第8話
「う~ん」
やっぱり出ないんだよなぁ、魔法。ミモザちゃんとか他の魔法少女に聞いてみてもまともなコツとか帰ってこないし。
皆まだ幼いから、だいたい感覚でしか返ってこないのだ。それで理解できるのは天才だけよ。
そういう意味では、私以外の魔法少女は皆天才と言えるのかもしれない。
「お?」
支給されていた携帯端末から緊急地震速報のような不快な音が流れた。
これが鳴るときは魔獣が現れたとき、らしい。私たちは緊急魔獣速報と呼んでいる。
らしいと表現したのは、私の端末でこれが鳴ったのは初めてだから。この音が流れるのは魔獣が流れたときかつ、その魔法少女に出動を求めるとき。
つまり私はこれから戦場に出ることになると思われるのだが……。
いや、おかしいぞ。今の私はまだ研修中みたいな段階で、現場に出れるような能力に達していないのだ。救急救命とかまだ基礎の基礎しか習っていないし、何より魔法が使えない。これでは魔獣を倒せない。
安全保障の観点から出動する時は最低二人の魔法少女を要するので、そのもう一人に任せて私は見ているだけみたいな感じ?
それにしたってもう一人に負担が乗るから、そんな選択ここの職員はしないと思うけど。
さすがにそろそろ実務に出しとくかみたいな考えかな、もう一人にベテランつけて。そもそも魔獣の前に出してみないと戦えるかどうかもわからないし、一旦ランクの低いやつにベテランと行かせてビビらないかどうかだけ確かめる、みたいな。
まぁ考えていても仕方ないから一旦会議室に行くか、と思い立って通路を歩き始めたのだけど、いろいろ考えていたの全部無駄だったかもしれん。
建物中から緊急魔獣速報が流れていて、虫のオーケストラを聴いているような気分。要するに不快ってこと。
普段は廊下を走らない職員さんが青い顔でガンダッシュしているし、それを見た魔法少女が怖くなって廊下の隅っこで縮こまっちゃっている。
「大丈夫?」
「あ。ここお姉ちゃん……。私、こんなの初めてで、どうすればいいかわかんないの」
「私もわかんないけどね。ここの大人が頼れるのは私よりも先輩のアスカちゃんが知ってるでしょ?いつもみたいに指示を聞いていれば大丈夫だよ。ほら、お姉ちゃんも初めてのことで怖いから、一緒にお話聞きに行ってくれる?」
「うん……!」
気休めでしかないけど……それはいったん置いておくべきだな。どう考えてもイレギュラーな何かが起きている。
私の出動要請も、一旦確かめるとかそんな考えじゃなく、単純に人手が足りないから出すしかないみたいな状況かも。
今私と一緒にいる魔法少女アスカは既に小学5年生、魔法少女歴5年、この業界ではベテランも大ベテランである。
そのアスカちゃんが初めて体験する事象って時点でもうヤバい。
会議室に連れて怒声が響いてきた。ただ怒っているというわけではなく、単純に大きい声みたいな感じだけど、小学生を部屋に入れさせない効果はあるみたいで扉の前でみんなして縮こまっちゃっているや。
これは駄目だなぁ。イレギュラーとはいえ女の子を怯えさせるのはよくないよ。
どれ、私が先陣を切りますか。
「失礼します。出動要請により参上しました」
「あぁ⁉……あぁ、神威か。すまん怒鳴っちまった」
「私はいいですけど、他の子が怯えちゃうのであまり大きい声は控えていただけると嬉しいです」
部屋に入った私を怒鳴ったのはこの魔法少女本部の所長、つまりトップ。なお初変身の際にニコニコしながら眺めていたあの男性である。
性格は優しくて温厚、叱るときも静かに理詰めしてくるので怒られたくない大人ナンバーワンを常に独占しているというのが小学生の評価だが、いまはそんな温厚もかなぐり捨てて怒鳴り散らしてらぁ。
私の後ろで様子をうかがっている子たちを見て、普段の調子を取り戻してくれたらいいんだけど。
問題は所長が温厚さを捨てるまで追い詰められていると思われるこの状況だよなぁ。一体何が起こったのやら。




