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第一話 遭遇編

「カワイイなんて、そんなことー、にゃーにゃーにゃにゃーにゃにゃー」


家に帰ると見知らぬ美少女がくつろいでいた(アニソン歌いながら)

非現実的な光景が目の前に広がり、靴を脱ごうとした動作が停止する。

少女は帰ってきた俺に気づかず、テレビに釘付け状態だ。


友達のいない俺にとって苦痛しかない学校が終わり、今日もアイドルをプロデュースする仕事に励むかと意気揚々とした気分でアパートの扉を空けた俺の目に入ってきたのはそんな光景だった。

ちなみに今日は我那覇響ちゃんをプロデュースしようと思っていた。


四畳半の殆どを占めているコタツに入り、テレビを見ている少女。


「ふふっ、やっぱりアナちゃんが一番可愛いですねー」


アニメを見ながら笑っている。

やはり見たこともない少女だった。

もしかすると俺の妄想がついにいっちゃう所までいっちゃって、自分の部屋に妄想の美少女を生み出しちゃったのかなって思ったけど……やっぱ生身の女の子だった……みかん食ってるし。


これは一体どういうことだろうか。

銀髪で紅い瞳で白いワンピース着た外国人のハーフ少女って感じのラノベヒロインみたいな女の子が俺の部屋にいるなんて……。

もしかして部屋を間違えた?


「……いや、合ってるな」


一度外に出て部屋番号と表札を見たが、やはり俺の部屋で間違いなかった。

表札にも『田中』って平凡な俺にどこまでも見合った名前があったし。


俺が玄関で懸命に状況把握に勤めていると、それをあざ笑うかのように少女が笑い声をあげた。


「でも、茉莉ちゃんもカワイイですねー……んー、甲乙つけがたいです」


個人的にその二人で甲乙つけるなら、まあ……千佳ちゃん一択かな。

そういえば昔、このアニメのどのキャラが一番カワイイかで友達と話し合ったっけ……懐かしい。最終的に殴り合いの喧嘩に発展して、それ以来そいつと会ってない……そういえばアイツが唯一の友達だったんだ。元気にしてるかな山本。


俺が『伸惠ねーちゃんがオンリーワンでナンバーワン!』とか戯けたことを抜かした山本の顔面に右ストレートを入れた記憶を回想していると、ようやく玄関にいる俺に気付いたのか、少女がこちらに視線を向けた。

パチリと開いた大きな紅い瞳に、体を射抜かれたような錯覚を覚えた。

少女が小さな口を開く。


「あ、いたんですか」


俺が学校でよくかけられる言葉ベスト2だった。ちなみにベスト1は『はい田口君、宿題のプリント』だ。もう新学期が始まって半年も経ってるのに未だ間違えられる名前とか、間違えている人間の中に担任の教師が混じっているこの状況に、俺は悲しいを通りこして笑えてくる。

俺生まれ変わったらDQNネームの一家に生まれるんだ……そんで嫌でも名前覚えてもらうんだ……。


「あの……いつまで玄関に立っているんですか? 寒いでしょう? 早く部屋に入ったほうがいいですよー」


少女は闇系の属する俺が溶けてしまうような眩しい笑顔を浮かべて言った。

どうやらここは俺の部屋で間違いないらしい。


俺はアンノウン的美少女を警戒しながら、恐る恐る靴を脱ぎ部屋に上がる。

そんな挙動不審な俺を少女は、にこやかに見つめていた。

その笑みは天使の様にまばゆく、我那覇響ちゃんのことを必死で考えていないとうっかり惚れちゃいそうだった。危ない危ない。響ちゃんにふぇーでーびる !(沖縄の方言でありがとうって意味)


「さあさあ、外は寒かったですよねー? コタツに入って体を温めてください。みかんもありますよー」


この子可愛い上に、めっちゃ気が利くいい子じゃん……。でもここ俺の部屋だし、そのコタツも俺のだし、みかんはかーちゃんが送ってくれたもんなんだよね。

俺はコタツには入らず、コタツを挟んで少女の正面に座った。

いくら美少女でも、人ん家でくつろぎまくってる人間と同じコタツには入りたくない……。


俺は早速少女の正体を確かめることにした。


「で、俺の家でくつろぎまくってる君は一体どこの誰さんなんだ?」


ここで俺は心から神様に願った。

実は俺は偶然限りなく今の世界に近い平行世界に迷い込んでしまって、彼女はその平行世界にだけ存在する……俺の妹だと!

