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ひとつの現実8

 リルはカチャリと静かにを部屋の扉を締めた途端に足の力が抜けて床にしゃがみこんだ。別に具合が悪いわけでもない。単に一人になって気が緩んだだけである。


 あの後キーラとルーディと近くの喫茶店でお茶をして、あっという間に時間は過ぎて今は自室まで戻ってきていた。


 二人と話をするのは楽しかった。

 寄った喫茶店はアリアンという特別に有名でもない小さな店だったが、”リル”もかつてよく通っていたのでとても懐かしく、そこでたのんだケーキは相変わらず美味しかった。不満などどこにもない。


 だがリルが考えていたよりもことは複雑だった。本当は知っていることを知らない風に振舞うというのは至難の技で、相当な神経を使うことなのだとリルは今日身をもって知った。


『帰宅を確認。今日の課題についての説明をしますか?』


「・・・後にするわ」


 まだ空気を読めないウィルにリルは力なく笑う。そのまま座っているわけにもいかないので気を取り直して立ち上がる。そして窓の近くに置かれた机の上に鞄を置いてベットに伏せる。


 この時間、父と母は大抵研究所にこもっているのでそうそう会えない。

 ぼんやりとしているとエミリアの顔が頭の中に浮かんでくる。


 優しい彼女は様子のおかしいリルのことを大変心配していた。リルとしては状況についていけずに慌てふためいていただけなので余計な心配をさせてしまったと今更ながらに反省する。


「ふぅ。よっし。ウィルついておいで」


 リルは一つ息を吐いてその場から立ち上がる。ウィルがその肩にとまるのを確認して部屋をあとにした。

 昨日駆け抜けた道を今度は逆にたどってゆっくり歩く。向かうのはエミリアの部屋である。


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