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夢と現を繋ぐもの2

 ふたりを招き入れたあと、柚姫は手に持っていた本の片方を差し出した。吉村の本である。利保は苦笑しながらそれを受け取った。


「ごめん、ごめん。結局取りに来ることになったね」


「悪いね、柚姫ちゃん」


 利保に続いてレオも謝ってきて柚姫は大きく首を振った。実際本を預かっただけで柚姫は何もしていない。謝られるのも変な感じである。利保はレオにその本を手渡した。

 そんな柚の横から杏里が本を覗き込む。


「その本って旦那さんのなんですか?ずいぶん古そうですけど何の本なんですか?あ、私この子の友だちの各務杏里です!」


 そう尋ねながら思い出したかのように自己紹介をした。


 杏里には本を取りに来ることは言っていたが細かいことは説明していなかった。先程、柚姫がこの本を手に物思いにふけっていたのもあるのだろう。本を見る視線が熱い。

 レオは先程と同様にもう一度名乗ってから軽く説明した。


「これは、俺と利保の友人の本だよ。俺が借りたんだけど、利保の方が会う機会があったからその時返してくれるよう頼んだんだ。でも忘れたみたいでね。それでまた持って帰るのが面倒でここにあずけたんだよ。それで今日その友人に会うことになった引取りに来たんだ」


 その返答に杏里は「そうなんですか」とちょっと拍子抜けしたような声を出す。杏里の一番聞きたい部分はそこではなかったのだろう。

 だがレオは気にする様子もなく笑顔でそう答えたあともうひとつの本に視線をずらした。


「あれ、これ、夢羅隆史の新作だね。柚姫ちゃんの本?」


「へ?」


 いきなり話を振られて変な声が出た。すぐに頷くと今度は杏里が反応した。


「旦那さん知ってるんですか?」


「この本の作者は今言った友人の兄さんなんだ。いや世間は狭いね」


 楽しげにレオが笑う。それに杏里と利保が驚きの声を上げた。


「そうなんですか?」


「栄ちゃんのお兄さん小説家なの?ていうかお兄さんいたの?」


 利保は吉村の兄の存在すら知らなかったらしく、レオの方を勢いよく振り向いた。


「知らなかったのか?まぁ、栄史はそういう話はしなさそうだし、栄史が言わないのに俺が言うのも変な話だしね」


「でも、身内が小説家とか自慢しません?結構人気らしいですし。うちの妹も本集めてるし。兄弟仲が悪いんですか?」


 杏里が不思議そうに質問するとレオが苦笑を浮かべた。


「いや、そういうんじゃないと思うよ。単に年が離れていてあいつが小学校高学年の頃には別に暮らしていたから話題に上らなかったんじゃないかな?」


「ふぅん。そんなもんなんですか?」


「そんなもんだと思うよ」


 レオにそう言い切られて杏里は首をかしげながらも一応納得したようだ。


 柚姫としては年の離れた姉妹が身近にいるのでそうかもしれないと思う反面全く話題のもぼらないのも不思議なものだと思った。

 姉妹と兄弟では勝手が違うのだろうか。


 一方、利保はというとちょっとふてくされた顔で文句を言いだした。


「栄ちゃん水臭いなぁ。教えてくれればいろんな人に布教活動してあげたのにぃ」


「お前だって柚姫ちゃんの話してないんだから似たようなもんだろ。お互いの好き嫌いは俺以上に細かく分かるくせに、昨日栄史と電話したら柚姫ちゃんをお前の妹だと思ってたって聞いて唖然としたぞ」


 呆れ顔のレオに利保も負けずに言い返す。


「だって、幼馴染だもん。長いあいだ一緒に居れば好みは大体わかるようになるし。妹だっていうのは単に向こうが誤解しただけよ」


 胸を張って利保が答える。何を話したのか心配になる一方で柚姫は既視感を覚えていた。


 柚姫は前々利保にキーラの面影を見ていた。今目の前で繰り広げられている会話はルーディとキーラに似ていた。


 レオがルーディならば、もしかして利保はキーラだったりするのだろうかという疑念が湧いてきた。けれど、それをこの場で聞くわけにはいかない。


「とりあえず立ち話もなんだし、座らない?」


 柚姫がそう促すとみんなもそう思ったようでそれぞれ椅子に座り、柚姫は「お茶を用意してくる」と言ってダイニングへ向かった。食器棚を開けたところで後ろから声をかけられた。