心から願った。父さんが会社をクビになるかもしれなかった時に『どうかパパの仕事とらないで下さい!(小学2年生)』と願った時の8倍は強く願った。

はたして。


「私は……アナタの妹ですよー、お兄さま」

「ヨッシャアアアアア!」


俺は拳を天高く突き上げた。

神様は願いを聞き届けてくれたんだ! 今度こそ!

しかも『お兄さま』とか俺の『もし妹がいたらこう呼ばれてみたいランキング』2位に属する呼び方で! ちなみに1位は『○○(名前)君』って呼び方! マイノリティ(少数派)? それ、褒め言葉ね。

でもようやく分かった。俺の不遇な人生は今日この時の為のものだったんだ。辛い人生に耐えた俺への神様のご褒美なんだ。

可愛い妹がいる人生とか、ご褒美以外のなにものでもない、神様ありがと!


「文化祭の打ち上げに俺だけ呼ばれなかった時に、人生からドロップアウトしなくてよかったぜ……」


あの時の俺の肩を叩いて、ナイスと言ってやりたい。


「打ち上げ呼ばれなかったんですか?」

「ああ、うん……夜にヤングジャンプ買いにコンビニ行ったら、お菓子とかジュース買い込むクラスメイトの集団に遭遇して……」

「それはそれは……よく自殺しませんでしたねー。私がアナタなら間違いなく衝動的におでんの鍋に頭を突っ込んで自害していますよー」


そんないい感じにダシが出そうなな自殺はありえないが、実際コンビニから慌てて逃げた俺は川に飛び込んで自殺しかけた。さいぷ~見るまで死にたくなかったから、とりあえず家に帰ったけど。

いやー、生きててよかった。

しかし妹、か。まさかこの俺に妹ができるとは……この世界の父さんとかーちゃんは頑張ったんだな。もしかするとこの世界で父さんはクビになってなくて、経済的に余裕があったのかもしれんな。

元の世界の職業『真・自宅警備員』である父親を思い出し、ちょっと泣けた。今度ダブった春香のねんどろいど全部あげよ。


「妹かー。名前は……なんだっけ?」

「田中クリスです」

「この世界でもあの二人ガンオタなのか……」


ちなみに俺の名前は田中刹那だったりする。この名前のせいで俺の人生の難易度が幾分か上昇したのは間違いない。だって俺全然刹那って感じの顔じゃねーもん。どちらかといえば『たかし』とかそういう平凡な名前が超馴染む。ここだけの話、いつか改名しようと思ってる。

しかし、クリスちゃんかぁ。名前が外国人っぽいけど、見た目もそれっぽいし全然グッド! 俺の名前と違ってすっげえベストマッチ!

やばいわー、こんな可愛い妹がいるとかもう俺人生勝ち組じゃん。つーかここで俺の人生エンディングでもいいわ。


「双子の妹は田中アレンビーです」

「もう一人妹いんのか! つーか流石にその名前はねえよ!」

「嘘ですよー」

「嘘かよ! いやいいんだけど!」

「ちなみに私がアナタの妹だってことも嘘ですよ」

「それも嘘かよ! ……え、マジで?」

「マジですよー」


ふふふ、とか笑いながら言っちゃうクリスちゃん。

あ、ダメだ。さっきので人生のエンディングを迎えたと思ってたのに、また辛い人生のオープニングが幕開けちゃったよ……。

オープニング辺りは全然良ゲーなんだけど、小学校入った辺りで一気に難易度上がるんだよな……中学生編とかマジインフェルノ、初期装備で烈火クリアするくらい難しい。今プレイしてる高校生編とか、もうこれ絶対リセット前提の難易度としか考えられないよ……でも、今のところセーブもロードもできないんだよね。なにこの糞ゲー。

