてくれるということだ。尻拭いばかりでなんだかかわいそうであるがリルにはどうしようもない。
3人と1匹は外のテラスの一席を陣取った。周りにはほかに誰もいない。
席はリルとレオがとなりで向かいにダイランである。
最初に口を開いたのはウィリアだった。
『それで、ダイランさんは何のようですか?昼間の護衛はこちらでするということで話は付いたはずです』
ウィリアが言うとダイランは人差し指を音が出そうなほど勢いよくレオに突きつけた。
「コイツの気配がしたからだ。コイツは縁切り魔法とやらでこことは無関係になったはずだろ。なんでここにいやがる」
「ウィリアの頼みだから来ただけだよ。護衛は多い方がいいでしょ」
応えたのはウィリアではなくレオだった。ダイランは忌々しげに鼻を鳴らす。
「テメーなんていてもいなくても同じじゃねーか。自分で魔法も使えないくせに」
二人はまたいがみ合いはじめた。
そんな様子のウィリアは嘆息して、静かに一撃必殺を繰り出した。
『もう一度頭を冷やしたいですか?』
二人はぴたりと黙った。効果覿面である。そんな光景にリルは苦笑いを覚えながら話の方向を修正した。
「そういえばレオさんさっき魔法を使っていましたけど、あれはどういうことなんですか?」
「ああ、あれはこれのおかげ。ウィリアにもらったんだ」
そう言ってレオが左腕の袖をまくって腕を差し出した。その手首には少しゴツめのブレスレット装着されている。
ブレスレットには透明の小ぶりの魔石が複数はめ込まれており、見たところおしゃれといった雰囲気ではない。レオが腕をそのままに説明した。
「これが大気中の魔力を吸収して、防御魔法を展開するんだ。つまるところ護身用アイテムだね。さっきの盾はこの中で唯一俺の任意で展開できる魔法なんだ」
『一応消耗品なのであまり無駄遣いしないでくださいね、レオさん』
「あはは、ごめん、ごめん」
『ダイランさんも下手な挑発に乗らないでください。どう考えてもあなたの方が優位なんですから減らず口くらい軽くいなしてほしいです』
冷静な指摘にグゥの音も出ないようでダイランは、反論を口にせずただそっぽを向いた。レオについてはもう少し反省したほうがいいように思う。
色々あって忘れていたが、利保から聞いていた話からすればこの人も結構な自由人だったことを思い出した。
思えば自分の周りにはそういう人間が多い。自分は自由人を引き寄せる何かがあるのだろうか。
「まぁ、どうせだからお茶でものまない?せっかくカフェテリアにいるんだし」
『俺は飲めませんよ?』
「気分だよ、気分!」
「おい、勝手に決めんじゃねーよ」
へらりと笑うレオに青筋を浮かべるダイラン、それに嘆息したウィリアは提案した。
『お茶についてはどちらでも構いませんが、せっかくなのでゆっくり話し合いでもしますか?一応ビルズ隊長達とはレオを介して情報交換しましたが、結局マオの目的はわかっていません。何か見落としていることがあるかもしれません』
「俺はウィリアに従うよ」
『ダイランさんどうしますか?こちらとしては参加してもらえるとありがたいですが』
ウィリアがそう言いながらダイランの方に視線を移した。小鳥のつぶらな瞳で相変わらず淡々そう問いかける。ダイラン一度顔をしかめたあと「しかたねぇ」とだけこぼす。
ふたりの了承を受けてウィリアがリルのほうを向いた。
『これから話すことや、これまでのことで気になることや疑問があったら聞いてください。答えられる範囲で答えますよ』
そう言われてリルはただ頷く以外に選択肢はないだろう。
話がまとまりレオは立ち上がり、リルに「シヨルの紅茶でいい?」と尋ね、自分で買いに行くと遠慮しようとするとにこにことかわされた。
さっとカフェテラスの中に姿を消したかと思えば、レオは意外に早くトレーを持って帰ってきた。そのトレーにはなぜかコップが4つ。
最初にリルの前に置かれ礼を言う。シヨルの葉の香りにほっとする。
次に飲めないウィリアと頼んでいないダイランの前にも置かれた。ダイランのカップにはその隣に角砂糖が二つ転がされた。
シヨルのお茶はそのままでも十分甘みがあるので砂糖を入れるのは少数派である。
けれど、ダイランはまるで当然といった様子でその二つの角砂糖の包を破ってその中に放り込み、コップを手に取って飲み始める。
そのことにレオも文句は言わず自分の紅茶を飲んで「生き返るー」などといって息を吐く。
やっていることは先日の第3研究室の凸凹コンビと同じことである。先程まであんなにいがみ合っていたのはなんだったのだろうか。
犬猿の仲ではなく、喧嘩するほど仲がいいということなのだろうか。だとしても、ちょっとあの喧嘩はやりすぎである。特にダイランの攻撃魔法は下手をすれば死ぬ威力がある。
リルにはちょっと理解できないない。そう思いながらもそれを口にはせず紅茶と一緒に飲み込んだ。
実害がなければ言う必要もない。触らぬ神に祟りなしである。




