夢と現の間2
呆然とした様子の柚姫にエミリアは少し心配そうに顔を覗き込んできた。
「寝ぼけているのかと思ったのだけれど、少し顔色が悪いわ。明日から魔法学院に通うのでしょう?今日はもう帰ってゆっくり休んだほうがいいわ」
「だ、大丈夫です」
柚姫は動揺しながらも、遣わしげな様子でそ告げるエミリアを見て反射的に言葉が出た。彼女を困らせたくない悲しい顔をさせたくない。そう思っているとエミリアが少し困ったように笑う。
「大丈夫じゃありません。リルは頑張り屋さんですぐに無理するのだから。今日はちゃんと休息をとって明日に備えなさい。そのまま青白い顔で学校へ行ったら新しく出来たお友達が驚いてしまうわよ。私も心配で安心して眠れないわ」
困った子ねと言った様子でエミリアは微笑む。その微笑みに逆らえず柚姫は一拍おいて素直に頷いた。すると安心したような表情をエミリアが浮かべて、それに柚姫もほっとした。
そして、ふわふわした気分のままどうにかお辞儀をした部屋をあとにした。扉が締まるまでエミリアはそっと手を振っていた。
とじた扉に額をコツリと付けた。頭の中が今まだ体験したことのないような混乱に陥っている。
「リル殿、いかがいたしましたか?」
扉の番をしているは女性の護衛騎士が声をかけてきた。名前はマーティア。
そのマーティアも少し心配を顔に覗かせていた。だが、それ以上ここに居るとわけの分からないことを口走ってしまいそうに衝動に駆られ、小さく「大丈夫です。」とだけ答えて早足でその場をあとにした。
廊下をフラフラとした足取りで歩く柚姫に声をかける人間もいたが、それを気にする余裕もなく走り出す。走って、走って、人のいない方へと足を向ける。そして覚えている通りの道筋を進み、視界に入ってきたのは小さな家。その扉をためらいなくあけた。
そこにいたのはもうひとつの懐かしい姿。人ではなく人よりもずっと自分よりか幾分小さい青い光を放つドラゴンの姿が柚姫の方を見た。
「おい、ノックくらいしろよ。ここに来るのはお前くらいだけど一応礼儀だろ」
語調は強いが怒っているわけではなくその表情はからかうようなそれである。
きっとかつての自分ならここで文句を返しただろう。けれど今の柚姫それは出来そうもなかった。
「おっ!?おいどうしたんだお前!?どっかの馬鹿にいじめられでもしたのか!?」
焦った様子でドラゴンはありえないものを見るように固まった。
柚姫の頬を幾筋もの涙が伝った。次々と流れ落ちるそれはもう止めようもなく柚姫の心は言葉にできない思いに包まれた。それ以上何も考えることは叶わなかった。




