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ひとつの現実6

 教室の席はひな壇になっていてリルはそこの一番後ろに座った。編入生に表だって興味を示すものはいない。


 ”リル”がここに初めて来たときもこんな様子で、この先ずっとこの調子なのかと不安に思ったことを思い出す。だが、今はそのようなことは微塵も思わない。

 彼らは先生の手前騒ぎ立てたりはしないだけで、実際はめったにいない編入生の存在に対して並々ならぬ興味を抱いていることをリルは知っていたからだ。それよりもこの授業のあとの方が少し心配であった。


 柚姫としての経験を得たことによって、箱入りの育ちで人見知りのリルはもういない。柚姫になってからは色々と達観してしまったところがあり、”リル”と同じように振舞えと言う方が難しい。


 だがもう一度経験したことなので、それはそれで自分なりに対応するしかないことであり、今慌ててもどうしようもない話である。

 リルは授業の終るまで静かにジルドのアルトの声に耳を傾け、久しぶりの魔法授業を楽しむ事にした。












 授業が終わってジルドが退室したあと、思ったとおり教室の空気が激変した。ざわざわとしながら、殆どの生徒の目がこちらをチラチラと見ている。

 非常にわかりやすい態度である。


 これでただずっと見られているだけならば居心地が悪いだけだが、そう間をおかずに元気な声がリルに話しかけて来た。


「リトルさん初めまして!私キーラ・ジェイル!キーラって呼んでね!よろしく!」


 ひまわりの花を思わせる明るく健康的な雰囲気の少女、キーラは満面の笑みでそう声をかけてきた。薄い金の短い髪がふわふわと揺れ綺麗な薄茶の瞳が好奇心に輝いている。記憶と同じ笑顔にリルは胸が熱くなる。


 キーラはかつて緊張のピークに達しそうなリルに声をかけてくれたクラスメイトであった。せっかく話しかけてくれたのに上手く話せずもどかしい思いをしたのを覚えている。

 リルは一生懸命に笑顔をこころがけて言葉を返す。


「よろしくお願いします」


「やだ、そんな丁寧に!同じ年なんだからタメ口でいいよ!」


 けらけらと朗らかに笑うキーラの後ろに人影が現れる。それもまた懐かし顔であった。


「おら、キーラ。編入生困らせんな。ほんとガサツなんだから」


「ちょっと、頭に腕載せないでよ!」


 暗い銀色の髪に青い瞳。その目には丸いメガネをしている落ち着いた雰囲気の背の高い少年である。

 少年は呆れた表情を浮かべたており、それに対してキーラは頬をふくらませて抗議している。だがキーラの表情は本気で怒っているわけではない。その雰囲気でこれがいつものことであるというのが窺い知れた。


「ごめんね。キーラが押しかけて。俺はルーディ・オルス。こいつのご近所さんなんだ」


「なによー!押しかけてなんかいないわよ!皆リトルさんに話しかけたいのにモジモジしてるから、取っ掛りを作ってあげたんじゃない!親切でしょう?」


「声がでけーよ。おまえそれ口に出して言うことじゃないだろう。そこは心に秘めておけよ。恩着せがましいぞ」


 あまりに明け透けな言いようにルーディが注意するように指摘する。


「私はリトルさんと話したいの。誰も話さないんだから早いもん勝ちでしょう?」


「お前さっきと言ってること違くないか?それと俺の話を聞いてないだろ」


「えっ、私あんたと話してないし。どっかいってもいいよ」


「ほんとひどいな、お前」


 悪態を付き合う二人だがその言葉には刺はない。むしろ親しみが込められているといっていいだろう。

 打って響く懐かしいやり取りにリルのお腹の辺りがうずうずしてそのうちどうしようもなく震えだす。そして我慢できずとうとう口からこぼれ落ちた。


「ふふっ、仲がいいわね」


 笑い声を最小限に抑えながらリルは二人にそう声をかけた。


 頬を紅潮させて楽しげに笑うリルを見て目をパチクリさせたあと、二人は示し合わせたかのように互の顔を見つめある。それからもう一度リルを見てこれもまた同じく声を揃えてこう言った。


「「こんなやつ腐れ縁だよ」」


 その言葉を合図に周りから明るい笑いがこぼれだす。それをきっかけに他に生徒も集まってきてそれぞれに自己紹介した。

 リルの学院生活の人間関係はそんな優しい雰囲気で始まった。


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