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ひとつの現実9

「おや、リル殿。お帰りなさい」


 エミリアの部屋の前にいたのはエミリアの護衛騎士マーティアである。前回はほとんど目を向けずに去ってしまったが、彼女はそれについて触れずに凛々しいその顔に柔らかな笑みを浮かべている。


 マーティア・エーデルノット。


 彼女は名門貴族の出身で男顔負けに実力に畏怖されている王国騎士団第一部隊の隊長である。

 そして青い騎士服を着こなしたその流麗な立ち姿と、女性ながらに紳士的な人柄により市民からの支持も高い。特に女性には熱狂的なファンがいたりするほどである。


 深く踏み込まずに気を配れる彼女の人柄は、リルにとってはとてもありがたかった。


「ただいま、マーティアさん。エミリア様は起きていらっしゃいますか?」


「ええ、そろそろリル殿が帰ってくるんじゃないかとおっしゃって、いそいそとメイドにお茶の準備を申し付けておられましたよ」


 クスクスとマーティアが笑う。リルも自分のことを待ちわびるエミリアの姿を想像して笑みを浮かべた。


「では少々お待ちください」


 笑みを浮かべたままのマーティアは騎士服の胸のポケットから細かい細工の鍵を取り出す。それを扉の鍵穴に差し込んだあと回したりはせずに、両手をその鍵にかざす。すると鍵は淡く銀色に輝く。


 王族の部屋の鍵というものは特別な魔法がかかっている。

 この鍵は部屋のかかっている魔法を一時的に解くためのアイテムであり、そのアイテムは所持者によって個別に調整されており、持ち主以外の魔力を受け付けない。

 故に鍵があっても鍵の持ち主以外はただのガラクタである。


 さらに言えばエミリアに会うためにリル自身も特殊な魔法をかけられている。この世界の次期女王の身辺警護においては当然のセキュリティーである。

 それ以外にもいろいろと施されているらしいがさすがにリルも全て網羅しているわけではない。普通にしている分には知らなくても特に問題はないのである。


 光が消えてキィンと音が響く。マーティアがドアのノブを回せば扉は開き、その向こうのベッドの上にはエミリアがいる。マーティアに促されてリルは部屋に足を踏み入れる。


「お帰りなさい、リル」


 いつものようにベッドの上でリルを笑顔で出迎えた。


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