あ、何か涙出てきた。


「あのー、マジ泣きするのは止めて下さい。まさか信じるとは思わなくて……」


軽くヒキ気味なクリスちゃん。

つーか妹じゃねえなら、人んちで勝手にくつろいでしかも家主を泣かしちゃうこの不審者は一体誰なんだよ。


「で、君は誰なんだよ。不法侵入で通報するぞ」


相手が妹でないと分かった今、手加減する必要はなくなった。強気に行こう。

でもこの子に『ゆ、許して……』とか涙目で言われちゃったら、全然許しちゃう上に通帳とかポンと渡しちゃうかもしれん……。それくらい可愛い、恐ろしいくらい。

可愛いは正義とか行ったのどこのなにしーさんだよ。可愛いは悪魔の間違いじゃねーの?


「私は……あ、その前に一つ聞きたいんですけど」


クリスちゃんは相変わらず笑顔のまま、


「田中さんって神様とか信じてます?」


こんなことを言った。

うわああああ! 最悪の展開だこれ! この間も美人のお姉さんが訪ねてきて『ちょっとお話を聞いてもらってもいいですか?』って言われてホイホイ家に上げたら酷い目にあったのに! あったのばかりなのに!

またこれだよもう! 学習しろよ俺! もう俺の人生こんなんばっか!


「あー、誤解のないように言っときますけど、別に宗教の勧誘とかではないですよー?」


それみんな言うし。常套句だし。そのうち霊験あらたかな壺とか出してくるの目に見えてるし。

もう壺はいーよ。こんな四畳半に壺が三つあってどうしろって言うんだよ。蛇でも飼えってのか?

でも買っちゃうよぉぉぉぉぉぉ! こんな可愛い子に『壺買って♪』って言われたら買っちゃうのぉおおぉぉぉぉぉ!


「ただ一応聞いておきたくて。田中さんが信じてるか信じてないかで、このあとの話の流れが少し変わるというか」

「は、話の流れ?」

「ええ、はい。てっとり早くなるというか……」


てっとり早くって……自分が新興してる神様に興味を惹きやすいか否かってことか?


しかし神様、か。

神様って確かその人の心のあり方によって、見える姿が違うんだよな……。

人によっては老人に見えたり、凛々しい女性に見えたり、神様な家族だったり、はたまた幼稚園児(cv.かないみか)にしか見えなかったり……そんなことをどっかのラノベのキャラが言ってたはず。

つまり俺が神様を見たら、アイマスのあずささんに見えるのか……?


とりあえず信じるか信じないは……俺はまあいると思ってる。世界中にこんだけ信じてる人がいるなら、一人くらい神様が居たっておかしくないと思うし。

ただやっぱり世の中の人が信じてるほど多くの神様はいないと思うけどな。お米の一粒一粒に神様が住んでるとか言われても、正直意味分からんし。


「まあ……人並みには信じてるよ。ただ特別どこかの宗教に属してたりはしないけど」


個人的にイカ娘教みたいな新興宗教が成立したら、確実に出家しちゃうけど。戒律はイカちゃんを愛することただ一つ!


