夢と現の間1
とても温かい。そしてとても懐かしい花の香りが鼻に抜けた。そしてぼんやりと意識が浮上する。
そっとまぶたを開けて初めに目に飛び込んできたのは深い黒。
「随分疲れていたのね。呼んでも全く起きないのですもの」
そう言って柔らかく笑う声が耳に残る。目の前にはベットの上に座る黒髪黒目の美しく儚げな少女。
「・・・エミリア姫?」
無意識に少女を呼んだ。するとエミリアは少しすねたような表情を浮かべた。
「あら嫌だわ、リル。いつものようにエリーと呼んで欲しいわ」
明るく振舞う少女だがその雰囲気はどこか病的で頼りない。もう一度その存在を確かめるように名前を読んだ。
「エリー様」
「なぁに?」
しっかりと声が返ってくる。けれどその言葉に続く言葉が思い浮かばない。
「えっと、なんでもありません」
「ふふ、変なリル」
とりとめのない会話。本当になんでもない会話である。
こみ上げてきたのは愛しさとそれと同じぐらいの言い知れない胸の痛み。
これは夢だろうか。それにしてはあまりにリアルだ。
エミリア・テ・ヒイル・エアリア。
目の前の少女は自分の生まれた意味を示す存在だった。死に際までそれに疑問も持たずに共に過ごした大切な少女。
リル・リトル。
それがかつての自分の名前。
病弱な一国の姫・エミリアにその身を差し出すために育てられた子どもの名前である。




