変わらない日常5
予想通りの炎天下の中での活動は厳しい。だがその分エアコンの効いた店内入った時の涼しさは至福である。今いるのは家から少し離れたビル街にある喫茶店。昼前ということもあってか、あまり人がおらず落ち着ける空間だった。
突然の告白の後、柚姫は詳しい話を聞き出す前に笑顔の利保にあれよあれよという間に自前のバイクの後ろに乗せられて30分後にはこの喫茶店にいた。バイクに乗る際、「妊婦なのに大丈夫だろうか」と頭によぎったが自信満々に「大丈夫!」と言って押し切られてしまった。
柚姫は未だに何から言えばいいかと考えていると先程頼んだアイスティー二つととケーキが運ばれてきた。ケーキは美しくカットされたマンゴーが惜しみなく盛り付けられたタルトである。
「これよ、これ!久しぶりだわここの季節限定マンゴータルト!」
利保は歓声を上げてタルトにフォークさしてパクパクと口に運んでは笑みを深くする。
さっきから食べ物ばかりに執心している姿は柚姫がよく知る利保そのもので、昔からよく食べ歩きに連れて行かれたものだった。
本当に食べるのが好きだなと思いながら柚姫もアイスティーにストローを指して一口呑む。普段ファーストフードは利用するがこのような喫茶店で紅茶を飲むことなどあまりない。
柚姫と利保は年の差が5つしかないので見た目は姪と叔母というよりも姉妹に見える。傍から見ると破天荒な姉の後ろそっと控えるおとなしい妹といった感じだったと母が言っていた。
柚姫はこの現状に驚いているし先程から疑問がやまほど浮かんでいるが、だからといって焦って何か聞きだそうという考えにはいたらない。
前世を合わせれば生きてきた時間は31年。この夏の終わりには32年になる。今の世の中年齢相応な態度という物自体が曖昧な部分はあるが、さすがに10代の若さとは比べれば明らかに違うものがある。
肉体が10代でも年齢の倍の経験の蓄積と元からの真面目な性格もあって、無邪気な振る舞いや衝動的な行動ははばかれるものが柚姫の中にはあるのである。