俺の答えにクリスちゃんは、両の手をパンと合わせた。


「よかったですよー。神様信じてない人だと話がややこしくなりますからねー」

「そうか、で俺が人並みに神様信じてるのと、君の正体に何か関係あんの?」


俺の質問に、少女は平然と当たり前の様にこう言った。


「ええ、関係大ありですよー。ずばり私――神様ですからねー」


と。


「は? イカちゃんに喧嘩売ってんの?」

「いえ……特にイカちゃんとやらに喧嘩を売った覚えはありませんけど」

「いやいやいや……何だって? 神様?」

「ですよー」


コイツはアレかもしれんな……。

人に家に不法侵入して、しかも自らを神と名乗るとか……十中八九薬キメてラリってやがる……。

絶対そうだ。そうに違いない。


俺の少女に対する印象が地の底に落ちてるのも露知らず、少女は笑顔で続けた。


「まあ、どこどこの神様とか、何系の神様とか、そういったことを言っちゃうとややこしくなるので、気にしないで下さいねー」


この自称神様が『体が熱くなってきました……特にこの辺り』みたいなキマり方するんだったらいくらでもウェルカムなんだけど、そんな感じではないな。

下手すればこっちに危害を加えてくるかもしれん。『私は神! だから何をしても許される!』とか言いながら俺の頭をバールの様な物で殴打する可能性も大いにアリ。

ここはポリスメンを召喚して、(俺を)守備表示にしておくか……。


「すまん、話の途中だけど電話してもいい?」

「ええ、どうぞー。ここはアナタの家なんですから、そんなこと気にしなくていいですよー」


てめえはもっと気にしろよ――俺が家電を取ろうと立ち上がるやいなや、みかんを食い始めたこの少女にそう言ってやりたくなった。

だがここは我慢して電話をかけるべきだ。刺激したら怖いことになりそうだし。


警察へ電話をかける。呼び出し音が長く感じる。ジェイソンから逃げてる外人女性の気持ちが今ならよくわかる。後ろに恐ろしいものが迫ってたら、そりゃハリーハリー叫びたくもなるわ。

俺も今超叫びたい。

だって俺の後ろには)薬キメてあっぱっぱーな美少女がいるんだぜ。色んな意味で危険だよ。


『はいもしもし』


電話口から女性の声が聞こえた。

うわ、女性警官か……あんまり異性と話したことないから緊張するぜ……。

いや、男の警官相手でも緊張するんだけど。いや、女だろうが男だろうが警官は怖い……。

職務質問するのはいいんだけど、その後の俺の心のケアもセットでやってくれよ……。

不審者扱いされるのって、かなり辛いんだけど……そこん所わかってほしい。


「あ! ス、スイマセン! お、俺、あの!」


やっべぇ、どもり過ぎ俺。

普段からコミュニケーション避けてた結果がこれだよ。いや避けてるわけじゃなくて機会がないだけなんだけど。ラブプラスじゃ、対人スキル殆ど鍛えれねぇし。


『落ち着いて下さい。どうしました?』

「は、はい。すいません。実は、その――」


家に不審者が……と言おうとしたが……これ大丈夫なのか?

もし警官が家に来て、あの子見た警官が『未成年にドラッグを!? なんて酷い男だ!』みたいな感じで誤解したら俺終わりじゃん。

いや、ちゃんと説明すればいいんだけど……上手く言えるかな。


「い、家に女の子がいて。あ、学校から帰ったらです。それでその子言ってること意味分からなかくて」

『なるほど。その女の子の特徴は?』

「えっと……」


振り返り少女を見る。少女は笑顔で手を振ってきた。


「こうなんていうか……可愛い感じの」

『具体的にお願いします』

「か、髪とか超綺麗で……肌とかめっちゃ柔らかそうで……顔が特に物凄く好みで」


俺は何を言ってるんだ……テンパり過ぎだろ。


『それはそれは……どうもありがとうございます』

「それで、その……ん?」


何かこの女性警官ちょっとおかしいな。何でお礼なんて言うんだ?

それにこの声、どこかで……。


『ちなみに補足しておきますと、田中さんが朝学校に行ってからずっと私はいましたよー。いやー、この家にはアニメのDVDがいっぱいあって、時間があっという間に経っちゃいましたよー』

「……」


もう一度振り返ってみた。

少女は何故か横ピースをしている。携帯などを持っている様子はない。しかし電話口から聞こえる声は間違いなく、少女の声。


『それにしても、人からそんな風に見た目を褒められると照れますねー。神様を照れさせるなんて、田中さん、なかなかやりますねー。これは例の件も期待できるかもしれないですねー』


間違いなく警察にかけたはず。

それに携帯も持ってないのに、どうやって喋ってるんだ……?


