第30話
「おまたせ」
「おねーちゃんこっち!」
「うん。お母さんご飯何?」
「今日はラーメン」
お母さんは料理に非常に凝るタイプの人だ。作る料理によって調味料のブランドすら変える。塩だけで7種類家にあるからね。
そんなお母さんの作るラーメンなので、もちろん市販のインスタントではない。
最後に食べたときと同じなら、スープは1日かけて作っているし麺も手打ちしているはずだ。チャーシューも自作のはず。
「いただきます」
「いただきます!」
「はい、召し上がれ」
うん、いつも食べていたラーメンと同じ味だ。下手にお店に食べに行くよりもずっと美味しい。
あっさりとした魚介系のスープが麵によく絡みついて、いくら食べても飽きが来ない味をしている。
この才能が私に受け継がれていたらなぁと最近はよく考えるようになった。私が作ると、過程がどうしても大雑把になってしまってレシピ通りに作っても美味しくならない。
少し前に自炊するって考えていたの、1週間も持たなかったからね。料理のために買い足した調理器具や調味料がもったいない。
まぁ人間向き不向きがあるものだ。私のお父さんも料理に向いていないし、料理に関してはお父さんを受け継いだらしい。
ちなみにお父さんは九州の方に出張中だ。今回の帰省では会うことは難しいだろう。
「ご馳走様。美味しかった」
「はい、お粗末様」
「みかんもご馳走様!おねーちゃん、お話聞かせて!魔法少女!」
「ぶっ」
聞かれるとは思っていたけど、実際に聞かれると何と答えたらいいかわからない。話すことだって何を話せばいいか。
まだ小さい美柑に血なまぐさいことは話したくないので、戦闘関連のお話はしないように。
そう考えると、他の魔法少女の人となりとか、魔法がどんなものかとかがどうだろうか。
「わかった。それじゃあ実際に魔法が……」
「みかん、おねーちゃんが狼さんと戦ったときのお話聞きたい!」
あぁ、やっぱり知っているのか……。正直知らないでほしかった。いろいろと素面だと恥ずかしいことを口走りながら戦っていたし。
あそこで戦ったことを後悔する気持ちは微塵もないけど、それはそれとして、血のつながった家族に見られていたと思うと、多少の気恥ずかしさがある。
「みんな学校でおねーちゃんのことを話すの!王子様みたいで格好いいって!みかんも格好いいって思った!」
「ち、ちなみにどのあたりを……?」
「えっとね、『今この時間だけ、私に命を預けて』って言ってるところ!」
「ぐうっ」
耐えろ、耐えろよ私。可愛い妹の前でおバカになるのは嫌すぎる。私には姉としてのプライドがある。せめて尊敬される姉であれと。
あ、それなら格好いいと思われる分には別にいいのでは?考えてみれば、魔獣を前に怯えている人がいたら安心させるような言葉をかけるだろう。魔法少女なら間違いなくそうする。
ならば私があのセリフを言っていることに恥ずかしくなる必要はない。そう、あれは業務上必要な行為だっただけのこと。仕事に羞恥心とかいらないから。
A.E.D.証明完了。……あれ、なんか違くない?
「おねーちゃんすっごい格好良かったの!学校でみんなで真似して遊んでる!みんなおねーちゃんがあんなに格好いいって知らなかったって!」
「えぇ」
私は昔から美柑と仲が良かったのでよく一緒に遊んでいた。美柑もよくなついてくれて、保育園のお迎えが私じゃないと泣いちゃうくらい。
だから時間があるときは私が迎えに行っていたんだけど、その際に美柑の友達と話すことや一緒に遊んであげることがあった。
私を格好いいと言っている子はその子たちだろう。美柑が小学校に入学しても、友達と仲良くやれていることはうれしい。けど遊びに私が使われているのはちょっと……。
「美柑、ちょっと別のお話しよっか。わたしよりずっと格好いい魔法少女もいっぱいいるから、私以外のお話しよ?」
「……なんで?」
「いや、だって私はさ」
「おねーちゃんが一番格好いいの!おねーちゃんのお話したい!おねーちゃんの……う、うぇ~~ん!」
「美柑⁉」
ど、どうしよう。美柑が急に泣き出してしまった。どれだけあやしても泣き止まなくて、頭を撫でようと思ったら「や!」と拒否されてしまう。
最終的に、美柑は泣き疲れて眠ってしまった。
「あんた馬鹿ねぇ」
「お母さん?馬鹿って何さ」
「美柑があんたのこと好きなのはわかってるでしょうに。なのに自分で否定されたら、好きなものを否定されたと思って泣いちゃうでしょ。起きたら謝っておきなさい」
つまり、美柑は私が私を否定したと思って泣いたのか。
別に否定したつもりはない。ただほかにも素敵な魔法少女はたくさんいると伝えただけ。
でも、そうか。美柑の中では、私が一番格好いい魔法少女なのか。
それはなんだか、とてもうれしい。
よし、ちゃんと謝ろう。謝ってもう一回お話しよう。今度は私のことを中心に話す。
なお、数時間後に起きた美柑に謝罪したところ、美柑が寝るまで何時間も自分のことを話すことになった。