「手伝うよ」


 振り返ればそこにはレオがいた。レオはすぐそばにやってきて戸棚に手を伸ばす。


「このコップでいい?」


「あ、はい。ありがとうございます」


 そう言ってレオを見上げる。柚姫はコップを次々と渡されそれをカウンターの上に乗せた。すると頭上から少しひそめられた声が降ってくる。


「昨日は大変だったね」


 そう声をかけられ上を見上げる。こちらを見るのは昨日とは見た目がまるで違っているので昨日名乗られていてもどこか実感がなかった。

 目の前で困ったように笑うその表情が今初めて昨日のルーディと重なった。


「やっぱりあのレオさんはルーディだったんですね」


 柚姫がそう言うとレオは少し目を見開いたあとすぐに笑い出した。


「ははっ、君もね。見た目違うと印象変わるけど中身はやっぱり同じなんだね」


 可笑しそうにそう言いながらレオはジーパンのポケットに手をやった。


「今日は本のこともあるけど、本命はこっち。これを渡しに来たんだよ」


 そう言って差し出されたのはペンダントだった。細い銀のチェーンにペンダントトップには丸いガラスがついている。ガラスは透明で不思議な輝きを放っている。


「ウィリアの魔法を封じた魔石だよ。これをこっちの世界で身につけておけば、一度だけはマオベリスタから自力で帰って来られる」


 そう言って目の前に差し出されたペンダントの効果に驚きながら柚姫は自分の手を伸ばす。

 こちらの世界で魔石を目にするとは思わなかった。しかも透明ということは天然魔石である。

 ウィリアとうい人物の謎が深まるばかりである。柚姫の顔色を読んだのかレオが困ったように笑う。


「いろいろ聞きたいことあると思うけど、こっちで話すのはなかなか難しいからし、俺もそのへんは詳しくないんだ。だから質問は申し訳ないけどウィリアにしてね」


 そう言われ、仕方なく柚姫は頷いた。


「わかりました。ありがとうございます」


「お礼ならウィリアに言ってやって」


「はい、ウィリアさんにも言います。でもレオさんにも感謝しています」


 柚姫はここで初めて少しだけ笑みを浮かべるとレオも「どういたしますて」と言って笑った。


 レオの言うとおり聞きたいことはたくさんあるが長話をする時間は今はない。けれどひとつだけ聞きたかった。少し考えたあと柚姫はそれを口にした。


「レオさん。おば様はもしかしてキーラだったりしますか?」


 すると、レオは驚いたように目を見開いた。けれど、すぐに困ったような笑みを浮かべた。


「いいや。違うよ。利保はキーラじゃない。・・・残念?」

 

 柚姫は肩透かしを食らったような気になった。残念と問われて残念そうでもない自分に気がつく。

 よくわからないがむしろどこかほっとしたような気分だった。柚姫は感じたまにそう言うとレオはただ「そうか」とだけ答えた。


 そしてレオはそこでこの話は終わりとばかりに笑みを浮かべて柚姫を促す。


「とりあえず、利保が痺れを切らす前にお茶を持ってかないとね」


「あ、はい」


 柚姫はペンダントをポケットにしまう。先ほど取り出したコップに、レオが冷蔵庫の氷を入れ柚姫が烏龍茶を注ぐ。手早く用意して柚姫たち客間に戻ることにした。













 客間に戻ればレオから受け取ったお土産がそれぞれの席の前にひとつずつ並べられていた。


 夏季限定のマンゴーと桃のゼリーというもので利保のお気に入りの一品だそうだ。


 柚姫は紅茶の方が良かっただろうかと思いつつそのゼリーのとなりにコップを並べる。

 聞いてみると紅茶も烏龍茶も似たようなもんだと返ってきて、それはどうだろうかと柚姫は首をかしげた。

 けれど気にならないのであれば柚姫としては問題はない。それぞれ座ってゼリーを口にする。


「これ美味しい!さすがマンゴー好きですね!」


 褒め言葉らしきものを口にした杏里に利保たちも笑う。

 杏里は人見知りなど全くしないのでレオにも「旦那さんもマンゴー好きですか?」などと問いかけた。


「俺もマンゴーは確かに好きだけど果物ならなんでも好きだよ。利保には負けるけど」


「季節限定モノはチェックしてるからね!」


 レオの苦笑に利保はドヤ顔である。面白い夫婦である。限定スイーツの話に花を咲かせているうちに小さなゼリーはあっという間の4人の腹におさまる。

 そして、話題は子お腹の子どものことや結婚のことなどに移り、利保と杏里の止まらないおしゃべりに柚姫とレオは聞き役になってとりとめのない話をした。

 そうすれば時間はあっという間に過ぎていった。











 利保とレオは吉村との待ち合わせの時間が近づいてきたということで柚姫の家を後にした。

 それから少しして続いて杏里も勉強がひと段落ついていたので、借した本を持って帰っていった。

 

 柚姫は杏里の背中を見送ったあと、柚姫はレオから受け取ったペンダントをポケットから取り出した。 

 それは魔力を感じることのできないこの体ではただのガラス玉と変わり無い。けれど柚姫にとっては命綱になりうる強力な魔法のアイテムと言えた。


 そっと留め具を外し、ペンダントをその首につけて柚姫は家の中に戻っていった。

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