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世界を繋ぐ第一歩4

 授業開始から30分ほど過ぎた頃、ルーディ小脇に木箱を抱えてグラウンドに帰ってきた。

 それに対してみな口々に「おかえり」や、「災難だったね」と声をかけられたルーディは苦笑を浮かべている。本当にびっくりするくらいいいクラスである。


 ルーディはみんなの前に立って少し声を張ってみんなに呼びかけひとつ頭を下げた。


「みんなに迷惑をかけて申し訳ない。とりあえず今日の授業は中止になった」


 ルーディがそう言うと小さいながらも歓声が上がる。真面目なクラスだが、所詮まだ10代だ。授業が休みになるのは普通に嬉しいのである。だが、それをルーディの言葉が遮る。


「喜ばせておいてなんなんだけど、ハント先生からひとつだけ課題が出されているんだ。でも5分もあればできる内容だからちょっとだけ説明させてくれ」


 ルーディは少し眉尻を下げてそう告げる。だが、文句を言ったりするものはいない。ルーディが木箱を持っている時点で課題がある気ことには勘付いていたのだろう。周囲に集まってきたクラスメイトを座らせてルーディは木箱を前に掲げて説明を始めた。


「この箱の中には人数分の魔石が入っている。今からこれに“スリプス・ムー”をかける」


 魔石とはその名のとおり魔力の宿った石である。これには無色透明の天然モノと薄く青みがかった人口モノがあり、学生の授業ならば後者が主である。


 ルーディは木箱の上の蓋を開け、魔石を指手のひらに乗せた。ルーディの周りの空気が静かに揺らぐ。 空気中の魔力が波を起こし、手のひらに乗せられた小さな魔石に集積していく。

 その魔法の発動によって活性化した魔力に淡く白い光が灯る。とても優しい光だ。



“スリプル・ルー”は精神系干渉魔法の初級魔法で対象者を眠らせる魔法である。


 直接人体にかけると睡眠ガスのような効果があるがものであるが、それは禁止されており今のように魔石に魔法効果を閉じ込めて使用する。

 体に害もなく、ゆすり起こされれば普通に起きるので、不眠症の人や、子どもの夜泣きに役立つのだ。 ちなみに魔石は普通手に入らないが魔法によって加工されたたものは準日常品としてどこにでも売っている。


 光が消えてルーディがそれをつまみ上げると、魔石の色は濃い青色に輝いていた。


「このように、綺麗に青く色がかかったら、自分の名前を魔力で魔石に刻んで木箱に戻してくれ。これがこの時間の出席の記録の代わりになるから。それからこれは先生からの伝言“この次回の授業はこの魔石を使って実技するから気合を入れて魔力を注げ!野郎ども!”以上だ。質問ある?」


 先生の口調を真似た伝言に、みなが笑う。その真似がだいぶ似ていたからだ。リルも笑いそうになったが“リル”はまだこの段階で先生とは対面していないことを思い出す。だから皆と同じくは笑うのはおかしいのではと思い咄嗟に笑いを引っ込めた。


 おかしく思われていないかとキーラの方を見ると、まっすぐ手を挙げたキーラがいた。


 表情はいたって普通だが、周りの雰囲気と違い若干真剣に見える。そんなキーラに視線が集中すると次第に笑い声がやんでいく。

 ルーディも珍しいといった様子で「どうぞ」とさすとその表情はいつになく真剣であった。


「その魔石壊しちゃったらどうしたらいい?人数分だって言ったけど、予備ないの?」


 キーラの質問に対し後ろから「壊す?」「なんで壊すの?」などと囁く声が聞こえる。そんな声は耳に入らない様子の真剣なままのキーラにルーディはメガネのブリッジを上げ半眼になった。


「いやいや、その質問はおかしいだろう。課題通りにすれば壊れないだろ。これからやるのは精神系魔法であって物質系魔法じゃない。壊れようがないだろう?」


 ルーディが一息にそういう。これはこの世界では常識とも言えることである。

 物質系魔法は魔力を動力にした物質の操作である。これを使うと物質の創造と破壊が可能である。ファンタジー物でよく描写される何もないところから火をだしたり、風を起こしたりということができる。


