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世界を繋ぐ第一歩3

 大急ぎで駆け込んだグラウンドでは、みなそれぞれグループになって雑談をしていた。

 雑談するクラスメイトたちはリルに気がついて「おはよう」と声をかけてくれる。リルも少し荒い息を落ち着かせながら笑顔で「おはよう」と返した。

 

 先ほどウィルによって授業は開始時刻を知らされたリルは、この精神系干渉魔法の授業の講師であるニクルス・ハントの姿を探す。だが、それらしき影はない。一体どうしたのだろうかと思っていると横ろから元気な声が聞こえてきた。


「おはよう!リル!」


 突然後ろから誰かに抱きつかれたリルはその勢いに思わずたたらをふんだ。

 驚いで首だけ振り返るとリルと同じ薄い白い作業着にワインレッドのハーフパンツ姿のキーラの姿が目に入る。


「びっくりした。キーラ、おはよう。」


「遅かったね!もしかして迷った?」


「ううん!違うの。ちょっと図書閲覧室によっていたらつい時間を忘れてしまって。それよりもなにかあったの?」


 リルは視線を巡らせながら少し声を潜めて尋ねる。するとキーラは盛大にふてくされた表情になった。


「授業開始ちょっと前にね、喧嘩みたいなのがあったの。で、先生は倒れた人を医療室に連れてったから今みんな待機中~」


「えっ、そんな大喧嘩だったの?いったい誰が?」


リルはこのクラスで怪我するような喧嘩をする人間がいたのかとひどく驚いた。基本的温厚人間ばかりのクラスであるという認識が崩されいささかショックを受けていると、キーラは首を振った。


「あ、喧嘩って言っても取っ組み合いじゃなくて口喧嘩ね。物質系魔法二科の男子生徒がルーディにいちゃもんつけてきたのよ」


「ルーディが?」


「そう、でも見た感じ向こうが一方的に怒ってたと思う。それで、何でかわからないけど向こうがいきなり怒り出して攻撃用の魔法を発動しようとしたの。それで、咄嗟にルーディの固有催眠魔法で眠らせたの。だから誰も怪我はしてないよ。その後先生が来て事情を話してその人を医療室に連れてったのよ。ルーディは覚醒魔法かけないといけないから一緒についてった」


「そっか、固有魔法はほかの人が解くのは面倒だものね」


キーラの表情はわかりやすく不機嫌である。なんだかんだ言ってもやはり幼馴染のことが大切に思っていることがよくわかり、なんだか微笑ましい。


「でも、怪我なくて良かったわ。それにしてもその人はなんでルーディに突っかかってきたの?」


ルーディは面倒見がよく周りに慕われるタイプで、実際クラスメイトから頼られることも多い。キーラには呆れた様子を見せていても本気で怒ることはない。一言で言う度量の広い人間である。

 過去の出来事を照らし合わせても、そんな風に喧嘩を仕掛けられるような状況に陥ったところをリルは見たことがない。


「よくわかんない。余裕かましてんじゃねーよ!みたいなこと言ってた。あの人、前に一度話した時はおとなしい感じだったのに意外だったわ」


「知り合いなの?」


「うーん、知り合いというか、ちょっと前にカフェテリアでお茶をしてたら相席いいかって言われて、いいよって言ったの。それでちょっと話したんだけど、そのときはなんかもじもじしてて、ずいぶん恥ずかしがりやの人だなぁって思ったんだけどね」


 キーラは「一体なにがしたかったんのかな?」と言って首をかしげる。


一方リルはその話を客観的に見てこう思った。

 その人はもしやキーラが好きで、ルーディを恋敵だ思っているのでないだろうか。

 だとしたら勝手な嫉妬に巻き込まれたルーディはとんだ災難である。


 そう思い至ったのだが、リルも恋愛のことは詳しくない。人の恋愛をどうこう言うつもりもない。


 ただ、キーラ自身はその人のことは眼中にないようなので、わざわざいう必要もないという結論に達する。

 というよりそういう煩わしい人はキーラに近づいて欲しくないから興味が沸くような話をしたくなというのが本音とも言える。


 今度なにかしたら自分が返り討ちにしようと、若干黒い思考に囚われたリルはそのまま口を閉じることにした。リルは身内と認めた人間には甘いのは独占欲ゆえとも言える。


「まぁ、いっか。考えてもわからないし。あの人も今日のことでお説教されれば、もうあんなことしないだろうしね」


 悶々としていたリルをよそにキーラはあっさりと考えるのをやめる。


「怒っていたんじゃないの?」


「別に私がなにかされたわけじゃないからね。ルーディが怒ってないのに私が怒るのはお門違いだもん。よし、この話は終わり!」


 そういってキーラはいつものひまわりのような明るい笑顔を浮かべる。どうやら話してすっきりしたようだ。こういう切り替えの速さはキーラの美徳と言えるだろう。


「それにしても、リルは昨日あったばっかりはずなのにね。なんかそんな感じがしないや。リルどう?」


 キーラの問いかけにどきりとする。

 リルは“リル”として生きた記憶があるので、特に意識しなくてもキーラの会話に呼吸を合わせることができるが、キーラからすれば昨日あったばかりなのである。つい失念してしまう。


 キーラの性格上ただ思ったことを口にしただけなのだろうが、なかなかにするどい。しかもこちらに聞いてくるところがまたキーラらしい。

 だが、キーラがそう感じてくれることはとても嬉しく、リルは自然と笑顔になり素直な言葉がこぼれる。


「ふふ、私も、なんだか懐かしい気がするわ」


 リルの言葉にキーラも嬉しそうに笑う。


「そっか!じゃ、ルーディが帰ってきたら仲良し自慢してやろう!!」


 そう言われた瞬間、リルはなんともいえないこそばゆい感覚におそわれ顔に熱がこもるのを感じる。

 生まれ変わってからずっと達観したように振舞っていたが全然達観など出来ていなかった。

 今自分がこういうやり取りをしているのがなんだかひどく恥ずかしい。


だが、それと同時にずっと記憶とは別に忘れていた感覚が蘇る。ただこうして話せることがただただ嬉しいのだ。


 かつての自分はだいぶ、いやかなり引っ込み思案だった。キーラはずっと変わらず声をかけてくれたがなれるまでに結構時間がかかったのを覚えている。


 だから、昨日の今日でこんなふうに打ち解けることができたのは記憶のおかげであることは確かだ。

 もしこの夢が続くのならかつてより少しでも長くともに過ごすことが出来るかも知れない。


 大切だけれど、苦くて悲しい思い出。現金な事だが、柚姫を固く縛りつけていた記憶の存在を少しだけ感謝した。


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