ひとつの現実13
少年がどこかに消えてからリルそのまま部屋に戻ってきていた。
あの少年は何者なのか。そしてなぜあんなことを聞いてきたのか。結局聞くことは叶わなかった。
だが少年の質問を冷静に思い返してみてリルは頭を抱えてしゃがみこむ。
この王城は登録されていない人間は足を踏み入れることができない。入ったら攻撃されるなどということではなく、そこにあってそこにないという、ある意味世界から独立した特殊な空間なのである。
この空間は王自身といってもいいもので、抜け穴など存在しない。
存在している時点でこの世界は既に形を保てず崩壊する。よって侵入者というものはこの王城には存在し得ない。
だから少年は登録されている人物ということになる。何者かわからなくても登録されているのだからこちらを害するような存在ではないだろう。
ではなぜあのようにリルを見透かすような言葉を口にしたのか。リルの本当の事情を知る存在はごくわずかだ。
少年はどう考えてもそういう立場の人間には見えなかった。
考えられるのは一つ。少年がリルと同類で特殊な精神系魔法の使い手であることだ。
この世界には先天的な魔法の能力によって他者の記憶や思考に触れることができる人間がわずかながらにいる。
それは精神系感応魔法といってリルと同じくらい稀な魔法能力である。
その能力を持つ人間は魔力の高さは関係なくリルのように国立研究所の保護下に置かれることになっている。
保護された子どもたちは互いに対面することはほとんどない。だが、その名前くらいは調べることはできるかも知れない。
「せめて名前を聞いてれいば・・・」
聞いていれば研究所の子どもかどうかわかったのにとリルは思わずうめき声を上げる。
リルの事情は他人に知られてはいけないものである。だが、いかに感応魔法でもそれよりも”上位の魔力”にはかなわない。
リルの思考を感じることはあってもその原因まではたどり着けないはずだ。
だから少年の口から秘密が漏れることがないということをリルは確信している。だから、少年のことは多分放っておいても何ら問題はない。
少年がわからなくても何の問題もない。そのはずなのになぜだか気になってしょうがない。ぐるぐると思考の渦に飲み込まれるリルの足元にウィルが舞い降りた。
『課題の説明を行いますか?』
凹むリルに容赦なくウィルが言葉を投げかける。リルは両手で顔を覆って一嘆くように言った。
「お願いします」
それからどうにか頭を切り替えてリルは課題を終えてベッドに倒れ込んだのはそれから1時間後のことである。




