祝福と予兆5
帰り道はほぼ利保が一歩的に喋り、吉村と柚姫はただ相槌を打つという感じで歩いていた。
話しを聞きながら柚姫は吉村を顔を横目で窺う。
昨日吉村に会った時少し話したとき、表情の読めない人だと思ったが幼馴染とも言える利保相手でも同じらしい。
利保がよく喋るせいかほとんど一方的な会話で、吉村に返事は温度があまり感じられずそっけないように感じるが、別に邪険に扱っているようには見えない。
なんだか不思議なである。
しばらく歩けばすぐそこに家の門が見えてくる。そんな時、利保が「あっ」となにか思い立ったのかのように声を漏らす。柚姫がなんだろうと思っていると再び吉村に向かいよく分からにことを口走った。
「お前なんぞに娘はやらん!」
吉村に人差し指を突きつけて発せられた利保の言葉に思わず柚姫は「は?」と声を漏らす。
言葉自体の意味はわかる。だがなぜこの場面でそのセリフなのだろうかと思っていると、吉村は無表情のまま若干呆れたようにため息をつく。
「脈絡がないが、懐かしいセリフだな。確か6年の頃だったか?」
「あ、栄ちゃん覚えてるんだ」
「あれだけ流行れば普通忘れないだろ」
「・・・えっと一体何?」
よくわからない会話に柚姫が戸惑っていると里穂が「ごめん、ごめんと」笑って謝罪する。
「小学校6年の頃、クラスで『昭和のお父さん』っていう題で夏休みに自由研究してきた子がいてね。発表の時に「お前なんぞに娘はやらん!」って言うセリフを言いったの。その言い方が本当におかしくて卒業するまでずっと流行ったのよ。なんか不意にそのセリフ思い出しちゃってちょうどネタを知ってる栄ちゃんが目の前にいたからこれは言わないとと思って」
あははと笑う利保に柚姫は変わった子がいたんだなと思いつつ、ひとつ遅れて二人の会話は単純な思い出話だったんだと理解した。
利保の自由人っぷりはよく知っているので別段慌てることではないが、相変わらず唐突な話題の転換だなとしみじみ思った。
吉村も利保の人となりを分かっているようで、慌てることも不満も見られない。
最もほぼ無表情なので内心はどうなのかはさっぱりである。
ひとしきり笑ったあと利保は敬礼よろしくこめかみに指先を当てる。
「んじゃ、ここでいいよ。ご苦労さまでーす」
「あんまり夜歩かないほうがいいぞ」
「あはは、今日だけだから大丈夫よ」
吉村の言葉は口調こそ平坦だが内容は利保を気遣う言葉である。だというのに利保の返しは軽い。
この軽さが利保の利保たる所以とも言えるのだが、身内としてはもう少しどうにかならないのだろうかと思わざる負えない点でもある。
それについては柚姫よりも百華の方が懸念している部分であろう。
「君もね」
吉村はそう言って柚姫の方にも視線を向けた。さっきの言葉は自分のも向けられていたのかと今更ながらに気がつき柚姫は、一拍おいてから素直に返事をした。
「じゃあな」
「うん。じゃあね。今度行く時はレオ連れてくよ」
その言葉に吉村に相槌を打つと、利保は手を振って歩き出した。柚姫は再び吉村に「ありがとうございました」と言って一礼して利保の後を追う。
利保が門を開けて中に入ったところで柚姫は吉村をもう一度振り返った。すると暗がりでも僅かに分かる程度に吉村は頭を下げた背を向けて来た道を歩き出した。
そして吉村の姿はすぐに見えなくなる。柚姫はなんとなくその見えなくなった後ろ姿を目で追った。




