世界を繋ぐ第一歩10
久しぶりの更新です。遅くなりました。
階段を登って地上に出ると案の定もう外はもう日が落ちていた。廊下の明かりが灯っている。昼間と違って淡くやわらかい灯りによってだいぶ印象が変わる。
人のいない廊下を足早に抜け入口を抜けると今度は月の明りがリルを照らす。この世界の月は満ち欠けもないため、昨日と変わらぬ輝きを放っている。
リルは月を見上げながら城に向かってゆっくりと歩き出す。
城まで広い一本道は左右には立派な木々に囲まれている。その木々は少し特別なもので月明かりに照らされると葉の葉脈がわずかに発光するという特性を持っている。
電燭でライトアップされたツリーより少し淡い輝きを放ちとても綺麗である。入学当初の新入生などはこれを見るために日が暮れるまで学校に残るものも多いらしい。
日本に転生してクリスマスのツリーを見た時、懐かしさよりも世界が違っても似たようなものがあるんだなとなんだか不思議な気持ちになったのを覚えている。
ぼんやりとそんなことを思い出しながら歩いていたリルだったが視界に人影が映り思わず足を止める。
一応城の敷地内なので警備体制は万全である。リル自身国にとって重要な存在であるためそれ身を守る魔法は幾重にもかけられている。この世界では何も恐れることはないが、それ以降の経験に基づいてつい反射的に身構えてしまった。
その視線の先には月を見上げる自分より背の低いシルエットが見えた。
そのままゆっくり近づくと向こうも気が付いてこちらに顔を向けた。
それは夜の城に現れた少年だった。少年はリルの方に顔を向けた。その表情に特に驚いた様子はない。
「こんばんは」
静かにそう挨拶をされてリルは目を瞬いた。
「・・・こんばんは。あなたは昨日城の廊下にいた子よね?」
一応確認のためにと思ってリルがそう尋ねると少年は「はい、そうです」と返してきた。少年の様子になんだか昨日とは雰囲気が少し違って見えた。
昨日は少しぼんやりとした印象だったが、今日は抑揚があまりないがどちらかというと少しハキハキしている印象だ。
そんな印象の変化に違和感を覚えていると、少年はリルの目をまっすぐ見据えて話しだした。
「あなたの推察通り研究所で訓練を受けています。あなたの事情についても知っています」
少年の言葉に目を見張る。
その言葉を聞いてリルの予想通り少年は精神系感応魔法の使い手だと察した。リルの予想は正しかったようだ。
だがその先に続いた言葉にリルは身を固くした。
そんなリルをよそに少年はまっすぐリルを見て謝罪した。
「昨日は突然すみませんでした。でも僕は確認したかったんです。あなたの本心を」
「どういうこと?」
「”僕”は儀式の一端を任されることになっている人間です」
少年の口から”儀式”という言葉にリルは心臓をドクリと脈を打つ。
少年の言う儀式というのはリルがこれから少し先の未来に発動させる魔法のことを指していた。
その魔法で”リル”はエミリアの代わりに死んだ。
その儀式は大掛かりなもので中心となるのはリルの魔法だったが、他にも何人かの魔法使いも協力して行われた。
儀式の行うものはお互いのことを知らない。そのため儀式に携わっていたという少年のことをリルは知らない。だが、この儀式を知っているのは参加者のみだった。
儀式は秘匿されていた。いや秘匿されるようになっていた。儀式を行う人間は選ばれた時点である魔法が施される。それは他のどんな魔法よりも優先される”上位の魔法”。
精神系忘却魔法。
王の固有魔法の一つである。
秘密を漏らさぬように、誰にも気づかれないように、そして誰も悲しまないようにと施されたとても強固な魔法。
この魔法は儀式の行使者のみならず周りにも影響を及ぼす魔法である。
リルが昨日少年に事情が漏れても平気だと判断したのはこの魔法があったからだ。
儀式の行使者以外がこの事をっしったとしてもその記憶はすぐになかったものとされる。
記憶の改ざんとも言えるこの魔法は世界を背負う王だから許される魔法だとリルは思う。
そんな魔法の存在があるので、少年が儀式のことを知っていると口にできることは、少年が儀式に関わっていることの証明となり得る。
少年はリルの表情を読み取ったのかそれとも心を読んだのかリルの疑問に応えた。
「儀式の行使者でもほかの行使者のことは知りません。知っているのは現地王だけです」
