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世界を繋ぐ第一歩9

 何事もなく放課後を迎えたリルは、一人で特別図書閲覧室に来ていた。

 キーラとルーディは休み時間に話していた通り、ビルズ隊長を迎えるために授業が終わると別れの挨拶をして早急に帰っていった。


 リルは朝の調べ物の続きをする予定だったのである意味好都合であった。

 カウンターにいたマギルタに挨拶をし、ウィルの案内のもと本を手に取って入った個室に入った。

 それはフェイルドラゴンに関連する本である。


 利保から預かった本の内容については、持ち主である吉村に直接聞くのが一番の近道なのだろう。だが、何をどう聞けばいいか非常に困るところである。


 何か聞くにしても親しいわけでもないので本を返すとき以外チャンスはない。店に食べに行って話しかけるということも可能だが、はっきり言って性格的にそういうのは不得意である。


 だからできればフェイル語を習得してあの本を読み、その一回のチャンスで上手く聞きだしたい。

 そう思って本を手に取ってのだが、ページを進めるごとにリルは無意識に唸り声を上げた。リルの目の前にある本の題名は『フェイルドラゴンの料理‐決闘の末に出会う知られざる珍味‐』である。


 ウィルに情報によるとフェイル語についての本はなく、フェイルドラゴンに関連するのものは、不穏な副題のついたこの本と、あとはドラゴンの図鑑だけらしい。


 後者はほぼ絵しか載っていないのでリルは妥協して前者を手にとった。その本はフェイルドラゴン料理の歴史が白黒の挿絵付きで説明されている本で一部はフェイル語が載っている。


 その点においては目的にかなっていたが、ただの料理本というには余りにも衝撃的な内容の本だった。

 早々に読んでしまおうとアイシス・アイズを発動した最初のページを開いて見ると一見普通に美味しそうな料理の材料の一覧を見てリルは固まった。


「フェイルドラゴンの・・・モモ肉?」


 思わず口にしたのはその一番下に書かれていた文字である。材料一覧に“新鮮なフェイルドラゴン(雄)のモモ肉”と書いてあったのである。


 読み間違いかと思い思わず魔法を解いて本を凝視したところ確かにそう書かれていた。そしてほかのページの材用の一覧も見てみたところ部位は違うものの全て等しくフェイルドラゴン(雄)と書かれていた。


 つまるところフェイルドラゴンは共食いの文化を持っていているということだった。ちなみこの料理は雄同士が決闘をして負けて方が肉の一部を差し出すというもので、殺すことはしない。そして取られた肉は一ヶ月後には元に戻るという。


 文章で淡々とそう綴られているが、事細かに書かれた肉のさばき方が非常にリアルで恐怖を誘う。しかも、料理の段階では普通の家庭料理と変わらずとてもシュールだ。


 タコもお腹が減ると自分の足を食べるという話を聞いてことがあるが、ドラゴンは軟体動物ではないので痛覚が存在する。 

 小さくて可愛らしい外見に反してかなりアグレッシブな種族らしい。


 リルとしてはこれまでドラゴンの共食いなど聞いてことがなかったので大変なカルチャーショックをである。フレイルも共食いの文化があったらどうしよう複雑な気分になった。

 リルは若干気鬱になりながらも、どうにか気を取り直して最初の目的のために料理名の部分に書かれたフェイル語とその訳をノートに写し、その文法を読み取ることにした。

 









 時間が過ぎ路の早いもので、ああでもないこうでもないと頭をひねっているとウィルが閉館時間を知らせてきた。


 時刻は6時少し前。2時間かけて読み取れたのはほんの一端だけであった。


 フェイル後は例えるならば漢字に似ている。一つの文字にいろいろな意味が詰められており、この本に載っているものから推測するに文字の数は相当なものだろう。


 一朝一夕で覚えられるようなしろものではない事が窺える。時間をかければ多少はどうにかなるのかもしれないが、そのためには資料が足りない。王立研究所の資料室にはもしかしたら辞書があるかもしれないが、それを閲覧するのは両親か姫に頼むしかない。


 だが、それをするのは問題点がある。

 まず一つ。リルは普段から精神系魔法の専門書物しか読まない。

 ほんの子どもの頃ならば多少物語や図鑑などを読んだ記憶があるが、基本的には実際に役に立つ以外に対する興味が薄い子どもだった。

 それは年齢を重ねるごとに顕著になり、部屋にある本棚には魔法のほぼ専門書で埋められている。


 リルの嗜好を知っている親しい人からした、リルが突然マイナー言語であるフェイル語に興味があるから研究所の書物を見たいと言い出したら驚くだろう。


 断られはしないだろう。だが、理由を尋ねられると困る。フェイルドラゴンに興味を持ったとするにしても、このドラゴンについては見た目と簡単な特徴。そしてこのちょっと怖いレシピ本で得たち知識しか知らない。


 これで興味を持ったと言ったら心配の目を向けられる気がする。心配かけるようなことは出来うる限り避けて通りたい。

 

 

 早々に行き詰ってリルはため息をこぼした。

 だがずっとそうしているわけにもいかないのでリルは荷物をまとめて外にでる。外にはもう人はいなかった。どうやらリルが最後の利用者らしい。


 リルが入口に向かおうとする個室を一つ一つ確認するジェミクスの姿があった。多分忘れ物のチェックだろう。

 ジェミクスはリルと目が合うと、とても驚いたような顔をした。


「こんばんは。ジェミクスさん」


 思考を切り替えてリルが笑いかけるとジェミクスは慌てた様子でお辞儀をした。


「ええと、リトルさん。こ、こんばんは」


「忘れ物の確認ですか?」


「ええと、そうです。マギルタさんの話では、結構な割合で忘れ物があるそうなので」


「お疲れ様です」


「い、いいえ!そんなことないです。リトルさんも遅くまで、お、お勉強ですか?」


 そう言いながらジェミクスはリルの手にある本を見た。

 リルは少し答えに困りながら苦笑を浮かべた。


「えーと、ちょっとした調べものです」


「そうなんですか。わ、私それ棚に返しておきますよ?調度閉館時間ですし、遅くなると暗くなりますし」


 こちらの様子を窺うようにジェミクスがそう申し出た。

 リルは少しだけためらった。普通の本ならいいが、ちょっと内容がいただけない。だが、オロオロと眉をハの字にしてこちらの答えを待っているジェミクスを見ていると断りにくい。


「ええと、じゃお願いします」


 リルはジェミクスが中身を確認しないことを祈りながら、そっと本を渡した。それを受け取ったジェミクスはどこかホッとした顔で「はい」と答えた。

 




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