変わらない日常4
柚姫はダイニングテーブルの上でもぐもぐと咀嚼を繰り返す叔母の姿をただ黙って見つめていた。柚姫はあまり顔に出るタイプでもなければリアクションも薄い方である。
傍から見ればとても落ち着いているように見えても柚姫の頭の中はだいぶ混乱していた。
するとぱっちんとと音を立てて利保が手を合わせた。
「ごちそうさまでした。はぁ、美味しかった。やるわね栄ちゃん。吉村屋の魂をちゃんと受け継いでるわ」
利保は満足気にニンマリと笑みを浮かべた。吉村屋とは昔からある小さな蕎麦屋である。蕎麦屋であるが丼物もご近所では定評がある。そして栄ちゃんとはその蕎麦屋の店主の孫である。
吉村栄史。
利保の小学校ころの同級生でよく出前をとっていたのでそれをきっかけに仲良くなったらしい。いわゆる幼馴染である。
柚姫自身は特に面識はない。それらを知っているのはかつて利保から聞いただけの事である。
それ以外にも雨の日は湿気で毛先が少しクルンとなるとか実は猫舌など、かなりどうでもいい情報から、他言するにはきわどい家庭の事情まで多様な情報を柚姫は手にしている。と言っても利保が一方的に語っただけで柚姫が積極的に聞き出したわけではない。
そんなことをつらつらと思い出していると利保が自分のお腹をそっと撫ぜた穏やかな顔をした。
なんとなしにその動きを目で追っていると柚姫は大きな違和感を覚えた。その時パッと脳裏に浮かんだのはある人物。それは前世で良くしてもらった女性で彼女が良くしていた仕草とかぶって見えた。そんな柚姫の視線の先に気がついた利保は幸せそうな微笑みを浮かべる。
「あれ?もしかして気づいた?まだあんまりお腹出てないんだけど今3ヶ月のおめでただってさ!」
利保はあっけらかんとした様子で他人事のようにそう答えた。そんな感じで爆弾は唐突に投下されたのである。