少年はそう答える。リルはますます分からなくなった。
「あなたは・・・何がしたいの?」
リルは警戒する。こうして話せている時点で少年はリルも行使者であることが証明されている。既に少年はそう確信しているだろう。今更とぼけるわけにも行かない。
なぜ知らないはずのものを知っているのか。それをどうして自分に言う意図は何のか。そういう意味を込めた問いだった。
すると少年はそれには答えず、少年は昨日と同じ瞳をリルに向けた。
「僕のしたいことはまだ言えません。ですがそのためにはあなたに聞かなくてはならないことがあります。ただ思ったままに答えてください」
唐突に、そう前置きをした。
そして少年はリルの心を射抜く言葉を静かに口にした。
「あなたはまた笑って死ねるのですか?」
リルはその言葉に返事をすることができなかった。
息が上手くできず喉が震え上手く声が出ない。だが答えられない理由はそれではない。
ただ肯定することも否定することもできなかった。
なんの話だと誤魔化すことも、嘘や強がりすらいうことができなかった。
昨日と同じで少年に問われたとき答えを返すことができなかった。覚悟して”儀式”に参加した。そはずなのにどうしてこ答えられないのかとリルは胸が苦しくなった。
きっと”リル”だったらすぐに答えられた。
エミリア、テオ、サラサ、フレイル、キーラ、ルーディほかにも大好きな人達がいる。悲しくても彼らが生きる世界を守る役目を与えられて誇らしいと思った。
それが生きる意味だった。それなのに今の自分はそれが言えない。まるで過去の自分を自分で否定しているかのように。
それがひどくやるせなくてどうしようもなかった。
出口の見えない思考が堂々巡りをする。この少年は一体何をしに来たのだろうか。そう思って恨めしげに少年を見た。
けれど、少年はわずかに微笑んでいた。使命を肯定できないリルを嘲るものではない。ほとんど変わっていない表情はただ穏やかにリルを見ていた。 それはまるで小さな子どもに向けるような眼差しだった。
「意地の悪いことをしました。今はそれでいいんです。でも忘れないでください。あなたはあなたの命を守る権利があることを」
いたわるような声音で少年はリルに語りかける。リルはなぜか少しだけ心が軽くなるのを感じた。
そんなことを言う人は誰もいなかった。なぜそんな事を言うのだろうか。 まるで子どもらしくない目の前の少年をただ呆然と見つめた。この少年には色々と聞かなくてはならないことがある。
けれど、上手く言葉が紡げない。そうしているうちに少年は月を見上げ、眉をひそめた。
そして静かにリルに告げた。
「言いたいことはまだあるんですが、どうやらもう行かなといけないみたいです」
「え?」
唐突に少年は手をかざす。集まった魔力の粒子が集まる少年を包んだ。
「僕はきっかけを与えることしかできません。あなたはあなたの答えを見つけてください。そうすればきっと”この世界”から出ることができますよ」
「えっ!まって!!」
少年は最後に爆弾発言にリルは思わず少年を呼びとめたが、とどまってはくれず、魔力の粒子とともに一瞬にしてその場から消えた。
少年の言葉明らかに今のリルの現状を理解しての言葉だった。問い返したくても魔法を使って少年はもういない。リルを多分昨日もこうやって消えたのだろう。感覚で魔力を追ってもまるで痕跡がなかったのでどうしようもない。
言いたいことだけ言って去っていった少年に、先程までと全く違った行き場のない怒りが沸き起こるのを感じた。
「言い逃げするなー!!」
誰もいない夜の道で思わず叫び声をあげた。どうにも抑えられない衝動だった。基本的に怒りの沸点が人よりに高いと自認していので自分にこんな一面があるとは知らなかった。
言い訳をするのなら突然夢とも思えない謎の世界に放り込まれて、さらには自分の死のカウントダウンが始まっているという状況だ。
リルは自分なりいろいろ解決策を見出そうと前向きに奮闘しているが本当は先行きは不安で、冷静なようで全く冷静ではなかったことを自覚する。
確かに今もモヤモヤは残ったままだ。でも今はもう先程までの胸の苦しさはなくなっていた。
リルは絶対あの少年から聞き出してやると意気込身を新たに夜道を駆け出した。
次回から更新はを戻していこうと思っています。




