祝福と予兆4
腹が満たされてひと心地したところで店を出て、帰る途中で璃梨と分かれて柚姫と利保は帰路に着く。
既に日は落ちているが、このあたりの家の門にセンサーライトの付いている家が多く、ライトが点いたり消えたりと忙しない。
夜道といってもそれなりに明るいのである。
「うん、わかった。じゃあね」
柚姫はスマートフォンを耳からはなし、バッグにしまう。
「百華姉さんなんて?」
「今日は会社に泊まるって」
「百華姉さん、仕事忙しいの?」
「なんかこのところ猛暑で一人倒れたらしいよ。それで、その人の仕事を分配した結果、お母さんの仕事が3割増になったとか」
「うわぁ、それは災難。でも百華姉さんなら問題ない感じがする」
柚姫は利保の意見に同意するように笑う。
確かに百華は有能で、並みの男性より根性も体力もある。
百華の仕事姿を直接見たことはないが、百華の夫であり柚姫の父である良朋が日頃からのろけのように彼女の有能さを聞かされている。
それについては、大手のIT関連の会社に30歳前に管理職についていたことを考えるとただの身内の欲目でないだろう。
ただ残念だったのはその百華の能力は柚姫は受け継がずその手の知識は同年代の人間よりやや劣るということである。
幸い前世で高等な教育をうけさせてもらっていたので理解力はあり、原理はわかる。けれどなんにつけても魔法を基本としていた世界にいたがために、この世界の電子機器に対してどうしても違和感を覚えてしまう。
似たような役割をするものはたくさんあったのだが、いかんせん操作が非常にまどろっこしく感じ、魔法のように精神力でどうにかならないところが柚姫として面倒だった。
「そういえば、便利屋をやるのにホームページを開いていると言っていたけれど、旦那さんはそういうのが得意な人なの?」
不意に思い浮かんだ疑問を柚姫は口にした。そう聞いたのは柚姫が知る限りでは利保は柚姫以上に疎いかったはずだからだ。
「うーん。得意と言われるとよくわかんないけど。まぁ、人並み?詳しいところは栄ちゃんに協力してもらったから」
利保の返答には思わぬ人物の名が上がった。
「吉村さん?」
首をかしげる柚姫に利保は子どものような顔をして笑う。
「私も驚いたんだけど、店をやるってなったとき、レオが知恵を貸してもらうって連れてきたのが栄ちゃんだったの。まさか知り合いだとは思ってなかったのだけど、実は小さい頃町内会主催の祭りで毎年一緒に神輿かつがされた仲でずっと連絡取り合ってたんだって。まぁ、多分栄ちゃんの性格を考えるとレオが一方的に気に入って連絡してるっていうのが正解だと思うけど」
利保は「世間って案外狭いもんだね」と冗談めかして笑った。
確かに町内会の神輿とは意外なつながりである。
だが柚姫としてはそれよりも吉村が神輿を担ぐというのがなんだか可笑しく感じた。言っては悪いが利保の話や昨日あった印象からして、汗水たらして御輿を担ぐ健康的な姿が全くイメージできない。
そんな失礼なこと考えていると前方からやってくる人影が見え、ちょうど良くセンサーライトの明かりがぱっとつき、目のまえの人物を照らしだす。
「あれ、栄ちゃん?」
その人物に気がついた利保はその名前を呼んだ。それに訝しげに眉をひそめたのは噂の主である吉村だった。
「・・・神崎?」
「うーん、もう神崎じゃないけど正解にしておいてあげる。よくわかったね」
「そう呼ぶのはお前しかいないからな」
若干上から目線で楽しそうに笑う利保に吉村は淡々とそう答えた。吉村の方に歩み寄る利保と一緒にライトの当たる位置まできて柚姫も一礼する。すると吉村も柚姫に気がついて「どうも」と短く挨拶が返ってきた。柚姫も声無く頭を下げた
「あれ?二人会ったことあったっけ?」
「昨日どんぶり下げに行ったから。神崎は寝てたよ」
どう答えようかと少し迷った柚姫より先に応えたのは吉村だった。柚姫の口止めのこともあってか、あの一連の出来事はまるまるなかったことにしたらしい。
嘘は言っていない。利保特に気にすることなくそうかと納得した。
「送るよ」
吉村は利保と柚姫それぞれに視線を送ったあとそう申し出る。それに対して利保は大丈夫と断ろうとするが吉村は引かなかった。
「夜道で転んで何かあったらレオが泣くぞ」
確かに利保は危なっかしい。柚姫としては好意を受け取ったほうがいいのではないかと思い利保を見ると少し考える様子を見る。だがそのあとすぐに笑顔で「それもそうだね。じゃ、おねがいしまーす」と返事をして送ってもらうということ決定したのである。




