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ひとつの現実1

 遠くに小鳥のさえずりが聞こえる。こんな時間になぜだろうと思いながら目を開けるとそこには夕日色の美しい小鳥。

 それを視界におさめたリルの目は次第に大きく開き、意識が覚醒した瞬間ガバリと思い切り起き上がる。すると寝ていたリルの胸元にいた鳥もパッと飛び立ち、そのままた高い天井を旋回する。


『起きてください。起きてください。今日から学校ですよ』


 小鳥は鳥とは思えないようななめらかな発音でそう言葉を放ち、今度はリルの膝の上に舞い降りる。

 呆然としているリルに小鳥は頭を下げてお辞儀をした。


『初めまして。私は“道標”。本日より魔法学院精神系魔法科第2学年への編入を許可された“リル・リトル”の学院での生活のサポートを行います。ご希望の名前をつけてください』


 人のような口調で放たれる声は人ではない印象的な響きを持つ。リルは小鳥に手を伸ばす。人差し指でそっと小鳥の頭に触れると暖かさがじんわりと伝わってくる。それに対して小鳥は避けたりすることはなく、目を細めてこちらを見る姿が異様に人間臭い。リルの口からは自然と記憶にある名前がこぼれた。


「ウィル・・・」


『“ウィル”認識しました。ではこれより一時間以内に支度を行い登校してください』


 リルの告げた名前を小鳥は復唱し、そして次の行動を指示した。事務的な言葉だがリルからすればただ懐かしいばかりであった。

 これは先ほどと同じく、ただのリアルな夢なのか。それは分からない。けれど、リルの心はこの世界に大きく傾いた。


 この世界で生贄のような立場である“リル”はそれを何の抵抗もなく受け入れていたわけではない。

 悲しさや恐れ、不安は確かにあった。できるのならばもっと一緒にいたかったという思いも強かったが、それを口にするのは”リル”にとっても、”リル”を大切の思っている人にも苦しみしか与えない。


 王がいなければ世界はなくなる。そんな状況下で”リル”は“意味のある死”を選んだ。

 柚姫の生きる日本であれば、不幸と思われるかもしれない。他に選択肢を与えられなかったからそれを選ばざるを得なかったと言えるかもしれない。

 しかし、短い生涯でも冷遇されたわけではない。むしろ愛されてとても幸せに暮らした記憶が大半を占める。


 “リル”はこの世界もそこに生きる人も大好きだった。

 “柚姫”の周りの人間ももちろん好きである。けれど、故郷と言われて思い出すのは、やはりこの世界ヒイル・エアリアだった。


 リルはベットから出て部屋の隅にある鏡面台の前に座る。ウィルも羽ばたいて鏡面台の上にちょこんと乗る。


 鏡に映るのは黒髪黒目のリル・リトル。


 それに違和感はない。

 私は今ここにいる。もう夢でも現実でも関係ない。ただここにいるのだと強く思う。


 リルは視線をずらしこちらをジッと見つめるウィルに悲しげに微笑みかける。


「短い間かもしれないけどよろしくね」


 その言葉にウィルは首をかしげる。だが少ししてコクリと頷き今度はリルの肩に飛び乗り『後55分です』と残り時間を口にした。


 リルは悲しい笑顔のままそれに頷き返し、登校の準備をすることにした。

 これから懐かしい人たちに会うことへの期待と少しだけ苦い痛みを覚えながら。


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