ひとつの現実5
魔法学院に着いて初めに会ったのはスレンダーな金髪の美女である。
「初めまして、リル・リトル。わたくしはジルド。初めての学校でわからないことも多いでしょう。疑問があればなんでも聞いてくださいまし」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」
テオに連れられてやってきた職員室で紹介されたのはこれからリルの担任となる教諭である。
怜悧な美貌をたたえた姿勢は威高気でとっつきにくそうな感がある。けれどリルは彼女が優しい先生であること知っているので自然と笑顔になった。
その様子を見ていたテオは満足そうに笑い、ジルドにひとつお辞儀をした。
「では、ジルドさん。よろしくお願いします。リル、楽しんでおいで」
リルの肩をぽんと叩きテオは去っていった。
「では、リル・リトル。教室に案内します」
「お願いします」
その言葉を合図にジルドは歩きだし、リルはその後ろについていく。ジルドは高いヒールの靴を履いているがそんなことは全く関係なくなめらかな動きで前に進んでいく。
『後10分です』
ウィルが律儀に始業の時間を知らせる。するとジルドが少しだけ後ろを振り返る。
「その”道標”はいかかですか?」
「とても気に入りました」
「それは良いことです。初めは少々融通が利かないところがあると思いますが、数日もすれば術式があなたに馴染んで、もう少し機微を察することができるようになるでしょう」
リルはその言葉に頷いた。
この”道標”というはどこに行っても欠かせない魔法の一つである。学校教育中や職場の一年目にはこの道標の魔法を提供することが義務付けられており、その大抵は小動物の姿を模して作られている。
ウィルも鳥の姿をしているが生き物ではなく、魔法によって生み出されたもので言ってしまえば魔力の塊である。それゆえ、会話は成り立つが、ものを食べないし眠ることもなく死なない。役目を追えない限りそこにあり続け、終えれば大気に溶けて消える。
”道標”があるのと無いのでは学院生活での効率が大きく違ってくるのである。
リルが自分の肩に乗っているウィルを横目で見るとかくんと首をかしげていた。 ただの魔法にしては随分と可愛いらしい仕草である。
教室に向かう途中、一面がガラス張りの廊下がキラキラと輝き、リルはふと目を細める。そして窓に視線を移せば、空には天王の住まう浮遊城の輪郭が雲の向こうにぼんやりと映る。
地球ならCGでも表現できないような幻想的な光景である。
そしていくらか歩くと白い扉の前にたどり着いた。
「着きましたよ。簡単な自己紹介の後はそのまま授業に入ります。後は”道標”に従って行動を。よろしいですか?」
「はい。分かりました」
ジルドはリルの返事に少しだけ笑みを浮かべたあと、扉に手をかざす。そして静かに扉が開いた。
踏み込んだ部屋にはワインレッドと濃紺の制服姿の男女が着席している。初めてここに来た時の緊張を思い出し、懐かしいなと思いながら佇んでいた。
「おはようございます。先日お伝えした通り、今日から彼女がこのクラスの一員となります。では自己紹介を」
ジルドの言葉に促されリルは一歩前に出て自己紹介を始めた。
「初めましてリル・リトルです。どうぞよろしくお願いします」




