日常の一歩横1
落ちていく意識の中、唯一しっかりと感じたのは自分の腕を掴む誰かの手。
そして次の瞬間ぐいっと強い力で引き上げられてぼやけた意識が一気に覚醒し、驚いて振り返ると知らない青年がそこにいて少しだけ不機嫌そうに眉をひそめた。
「大丈夫?急に倒れそうになったけど」
ぼうっと自分の腕を掴む青年を見つめ、その言葉を咀嚼する。そして数泊おいて柚姫は自分が倒れたところを支えてもらったのだと気がついた。柚姫は自分を掴むひんやりとした手にこれは現実だとはっきりと意識した。
それによってさっきまでの感覚は霧散し、がっかりしたようなホッとしたような複雑な気分を抱えたまま青年の言葉に返事を返す。
「えっと、大丈夫です。すみませんありがとうございます」
まだ若干混乱した頭で柚姫がそう告げる自身の足でしっかりと立つと、青年はその手を離して少し表情を和らげた。といっても眉をひそめるのをやめただけであるがどこか印象的だった。
「いや、それならいいけど帽子かぶらないと日射病になるよ」
青年はほぼ無表情でそう言った。そして「じゃあ、気をつけて」と言ってその場を早々に去ろうとするが柚姫は男性が手に持つものを見て反射的に「あっ」小さく声を上げた。
その声に足を止めた青年は少し怪訝そうに柚姫を見た。柚姫は青年の持つおかもちに書かれた文字を凝視した後、再び男性を見た。
「吉村栄史さんですよね?」
「・・・そうだけど、君はだれ?」
柚姫の質問というより確認と言える問いかけに、青年はまた眉をひそめ、数泊おいて問いに答えた。
肯定の言葉を口にした吉村に柚姫はやっぱりと思って深くお辞儀をした。
「叔母の利保がお世話になっています。姪の相川柚姫といいます」
そんな柚姫を見て吉村は少し驚いたように目を瞬いた。そして困惑した様子で次の言葉を口にした。
「神崎の・・・姪?妹じゃなくて?」
「叔母には妹はいないですよ?」
吉村の言葉に今度は柚姫が首を傾げた。互の間に少しの沈黙が落ちたが、誤解が解けるにそう少しだけ時間がかかった。