 一方、魔力を注ぐ精神系魔法は物質を壊したりはできない。できるのは変化させた魔力を物質の中に組み込むことで、その物質の性質や状態を変化をもたらす魔法のことである。

 魔法の分類は物質系魔法の何十倍もあるので、大まかに言えば壊す創る以外は全部、精神系魔法という解釈が一般的である。


 だが、キーラはきょとんとした顔をする。そして相変わらずのマイペースで全く別の方向に話を続けた。


「だって、その魔石ちっさいじゃん!」


「今の話で魔石の大小関係なくないだろ。何?お前、もしかして魔法でなく力技で壊す気か?」


「思いっきり握れば壊せると思うよ」


「いや、壊すなよ。故意に壊す意味がわからん」

 

 けろりというキーラにルーディが真顔ですっぱりと即答する。


「でも、気合を入れろって言ってたんでしょう?気合い入れるとうっかりってこともあるでしょうに」


「そんなうっかりあってたまるか。ハント先生はそういう気合の入れ方を期待しているわけじゃない」


「そんなのわからないでしょ。むしろ、粉みじんになった魔石でも平等に魔法をかけ、さらには名前を刻めるかっていう課題も新しいと思う!新し課題に取り組む意欲が必要ってよく先生言ってるし」


 至極真面目そうにキーラがそう言うと後ろから盛大に吹き出す音が聞こえる。

 こらえようとしてこらえられなかったといった様子の笑い声だ。

 リル自身、カーラの粉みじんに名前を刻む発言に笑いの衝動をこらえるのに必死である。もはや“夫婦漫才”である。


 ずっと黙っているみんなも、だいぶ前から「またやってるよ、あの面白幼馴染たちは」といった様子の明るい笑いがちらほら聞こえていた。

 大声で笑わず必死に笑いをこらえているのにどうしても漏れてしまうといったつつましい雰囲気がこのクラスらしい。


 キーラと違ってルーディは周りの様子に気がついているようでため息を吐く。


「出された課題を勝手に変えるなよ。やっぱりお前の質問は聞くもんじゃないな。ほんと、真面目な顔に毎度騙される」


「質問は?って聞いたから言ったんじゃない」


 胡乱な目をするルーディに、不思議そうに首をかしげるキーラが対照的でおかしい。

 非常に間抜けな会話だがキーラはふざけているわけではない。そして頭が悪いわけでもない。むしろ実際成績優秀だ。


 だが、思考や発想はそれとはまた別の話なのである。やはりキーラは真面目な顔してもキーラである。

 そして周りの様子を察しながらキーラの発言に律儀に付き合うルーディも少し天然かもしれないとリルは思っている。

 そんな二人の内心がちぐはぐで、おかしな会話に口を挟まず聞き役として楽しむというこのクラスのスタンスである。

 


 その後はルーディが「なるようになるからとりあえずやれ」という結論を突きつけて話を打ち切り、魔石を配り課題にみんなが取り掛かった。


 そんな中、粉みじん発言をしていたはずのキーラはさっさと課題を終え、どこから出したかわからないカメラを構えてみんなが魔法を発動する様子を写真に撮り出した。あいかわらず羨ましくらいの自由人でぶりである。リルの周りも柚姫の周りも自由人が多いがキーラはそのなかでも突き抜けているといっていいだろう。


 それに対してのクラスメイトだが、基本大人だがノリが悪いわけではない。みんなそのまま楽しく写真を取られていた。雰囲気は遠足である。


 その後キーラがそこらへんに歩いている生徒を捕まえて写真のシャッターを頼み、いつの間にか編入記念を取るよといってみんなを整列させた。そしてリルは中央に置いた集合写真の撮影が行われた。


 リルはキーラの行動力とクラスメイトの寛容さにリルを改めて実感しつつ、ウィルが授業終了の知らせを聞くことになったのである。


 蓋を開けてみれば変わっているのは意外にもキーラだけではないということである。


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