「どういうトリックだよ」

『いえいえ、トリックじゃありませんよ。神様の力のちょっとした応用ってやつ――』


電話を切った。

そのままもう一度警察にかける。


『どうもー神様ですー』


切ってすぐに消防へ。


『恋の炎も鎮火しちゃいますよー』


実家に。


『神様ですよー、ママって呼んでもいいですよー』


友達に……あ、かけるような友達いねぇ……。


電話を置き、少女の前へ。


「信じてくれましたか?」

「トリックだ! トリックに決まってる!」

「ミスターポポみたいなことを……」


ここで『サタンだろ!』と突っ込む余裕は、今の俺にはなかった。


「どうせあれだろ! 電話はハッキングとかして繋がらなくして、電話の声はなんか超能力的なテレパシーとかで……超能力ハッカーかよ!?」

「田中さん? 何を言ってるんですかー?」


確かに自分でも何を言ってるか分からない。


「だから超能力でもハッキングでもなく、神様の力なんですよー、もう。……じゃあもうてっとり早くいきましょう」


少女はコタツの上のみかんを手にとった。


「このみかんを別の物に変えてみせます」

「な……!?」


そんなことができたら、まさしく神の所業……。


「ではこのみかん、そうですね……ぽんかんにでも変えてみますか、いやそれとも柚子に……いやいやハッサクも捨てがたい……」

「喧嘩売ってんのか」

「冗談ですよー」


少女がクスリと笑うと、みかんが光を放った。

全く前兆のないその光は、まばゆく四畳半をテラス。

光が消えるとそこにみかんはなく、代わりにみかん大の大きさの透明で輝く物体が。

俺は目を疑った。そこにあったのは紛れもないダイヤモンドだったからだ。


「すげえええ!」

「でしょうでしょう」


少女改め神様はドヤ顔で胸を張った。あ、気づかなかったけど……胸そこそこあるんだ。着痩せしてるのか。

ていうかやべえよ! こんなん魅せられたら信じるしかねえじゃん! 壺売ってきたお姉ちゃんの時はチャクラがどうとかですっかり騙されたけど、これはモノホンだわ。

やっべえ、俺の目の前に神様なうだわ……。

ツイートしたいけど、ネット世界にも友達いないからどうせフォローされないか。


「神様マジぱねえ……」

「これで信じてくれましたか?」

「信じるしかねーだろ。まさかみかんがこんな風に――」

「氷砂糖に変わるとは思いませんでしたか?」

「ダイヤじゃねーのかよ!」


よく考えたら俺ダイヤとか見たことねーわ。

でもあんな風にいかにもな感じで変えられたら、誰だって誤解するだろ。


「んー……みかん味の氷砂糖ですねー」


少女改め神様のクリスちゃんがみかん大の氷砂糖を手に持ってペロペロしたので、何か変な気分になった。具体的には氷砂糖が舐められてる→俺の家にあったみかんが舐められてる→俺が舐められてる……みたいな三段論法で。


まあとにかく目の前の少女、クリスちゃんが神様だってことは分かった。

いや、もしかすると物質変換系の能力者とかかもしれないけど、多分この世界異能バトルものじゃないから、その線は置いとこう。

とにかく神様だ。神様が一体俺に何の用なのか……。


「田中刹那さん。私がアナタの元に来た理由、それはアナタにお願いしたいことがあるからです」

「お願いしたいこと?」


平凡かつどこまでもモブキャラ顔で、得意なこともないこの俺にお願い……? 今のところ人生でお願いされた経験は『金貸してくれ』だけの俺に……?

