変わらない日常3
ばしゃばしゃと顔を洗っていると戸が開く音がした。誰もいないはずと思い、そっと振り返ればとても見覚えのある女性が立っていた。
その女性は短パンにタンクトップというラフな出で立ちで、大きなエビの天ぷらのしっぽがはみ出した丼ぶりを片手にへらりと笑った。
「おそよーさん。はぁ、学生はいいわねぇ。夏休みなんて懐かしすぎるわぁ」
そう言ってどんぶり飯をかきこむ姿はなんとも男らしい。
柚姫の顔からが顎に流れて床にポタポタと滴が落ちる。だが、顔を拭くのも忘れてここにいないはずの女性を凝視し沈黙した。
「・・・おば様、何でこんなところにいるの?」
柚姫が信じられないといった気持ちで目を丸くすると、女性はいたずらが見つかった子どものような笑みを浮かべて次のようにのたまった。
「うーん。家出?」
それは気持ちよいくらいの底抜けに明るい笑顔であった。
柚姫の頭のなかには色々な疑問が駆け巡るものの、何から言ったらいいかが分からない。
取り敢えず柚姫は気を落ち着かせるように顔をタオルでぬぐい、一呼吸おいて女性に向かって一言告げる。
「取り敢えず座って食べた方がいいんじゃないかと思うよ」
動揺が拭えていないのが明らかな発言であるが、それについてつっこむ者はいない。
流れる空気はなんとも言えない温度差である。
目の前にいるのは、2年前18歳で駆け落ちして以来行方知れずだった柚姫の叔母だった。
神崎利保。
柚姫にとって姉のような人存在である。動揺しないなど無理な話であった。