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ひとつの現実11

 リルは城の中に存在するフレイルの家、もとい部屋の前までやってきた。

 他の白く美しい壁と違い、床に苔が生えた扉のない吹き抜けの広い一室。


 そこにまるでかまくらのようなフォルムの小ぢんまりとした藁の家が堂々と建っている。昨日動転していて特に気に求めなかったが、改めて見るとなんともミスマッチである。


 本来は天上界の空高くそびえる大木の枝の上に居を構える竜族にとっては一般的な家のスタイルである。

 だがこの世界では”ドラゴンが住んでいる=藁の家”という図式が成り立っているので別段驚くこともない。


 小じんまりと藁の家といってもそれは城の一室に対してであり、リルの身長の2倍の高さはあるのでそれなりに大きいとも言える。


 家の扉を叩いて出てくるのは昨日と変わらぬフレイルである。


「おう、今日も来たのか。確か学院編入一日目だったか。何もやらかさなかったか?」


 フレイルは開口一番にそんなことを言った。それはからかいのニュアンスを含んでいる。それの対してリルは少し頬を膨らませた。


「もう、人をドジ呼ばわりしないでよ。みんないい人ばかりだったし。ちゃんと出来たんだから」


 リルにしては反抗的な態度でそう言った。

 だが、フレイルは何食わぬ様子で「はいはい、わかった、わかった」と答える。


 フレイルに表情がないために、傍目から見て邪険にされているように見えるが、リルとフレイルの間ではこれがいつものやりとりであった。

 

 フレイルは言葉を張り替えしてくるが最終的には昨日のようにリルを甘やかしてくれる。

 リルにとってフレイルは両親や姫には言えない軽口をいうことができる数少ない存在なのである。


 だから、リル自身も本気で拗ねるわけでもなく、「わかればよろしい」とちょっとふざけた調子で言ったあと本題に入ることにした。


「それよりも、今日いっしょにごはん食べてもいい?」


「珍しいな。今日はそんなに魔力使ったのか?」


「そうでもないけど、ちょっとフレイルのご飯が食べたくなったから。ダメかしら?」


「いや、ちょうど新しいやつを作ってみたところだ。実験台になるならいいぞ」


「それは、望むところだわ」 


 リルの言葉にフレイルは笑い声を漏らし家の中に招き入れる。

 入ると独特の香りが鼻腔をくすぐる。くつくつと音を立てる鍋から薫る匂いだ。


「ふふ、いい匂いね。シヨルの葉かしら?」


 リルが嬉しそうにそう口にする。するとフレイルは長い尾を揺らす。それは人間が頷くのと同じような意味合いを持っている。


 シヨルの葉というのは魔法薬に使われる薬草の一種ある。これは特別に味がするわけではないが香り付によく使われる。茶葉と一緒に煎じられることもあり、リルを含め一般的に好まれる香りである。


 フレイルは木のさじで鍋をかき混ぜ、同じ木で出来た深い皿に盛る。

 リルがいつもの椅子に座るとフレイルはテーブルの上にそれを置く。そしてほかにも何品か並べ、フレイル自身のリルの向かいに座る。

 それを合図にどちらともなく目をつぶる。


「「天と地の恵を王に感謝します」」


 それは、日本で言うところ“いただきます”に相当する言葉である。

 再び目を開けたあとはフォークを持って食べ始めた。思ったとおりの懐かしい味に頬が緩む。


 並べられた食事の見た目は薬膳料理に似ていて見た目の派手さはない。味も素朴である。これがこの世界では主流の食事である。懐かしさのあまりいつもより食が進むリルである。


 するとフレイルは先ほど煮込んでいたスープを飲んで思案げに呟いた。


「うん。まぁまぁだな。お前はどうだ?」


 フレイルは咀嚼しながらリルに尋ねてきた。味はいつもどおり美味しい。 だが、フレイルがきいているのはそこではない。魔法薬としての効果についてである。


「うーん。気分はスッキリする。でもさっき言った通り、あんまり魔力を消耗していないから他はちょっとわからないわ」


「そうか、まぁ、新しい素材は入っていないからそんなもんか」


 リルの曖昧な答えにフレイルも特に気にした様はない。


「でも美味しいわ」


「そりゃ、どうも」


 特別な感動もないやり取りだった。だが、リルにとってはそれが心地がいい。 

 リルはなんだか気分よくなってエミリアに話したようにフレイルにも今日の出来事を語ることにした。


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