言ってて悲しくなってきた……。つーか山本、金返せ。


「ここだけの話、地球は今危機的状況にあります」

「危機的状況、だと?」


危機的状況……思い当たる節は色々ある。

昨今の異常気象、環境破壊、国家間の争い、現在地球には色々な問題がある。

俺が今暮らしてる日本は平和だけど、それでも明日にはどうなっているか分からない。明日は我が身だ。

しかし、そんな危機を俺がどうこうできるとは思わえないが……。

いや、もしかして俺には特別な力があって、それを使って世界を救う……ナイスな展開じゃないか!


「危機と言っても、田中さんが考えている様なものではありません」

「え、違うの?」

「違いますよー。そんな国家や環境みたいな世界規模の危機を、パソコンの埃を綺麗に取るくらいしか取り柄のない田中さんに頼むわけないじゃないですかー」

「言っておくが俺への虐めが限度を超えると吐くからな。そこだけは言っておくぞ」

「……き、気を付けますー」


やった! 初めて神様を怯えさせたぞ! ついでに距離もとられたが……。


「具体的にどういう危機なのか、それを説明するのは後にしましょう。その前に具体的に何をお願いしたいか、それを説明します」

「今さらなんだけど、俺がやる前提になってるよね」

「やらないんですか?」


笑顔から一転、悲しい顔でこちらを見つめてくる神様。

今すぐに『やります!』って答えたい! つーかやる気満々だけどな。だって神様が直々に来て、お願いしてくれてるんだぜ? 今まで平凡以下の人生を歩んできた俺だけど、きっとこれが転機になる筈。

俺だって負け犬人生とおさらばしたい。モブキャラだって主役を張れるって証明したい。あわよくばハーレムなんかを作ってモテロードを爆走したい。 


「断るのなら残念ですが、本当に残念ですが――神様的な力で脳の一部を組み換え『ハイ、ソーデスネ』しか言えない体にするしか……」

「いいともの収録見に行くのだけが趣味の人生になるじゃねーか! やるって! やるから!」

「そうですかー! 良かったですー」


くそっ、可愛い顔して何て恐ろしいことを言う天使だ……いや神様か。


「で、お願いしたいことですが……ある女の子と仲良くなって欲しいんですよー」

「……女の子と仲良く?」


想像していたのと随分違うな……。

もっと、こう、地球を脅かす敵を倒せ的なものかと。いや、やれって言われても無理なんだけど。


「それがどう地球の危機と……?」

「まーまー、最後まで話を聞いて下さいよー。女の子の名前は立花可憐さん……知ってますよね? 田中さんと同じ学校の通ってて、同じクラスの女の子です」

「いや、知ってるも何も……」


立花可憐、高校生活が始まってから、ずっと俺の隣の席にいるクラスメイトだ。

俺がどこに移動しようが、何故か彼女も俺の右隣に移動してくる。

ひょっとして運命の紅い糸で繋がってるのかも、そう思って話かけたら『……田口君。気持ち悪いから話かけないで』って言われたんだよね。そん時俺ショックで記憶飛んで、気が付いたら家で響ちゃんとパーフェクトコミニュケーションとってた。あと言われてから3日間経過してた。ショック過ぎて3日時間飛ぶとか……俺……。

