ひとつの現実4
今から向かう魔法学院は王立魔法研究院の敷地内である。
この学院ではいくつか学科があるが、魔法自体は大きく分類すると精神系と物質系に別れており、テオが専門とするのは精神系補助魔法というものである。
リルの編入する精神系魔法科でも必須科目となっている。
魔力操作はその力が大きいほど精神力が必要である。大きな魔法を使うとき有効なのが精神系補助魔法で、それは精神と肉体を安定させることを目的とする。
魔法薬も元はこの為のものであり、今では国民の間でもそれなりに浸透している。そして昔から研究が行われている。
テオはその研究の責任者で、魔法学院ではより専門的な魔法薬の生成法を教えている。
当時の”リル”は、学校の仕組みは聞いているが授業がどういうものかはこの時はまだ想像の域を出ないでいた。
それはサラサの言ったとおりリルがこの年まで学校に通ったことはないからだ。
今は既に知っているリルであるが、今は昔とは別の意味で緊張していた。
「リル、緊張しているかい?」
学院に通じる道を歩いていると、リルがほとんど喋らないの心配してかテオがそう尋ねてくる。リルはそれに「少し」と言って笑った。
「ふむ。まぁ、さっきサラサの言う通り初めての学校で緊張しないのは無理もない。なに、みんな親切だからすぐに慣れるさ。同じ年頃の友達をたくさん作ると良い」
そう言って笑うテオにリルも微笑み返して頷いた。
本来なら国の法律で規定値以上の魔力を持つ満5歳児は居住地区の魔法学校に通うことになっている。
だが、リルは魔法学校入学前に行う適性検査で非常に希な魔法能力を持っていることがわかったのである。
まだ幼いリルには何が起きたのは分からなかったが、測定器を持った大人たちの自分を見る顔に浮かぶ驚愕の表情を見て、子ども心にただ事ではないのだろうと思ったのは今でも印象に残っている。
その後リルは魔法学校に入ることはなく、そのまま王立研究院の保護下に入ることになる。
この処置についてちゃんと理解できたのは大分あとだったが、リルが先天的に持つ魔法能力は精神系魔法の中でも過去の歴史でも数える程しか使い手のいないものだった。
他者に対する影響が大きい能力なので未熟な精神の子どもがたくさんいる場所に置いておくのは大変危険なことらしい。だから、隔離して訓練する必要がたったという。
けれどそんなことを言って理解できる年ではなかったので、毎日いろいろな検査を受けたり、時には大掛かりな魔法訓練を受けることもあり、戸惑うことも多かった。
それでも不満をぶつけたりしなかったのは、今まで忙しくてあまり会えなかった父や母と共に過ごせる時間が増えたことの方が嬉しかったからである。
そして何年もの訓練の末、10歳の頃にはリルの魔力の操作をほとんど完璧なものとした。
そして、その後5年かけてその操作能力の制御実験を行い他者に対する影響を及ぼさないことを証明し、今年やっと魔法学院に通うことが許されたのである。
そして今日がその記念すべき第1日なのである。
そう思うとあの頃のリルの不安や期待が蘇る気がした。けれど、全く同じものを抱くことは出来ない。だだ、少しだけ似た感情が胸に湧く。
「お父様」
隣を歩く父を呼ぶ。
「なんだい?」
「・・・お友達が出来たらきっと紹介するわね」
リルは顔を前に向けたまま小さな声で告げた。
「それは楽しみだ」
声だけでテオが優しく微笑んでいることがわかる。
”リル”が昔言えなかった約束を口にする。それが、少し嬉しくて少し涙が出そうだった。




