表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/98

”世界”の法則4

 リルは王城の中庭にあるテラスの椅子に座りながら迷っていた。それは王立研究所に向かうか、それともこのまま自室へと帰るか、もしくはエミリアに会いに行くかだ。


 エミリアについてはもう単純に会う勇気がないので、リルの中ではもうほとんど選択肢から外れているといってもいい。


 マオ・アーベンズについては昨日とは今では状況が大きく違う。

 リルは先ほどから頭から消えない疑問に頭を悩ませる。“マオベリスタ”が何の為に創られたか。マオ・アーベンズがビルズと同じ立場の人間だとすれば、ビルズと同じく黙秘するだろう。

 王命はヒイル・エアリアの人間にとって自分の命をとしても果たすべきものなのだから。


 だが、リルは今それ以外の可能性を感じている。

 リルの前に2度姿を現した少年は何かしらの目的で動いている。それはビルズの話とはどうにも重ならない。


 ビルズの話は言ってしまえば忠告である。ビルズが情のない人間だとは思っていないが、あの話をまとめてしまえば無事に元の生活に戻りたければ余計な詮索や行動をするなということだ。

 けれどあの少年がちがう。わざわざ自分からリルに接触し、干渉してきた。不可解な発言をし、リルの心を揺さぶった。

 リルの“何か”を求めていた。

 たったそれだけのことだが、リルが違和感を覚えるには十分なことだった。


 ビルズの言葉に頷いたもののリルとしては不安が拭えない。リルの知らないところで得体の知れない何かが動いている。そんな気がした。


 その時ふわりと風が舞う。背後に魔力の収束を感じリルは思わず振り向いた。


「こんにちは。リル」


 穏やかにそう語りかけている少年。今の今まで頭に思い浮かべていた人物、マオ・アーベンズだった。












 マオはリルを見て小さく溜息を吐いた。


「もう僕にたどり着いたんですね。僕は確かにマオ・アーベンズです。ビルズ・ホーギーにも接触したようですね」


 目の前の少年は淡々とした声音でそう言い、リルは息を飲んだ。だがマオは精神系感応魔法の使い手だ。リルが表面上ごまかしても筒抜けになる。リルは取り繕うのはやめて疑問をそのまま口にした。


「ビルズ隊長を知っているの?」


「知っているというと語弊がありますね。直接あったことはありませんが、お互いの情報は持っています。あなたの考えているとおり僕は彼女の仲間ではありません。彼女らは僕からすれば追跡者といったところでしょうか」


「追跡者?」 


 リルが眉根を寄せて尋ねると目の前の少年は薄く笑う。


「ビルズ・ホーギーは言わなかったのでしょう?この世界がなぜ創られたのか」


 マオの瞳がリルを射抜く。リルはなぜだかわからない。目の前の少年から目が離せない。


「あなたは知っているの?」


「“マオベリスタ”はもともと僕が生んだようなものです」


「あなたが?王の創造魔法ではないの?」


 ビルズの話と違う。そう思って訪ねるリルにマオは少し考える素振りをする。


「そうですね・・・僕のものであって王のものでもあるというところでしょうか。でもそんなことはもう些細なことです。この“マオベリスタ”は役目はもうおわります。あとは”あなた”が願うだけです」