とにもかくにも、俺にとって彼女はそんな存在だ。

ぶっちゃけ超苦手だ。クラスメイトのいつも騒がしいDQNも苦手だけど、彼女も同じくらい苦手だ。


「で、その可憐さんと仲良くなって欲しいんですよー」

「いや、ムリ……よく考えてみれば、立花さん云々じゃなくて、女の子と仲良くなるって時点で無理なんだけど……それ以前に同性の友達もいないのに……」

「んー、確かに田中さんは友達作るの苦手そうです。まだチンパンジーと仲良くなる方が可能性はあるかもしれませんねー」

「神様の顔に吐いてもいいの?」

「……それは勘弁して下さいねー」


そもそも立花さんと仲良くなるのが、どうして世界の危機を救うのかに繋がるのかがわっぱり分からん。

俺のそんな訝しげな視線をモノともせず、神様はコタツ上から新しいみかんを手に取り、皮を剥き始めた。


「やっぱり、世界の危機の方が気になりますかー?」

「そりゃ、まあ。立花さんと何か関係あんの?」

「えー、それは関係あるかないかで言うと――ぶっちゃけ立花さんがその気になれば、世界とか簡単に終わっちゃうんですよねー」

「は?」

「ちゃっちゃと説明しますと、彼女は地球外生命体というやつでしてー、とある星の侵略構成員としてこの地球に潜伏してるんですよ。彼女の目的は地球の価値の調査で、彼女が地球は価値のない惑星だと判断したら、地球は終わります。具体的には分かりませんが……母星から地球全体絶対破壊ミサイル的なものが飛んでくるんじゃないでしょうかねー」

「……という設定?」

「いえ、設定ではなく。本当の本当です。確か彼女がこの星に来てそろそろ半年、調査も終える頃じゃないですかねー」


神様――クリスちゃんを見る。

クリスちゃんはニコニコと笑顔を浮かべながら、みかんを食べている。

さっきしたのが、まるでちょっとした世間話のような、そんな笑顔を浮かべて。


「つまり、あれだ。それは……なんだ。……どーゆーことー? 意味が分からん。その話がクリスちゃんの痛い妄想とかじゃなく、本当だとして」

「む、失礼ですねー。私は妄想なんてしませんよー。もうそうなこと言ったら怒りますよー、なんちゃって」


あまりに寒いダジャレに俺は妄想の中でクリスちゃんにもうそれは酷いことをした(18禁)


宇宙人? そんな非科学的なものが世の中に……いてもおかしくないか。こうして目の前に神様がいるわけだし。


「本当だとして! 彼女とか仲良くなってどうするんだよ。お願いだから地球を助けて、とでも言うのか?」

「まあ、大体そんな感じですねー。ほら、よくゲームとかでもあるじゃないですか。敵キャラで味方の中にスパイとして混じってたら、色々あって仲間になってた、みたいな?」

「あーあるある! 『これがな』の人とかな! ああいうのって元いた組織裏切る瞬間が一番燃えるよな!」

「はいはいー、分かりますよー。で、その組織にも『見逃すのは今回だけだ。――次は』みたいなかっこいいキャラがいるんですよねー!」


お、なんだこの神様。分かってんじゃねーの。

ちょっとテンション上がって頬赤くなってるとことか可愛いな……。

それはまあ置いておこう。


「つまり立花さんと仲良くなって、彼女を裏切らせろ、と」

「いえいえ。別に裏切るまではいかなくても『コイツがいるからこの星は壊したくないなー。よし、ちょっと嘘の報告をしよう』くらい仲良くなってくれればいいんです」

「なるほどなるほど」

「ね、簡単でしょう?」


確かに簡単そうだ。

ギャルゲーとかでもありふれた展開だしな。

だが、一つ問題がある。


「さっきも言ったけど、俺マジで友達いないんだぜ? ゼロ。ゼロだよ? そんな俺が異性のしかも地球外生命体とかヘビーな設定持ってる子と仲良くなれって? それマジで言ってんの? お前それサバンナでも同じこと言えるの?」

「ここはサバンナじゃないですしー」

「俺にとっては教室はサバンナみたいなもんなんだよ」


猛獣の群れの中でひっそり暮らす被捕食者、それが俺だ。


「ムリだよムリムリ。半年経って、普通のクラスメイトとも友達になれないんだぜ? それでいきなり宇宙人とか……池谷が調子こいてモンスターボックスの23段までスキップするくらい無謀。人には身の丈ってもんがあんの。そういう難易度の高い攻略は、俺じゃない誰か……リトさんとか幻想殺しさんとかに頼んでよ」

「大丈夫ですよー、ちゃんと私がお手伝いしますから」

「お手伝いって……」

「その時その時で助言したり、田中さんがピンチの時は助けたり……サポートするってことですよー」

「サポートか……」


つまりコミュ障の俺をフォローしてくれるのか?

