変わらない日常6
ケーキをぺろりと食べ終えた利保は、先ほどと同じように満足げに笑う。基本笑顔がデフォルトと言っていい人である。アイスティーで喉を潤し、一息ついたところで笑顔のままで話し始めた。
「ふふ、2年ぶりだね。いやもう柚もJKかぁ。ガッコ楽しい?友達はどう?」
今更ながらの再開の挨拶である。利保は破天荒だがそれよりも自分に負けず劣らずのマイペースだと柚姫は思っている。柚姫もそのマイペースにあわせて言葉を返した。
「うん。久しぶりだね。学校は付属校だから持ち上がりが多くて割と顔ぶれは変わってないかな」
「そっかそっか。じゃあ杏里ちゃんもいっしょ?」
「うん。同じクラスになったよ」
「じゃあ安心だ」
ニッと笑って利保は残りのアイスティーにミルクを足して残りを一気に飲み干した。
各務杏里。
柚姫の中学校からの親友でバイタリティーあふれる活発な女の子である。面倒見よくて、柚姫を引っ張っていってくれる有難い存在である。
柚姫はコミュ二カーション能力がだいぶ乏しい上に、表情もあまりなければ反応も鈍き、人によっては「何を考えているかわからない」と倦厭されたりすることもままあったので、杏里は貴重な存在である。
利保それが分かっていているのだろう。「良かったね」と柚姫の頭を撫ぜる利保の目は優しい。なんともこそばゆい。
利保は手を引っ込めると少しだけ申し訳なさそうに眉じりを下げた。
「突然いなくなってごめんね。でも自分の意志を曲げるのは私の信条に反するの。最後に会った時も言ったけど、あんたの祖父様と私の考えはきっと一生一直線だわ。説得できるまで諦めない道もあったかもしれないけど、人間の一生なんて限られているし、いつ死ぬかなんてわからないからね。私は自分の納得いくように、後悔しないように生きたかったの」
利保は手をそっとお腹に添えてはっきりと告げた。その姿は確かに自分の知る姿だが前よりも強い意志が伺え、柚姫はそれを美しいと思った。
利保がいなくなったときそれは大騒ぎだった。当時の利保はまだ18歳の高校生。
若気のいたりという言葉はあるが、その行動に至った利保の心情を柚姫に推し量ることはできない。
だが、今の利保を目の前にして柚姫はそれについて共感するのでなく納得した。
そして、素直な気持ちを言葉にした。
「おば様が自分を幸せにするためにその選択をしたなら私はそれでいいと思う。お祖父さまにはお祖父さまの考えがあったと思うけれれど、おば様の人生はおば様のものだもの」
柚姫のその言葉に一瞬目を少し驚いたような顔をしたあと直ぐにわ少し笑い声を漏らし笑顔を浮かべた。
「ほんとあんたは相変わらずね。ありがとう」
その言葉に柚姫も少しだけ口角を上げる。分かるか分からないか程度のかすかな笑みを浮かべた。