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”世界”の法則1

 朝をウィルに起こされ着替えて学院に向かい授業を受ける。いたって平穏な一日だ。

 特別なことと言ったらマギルダが結婚退職するという知らせを受け、祝う生徒の裏でこの世の終わりのような顔で沈んでいる生徒を見かけるくらいのことである。


 ジェミクスが研修に入った時点でその可能性があったとリルは思っていた。

 マギルタファンの人間からすればそうでなければいいと願っていたものが現実となりまるでお通夜のようだ。ファン心理がよくわからないリルにとっては普通におめでたいことである。


 午前の授業を終わってリルはキーラとルーディと一緒に特別図書閲覧室に足を向けた。

もちろんお祝いの言葉を言うためだが、リルとしてはもう一つ目的がある。それはジェミクスに会うことだ。


 何かあるであろう4人のうち自分から会いに行けるのが彼女だけである。 

 マオ・アーベンズは朝起きるのが遅かったので聞きに行くことができなかったし、他のふたりは面識もなくどこにいるのか知りようがなかった。

 キーラとルーディは知っているだろうが紹介してもらうわけにも行かない。消去法でいくと最終的にジェミクスにたどり着くのは必然といえた。


 3人がたどり着くと特別図書閲覧室はすでにそれなりの賑わいを見せえいた。キーラはマギルタを視界に入れると喜色を浮かべて駆け寄った。


「マギィちゃん!結婚おめでとう!」


「あら、ジェイルさんありがとう」


 唐突に抱きついてきたキーラにマギルタは少しだけ驚いた顔をしたあと、すぐにに柔らかい微笑みを浮かべた。慈愛に満ちた表情に周りの空気がさらに柔らかくなる。微笑ましい光景である。


 リルがとなりを見るとルーディのがしょうがないといった様子で肩をすくめ苦笑を浮かべた。それを見て見てリルも笑う。そしてマギルタと彼女に抱きつくキーラの元へ近づいていった。


「おめでとうございますマギルダさん」


「おめでとうございます」


 ルーディとリルもそれぞれ祝いの言葉を告げるとマギルタはキーラの頭を撫ぜながら笑顔を向けた。


「ありがとう。ふふ、今日はみんながお祝いを言いに来てくれて私とても幸せものだわ」


 向けられた笑顔は少してれ照れたてようで、頬が少し赤らんでいた。


「でも全然知らなかった!もとから恋人だったの?」


「いいえ、つい最近お見合いしたの。すごくいい人でこの人と一緒なら幸せになれるって思ったの。自分でもびっくりだわ」


「へー、そうなんだ!一目ぼれっていうやつなんだね!」


 盛大にのろけたマギルタに興味津々といった様子でキーラがそう返す。茶化すでもなく純粋にそう返すのがキーラらしい。

 周りはそのままマギルタの結婚事情について口々に質問していく。それを丁寧に微笑みながら応えるマギルタの姿は幸せいっぱいだ。


 そうして話しているうちに次々と生徒が遊びに来て祝いの言葉をのべていった。その人数からマギルタの人気の高さがうかがい知れる。本を借りに来た人はいないのだろうかという質問は野暮だろう。


 そのなかにジェミクスの姿もあった。眉を下げた気弱げな佇まいで、話しかけてくる生徒たちにつかえながらも一所懸命答えている。


 リルはそんなジェミクスを横目で観察した。昨日は意味深な視線を向けられたがどう見ても悪い人間ではないのだろうと思う。これが演技だったら人間不信になると思う。


 そんな風に考えているジェミクスと目があった。向こうはリルが見ているとは思わなかっただろう。目を開いて驚いてあわてて視線を外した。

 だいぶあからさまだった。


 話していた生徒に「どうしたの?」と心配されて「な、何でもありません」と慌てて首を振る。もう明らかに何かある。リルはそう思うには十分な態度だった。


 そうしているうちに時間すぎウィルが昼休み終了まで残り30分だと知らせてくる。

 次の授業は昨日喧嘩騒ぎで課題のみの授業となった精神系干渉魔法だ。早めに行動しないと遅刻する。


 ルーディが「そろそろ行こう」と言ってキーラが「また来るね!」と手を振る。ほかの人間はまだ時間があるのか人はそれなりに残っていた。


 今日はおめでたいが間が悪かった。人が多すぎてジェミクスと話は出来そうにない。放課後また来ようと思いながら最後にリルはもう一度ジェミクスを見た。その時また目があった。


 また慌ててそらすのかと思ったら今度はそらされない。猛禽の瞳がゆらりと揺れたように見えた。その直後にふわりと耳元に囁く声が聞こえた。


 それにリルは一瞬息を止めた。けれどすぐに先を歩くキーラに呼びかけられ、リルははっとした。そしてすぐ一礼したあと特別図書閲覧室に背を向けたリルは二人を追った。


 囁き声はジェミクスのものだった。



『あなたの置かれた現状についてお話したいことがあります。放課後またここに来てください』



 リルにしか聞こえない声でジェミクスはそう言った。それはどきりとする内容だったがどこか不安げな様子が感じられる息遣いにあまり警戒心が沸かない。

 思ったよりもスムーズにことが運び、驚きつつも放課後のことを考えながらも、リルは気持ちを切り替えて次の授業に臨むことにした。


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