そこまでするなら、自分で仲良くなれよと思うけど……自分でできるなら、俺に頼みはしないか……。


「お願いします田中さん。世界の危機を救う為に、私に力を貸して下さい」


半ば不意打ち気味に手を握られた。

おぼこな俺はそれだけで、頷きそうになってしまう。

それでいいのか俺? こんなわけの分からない神様にわけの分からない女の子と仲良くなれとか言われて……流されていいのか?

でも……。俺、このままじゃ変わらないよな、ずっと。

多分ずっと友達なんてできやしないだろうな……。仲良さそうなクラスメイト達見て、嫉妬したり悲しくなったりして、でも自分では決して行動しなくて……。

これまでそうだったから分かる。ただ待ってたり見てるだけは、友達なんてできないし、自分の環境を変えることなんてできないんだ。

何かアクションを起こさないといけないんだ。

これはチャンスかもしれない。俺が変わるための。もしかしたら最後かもしれない。


上手くいけば……可愛い女の子と友達になれる!

ぶっちゃけ立花さんかなり可愛いし、人間離れした可愛さって言うの? いや、実際に離れてたわけだけどさ。

あんなに可愛い子と仲良くなれたら、それこそ俺の人生は変わる。素晴らしいものに。

ちょっと地球外って重い設定があるけど、あれだ。可愛いは正義ってなにしーさんが言ってたし。


「俺、やるよ! 地球を救う!」

「田中さん! 私見えます、今田中さんが纏ってるブレイブ(英雄)オーラが……ブレイブオーラが!」

「やってやるよ! 立花さんがなんだ! チラっと横顔見ただけで、露骨に舌打ちされるのがなんだ! 俺が登校してきたらこれみよがしに溜息を吐くのがなんだ! 買ったばかりの消しゴム落としたら、拾わずにパクられるのがなんだ! 俺はやるぞ!」

「田中さんのオーラが……消えた……。気のせいだったてことですね、分かりますー」


確かに俺は今まで友達が全然いなかったし、唯一の友達であった山本も既にいない。

友達のつくり方なんて分からないし、それが異性ならなおさらだ。

でも俺には頼れる仲間……神様が付いてる。

やってやれないことはない。

変わるんだ。俺は変わってやる。今までの負け犬人生から抜け出して、勝ち組になってやる。


「神様、お願いします。俺を手伝ってください」

「クリスちゃんでいいですよー。敬語も使わなくていいです」

「そうか……じゃあよろしく」

「はい、こちらこそお願いしますねー」


クリスちゃんの手を握る。神様のその手は、普通の女の子となんら変わらない、柔らかくて暖かいものだった……(ちなみに女の子の手を握ったの初めて)

俺は明日から始まる新しい人生に心を躍らせた。


「神様が付いてたら百人力だな。なにせ神様だし」

「褒めてもなにも出ませんよー? ふふっ」


頬に片手を当て、はにかむクリスちゃん。

若干ドヤ顔だ。


「ちなみにクリスちゃんってどれくらい友達いんの? 神様っていうからには……人間の俺からは考えられないほどの繋がりあんじゃねーの?」

「え? 私ですか?」


クリスちゃんは首を傾げながら両腕を組んだ。

そして右手の人差し指を立てて、にこやかに言った。


「私も友達いませんねー。ふふっ、田中さんと一緒です」

「……」

「さー、明日から頑張りましょうねー。地球の命運は私達にかかってますよー、ファイトー」


ぐっとガッツポーズをとりながら高らかに謳うクリスちゃん。


こうして俺の人生の真のオープニングが幕を開けたのだが……大丈夫なんだろうか。


「あ、今日は深夜アニメでいい感じのラブコメがありますねー。ハーレム系の。これでちょっと女の子と仲良くなる勉強をしましょうかー」


大丈夫じゃねえなこれ。暗雲漂いまくってるわ。

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