 ひどく嬉しそうに目の前の少年は笑う。初めて見る笑顔らし笑顔をリルは呆然と見つめる。どこか懐かしくけれど少しだけ怖いと感じる微笑み。

 少年はリルに向けてその手を差し伸べた。まるで、その手を取れというように。


「“あなた”は生きていいんですよ」


 今までの心をゆさぶる問いかけではない。ただただ少年は甘やかすように囁いた。

 リルは意識が遠のくのを感じた。


「“この世界”から一緒にでましょう?」


 誘うマオのその手を無意識に取り言葉を返そうとしたその時、急に足音が揺らぐのを感じた。


「うらぁ!!!」


 怒声とともに突然激しい地響きがなり、次の瞬間、地面の割れ目から火柱が吹き上がる。リルは魔力の発動を感知して覚醒し、反射的に後ろに飛びその火柱を呆然と見上げた。

 それは正しく物質系の攻撃魔法だった。


 リルは魔力の出処を感知してそちらに身を向けた。土煙のむこうから叫び声が聞こえ、次の魔法の発動を確認した。


「炸裂魔法ライテ・ボルド!!」


 少年が掲げて腕にイナズマが走り振り下ろした瞬間、土煙が吹き飛びイナズマがリルの目の前を一瞬にして駆け抜けた。

 直後に起った衝撃派と強風にリルが思わず目をつぶって身を伏せる。


 それから数秒後、魔力の粒子が散ったのを確認して目を開けば無傷のマオと、火柱が起きた地面をはさんでもうひとりの少年が立っていた。

 年頃はリルと同じくらいで、珍しい灰色の髪と瞳の少年だった。


「無傷かよ!可愛くねーなぁ!」


 少年はマオに向かって憎々しげにそう言って舌打ちをする。そして再び魔法を発動しようとした。

 だがそのとき少年頭上空間に魔法が発動した。そして次の瞬間そこから何かが落ちてきた。


「ぎゃあ!!?」


 どさっという音とともに少年が叫び声をあげたかと思うと、その落ちてきた何かに押しつぶされて地面に押しつぶされた。

 少年を押しつぶした人物は体を起こし勢いよく辺りを見回した。そしてリルと目が会った瞬間慌てた様子で叫び声をあげた。


「リリリリトルさん、無事ですか!」


 リルはジェミクスのどもり具合に面食らいながらも頷いて、視線をジェミクスの下にずらした。


「あの、下の人は大丈夫なの?」


「ジェミクス!どけ!!」


「あれ?ひゃあ!?ご、ごめんなさい!ダイランさん、大丈夫ですか!?」


 その場から勢いよく飛び退いた。起き上がった少年ダイランはジェミクス以上に機敏に辺りを見回す。そこには大穴のあいた地面以外には何もなく、マオもいなくなっていた。


「畜生め!逃げられた!!テメーは邪魔すんなっていっただろうが!!」


 ダイランは不良のような鋭い目つきでジェミクスを睨みつけた。それにびくりと肩を震わせたジェミクスだが予想外にもダイランに反論を返した。


「だ、だめです。ダイランさん。い、いくら現実ではなくてもここは王城です!もの壊したら捕まっちゃいます!!ビ、ビルズ隊長に叱られますよ!!」


 涙目でそういったジェミクスにダイランはぐっと言葉が詰まったあと舌打ちをひとつして「わかったよっ!」と乱暴に返す。


 ジェミクスはそれにホッと息を吐いたあと地面に他を付いて「修復魔法で大丈夫なのかな」と少し不安げに魔法を使い始めた。

 そして一連の出来事を半ば呆然としていたリルに少年が大股で近づいてくる。


「おい!無事か!」


 怒鳴るようにそう問いかけられてリルは驚きつつも大きく頷いた。そして先ほどジェミクスが口にした名前を反芻して少年に問いかけた。


「ダイランってもしかしてダイラン・フォルトさんですか?」


 リルの問いにダイランは眉間に深い皺を寄せる。


「なんで知っているんだ」


「ええと、キーラとルーディに聞いたので」


 リルがそう答えるとダイランは表現し難い表情を浮かべたあと、少し沈黙をおいて「それはおいておくとして」と乱暴に話を変えてきた。


「これからは記憶以外の接触者は徹底的に無視しろ。聞く耳持つな。じゃないとあいつの催眠魔法にかかって戻れなくなるぞ。おまえがおとなしくしてりゃ全て丸く収まる!」


 ビシッと人差し指を突き立ててダイランは言い放つ。その言葉にリルは沈黙した。それを見てダイランは深くため息をつく。


「言っちゃ悪いがあんたはこっちじゃもう死んだ人間だ。随分こっちに傾倒しているみたいだが、もっと生きている方の自分を大事にしたほうがいいんじゃねぇの。まぁ、大きなお世話だろうけど」


 ダイランが言い放った言葉にリルが目を丸くする。ダイランすぐに背を向けて「ジェミクス扉開け!」と言い放つ。


 ジェミクスはひとこと「気をつけてくださいね」とだけ言ってふたりはその場を去っていった。

 テラスはまるで何事もなかったかのように元通りに。そして王城への侵入にも誰も気づくことはなかった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