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魔法少女という年ではない。  作者: あるにゃとら


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第11話

 危ない何とか間に合った。身体強化を足が折れない程度にかけて、そこら辺の建物の屋根の上を全力で走ってここまで来た。住んでいた人にはすいません。


 奏に魔法少女なことを知られちゃったけど、そんなこと気にしている場合じゃないや。ひとまず奏を近くのシェルターに連れて行って避難させなきゃ。


「立てる?」

「あ……いやごめん。腰抜けちゃって立てないや」

「わかった。ちょっと我慢してね」

「へ?きゃっ⁉」


 歩けないとのことなので身体強化で抱き上げて私が運ぶことにした。身体強化さえあれば女の私でも人一人くらい余裕で持てる。


 さっき魔獣を殴るのにも身体強化は使っていた。おかげで杖を持っていた腕がしびれて痛いけど、運ぶのに影響があるほどじゃない。

 それにしても杖が脆い。魔力を通して一発殴っただけで真っ二つに砕けてしまった。これまた作り直せるよね?杖を壊した人の話は聞いたことが無いからよくわからない。


「近くのシェルターに運ぶから、しばらく我慢してて。明坂さん、近くのシェルターはどこ?」

『はい、そこから100mほど先を右に曲がって』

「ま、待って心愛。あの魔獣、なんか……」

「魔獣?」


 心配している奏だけど、あの魔獣は等級Eだから多分もう死んでいるか最低でも動けないと思う。

 そのくらいの力で殴った。加減をするような状況でもないし。


 ただ不安があるなら確認しておくべきだ。そう思い奏の指さす方を見てみると、確かにぶん殴ったはずの魔獣がこちらに向かって歩き出すところだった。


「動けている……。明坂さん、あれ本当にE級?私が身体強化をかけて殴れば、E級程度なら殺せるんだよね?」

『はい。心愛さんの物理攻撃ならその程度の威力は出るとデータがあります。そのはずですが……』


 それはここに来るまで、インカムをもらっている間に聞いた。もし魔獣と交戦するなら、最初に全力で一撃入れれば最低でも逃げられる時間は稼げると。その程度の能力を私は持っていると。


 であるならば、今の状況は明らかにおかしい。魔獣は多少怪我を負っているけど、普通に歩けている。目の焦点もあっているし、明坂さんたちのデータが間違っていた?

 魔法少女が現れてから30年、積み上げてきたデータが?数の少ないA級とかならわかるけど、相手はE級だぞ?


「よくわからないけど、一旦逃げます……?」


 その時、目に映っていたに魔獣が突如立ち止まり変化を始めた。

 四足歩行であるはずの狼魔獣がふと立ち上がる。毛におおわれていた体から毛がどんどん抜け落ち、頭以外すべての毛を落ちた。


 抜け落ちた毛の中に隠れていたのは、ひとと何ら変わらない肉体。成人男性の平均を大きく超えた慎重に、ボディビルダーを思わせる筋骨隆々の肉体。その中で、いまだに変わらない狼の頭だけが異彩を放っている。


「ひぃっ」


 腕の中にいる奏が声をあげる。私も気持ちはわかる。明らかにおかしい。

 あの魔獣の存在感が、圧が、目に見えるのではないかと思うほどに押し寄せてくる。


 そうして再び歩き出した魔獣の姿は、人の体に大きな狼の頭。それに加え、狼の武器となる爪はその手足の先にしっかりと残している。

 その姿はまさに、物語で伝えられる姿そのまま。


「人狼……?」

『心愛さん!』


 吞まれていた意識が明坂さんの怒鳴り声で覚醒する。腕の中の楓はいまだに吞まれたままだけど、今はまだ都合がいい。

 予想通りなら、パニックに陥りかねない。


「明坂さん、あれE級じゃないよね?」

『はい……!捉えていた魔力量が変化しました!……判定は、B級です』


 とても敵う存在ではない。少なくとも私一人では。魔法が使えない私では対抗手段があまりにも限られている。頼みの綱たる杖も、先ほどの一撃で折れたままだ。戻そうと思っても戻せない。


『撤退してください。今の心愛さんでは戦うことは不可能です』

「私もそうしたいんですけど……多分無理だと思います」


 先ほどから私のことしか見ていない。つまりあの魔獣は、私を獲物だと認識しているということになる。

 そして魔力量はB級。魔獣は魔力量がそのまま強度と身体能力にも反映される。B級ならコンクリートくらい簡単に壊せるし、100mを1秒で駆けることすらできると言われている。


 そんな存在に私は獲物だと認識されているのだ。逃げるのは難しい。魔力量的に全力の身体能力なら同等だろうが、私は強度の問題がある。全力を出したら2歩進めるだけでもう無理だ。


「一応聞くんですけど、救援ってこれそうですか?」

「……他の魔法少女は全員交戦中です。最短で10分はかかります」


 つまり、私がここで戦うしかないという事だ。救援を待つにせよ、逃げるにせよ。

 逃げられないし助けも来られないなら、もはや戦う以外に生き残るすべはない。


『流石に無茶が過ぎます!』

「でもそれ以外に手がないです」

『それは……』

「こ、心愛、あれと戦うの?無理だよ、逃げてよ。あいつ、私が石を投げたから怒ってるんだ。私を置いて行けば逃げられるから」

「ふざけたこと言わないで」


 見捨てるのが嫌でここまで来たのに、わざわざ見捨てて逃げろって?冗談。

 それにあいつが私を見ていることは間違いない。要するに、魔獣にとっては獲物が二人揃っていてラッキーと言ったところだろう。

 

「奏。私は逃げないし、奏を見殺しにもしない。絶対二人で生きて帰るから。だからお願い。今この時間だけ、私に命を預けて」

「心愛?」

「信じて。奏に傷一つ付けさせないから」


 戦うとなった時、奏を背負って戦うことは難しい。だから奏はここに放置して戦うことになる。

 私と奏で一本線にするのだ。そうすれば魔獣は奏を殺すために、私を殺さなければならなくなる。


 ただこれは、奏が私を信じてくれなければできない戦法だ。奏が動いて線じゃなくなってしまえば、魔獣は私を無視してしまうことが可能になる。

 そうなった場合、私は脚が壊れることを覚悟で動かなければいけない。そうなったら負けだ。


「心愛……わかった。信じる。さっき助けてくれたし、それに友達だもん」

「ありがとう。……行ってくる」


 さて、魔法が使えない、意味不明なズレの詳細も理解していない。武器はこの身体だけ。そんな私がどれだけ戦えるか……。


 ただ負けるつもりはないよ。魔獣には悪いけど。

 奏が信じてくれているのだから。


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