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プロローグ
薄闇のなか、ただ”彼”に手を引かれるがままに”私”は駆け抜ける。
なぜ走っているか、理由を考える余裕もなくただひたすら前へ、前へ、前へ。 聞こえるのは広い神殿に響く二人の足音と荒い呼吸のみ。
「あっ!」
長い裾に足をとられ倒れそうになると、力強い腕に支えられる。
「あと少し・・・、あと少しですからっ」
”彼”は息を切らしながら、まるで懇願するように、そしてひどく苦しそうにそう囁いた。
それは懐かしく、けれどはじめて聞く”彼”の声。
わけもわからず”私”の頬濡れていく。
繋いだ手に力を込めまた走って、走って、走ってー
その先には深い闇が広がり、足を止め、振り返った”彼”は見えるはずはないのに微笑んだように見えた。
「今度こそあなたを…
優しい声も、繋いだ手の温もりも闇に溶けて消えた。
これが”私”の始まり。そして”彼”との最後の邂逅。まぶたを閉じて次に開く時、繰り返す平穏な日々を取り戻す。
”彼”の望みを”私”が知るその日まで。