第十八話:ヒロインの決意と、最初の弟子
わたくし、イザベラ・フォン・ツェルバルクが、グラン鉱山を、救済という名の、筋力トレーニングの場へと、変えていた、その頃。
王都の、清らかな学園の一室は、一人の乙女が発する、熱く、燃え盛るような、情熱の炎に、包まれておりました。
彼女の名は、エリアーナ。
そう、この物語の、本来の、ヒロインですわ。
「ああ…イザベラ様…!」
エリアーナは、窓の外、王都のはるか彼方を、うっとりと、見つめておりました。
その手には、今朝、届けられたばかりの、新聞が、握りしめられている。そこには、『筋肉の聖女、天災を覆す!』『民衆、イザベラの名を熱狂的に叫ぶ!』など、胸躍る見出しが、でかでかと、踊っておりました。
(やっぱり、わたしの思った通りだった…!)
エリアーナの脳裏に、鮮やかに、蘇る。
あの、グリフォン事件の日。巨大な魔獣の前に、誰もが、絶望に、ひれ伏す中、ただ一人、敢然と、立ち向かっていった、あの、気高き、背中。
あの時から、エリアーナの中で、イザベラ様は、恐怖の悪役令嬢などではなく、誰よりも、輝ける、白馬の王子様となっていたのです!
「それに比べて、わたしは…」
エリアーナは、自らの、か細い腕を、見つめました。
この、非力な、腕。この、守られてばかりの、体。
これでは、いつまで経っても、王子様の、お荷物になっちゃう…!
(強く、ならなきゃ…! あの、素敵な、王子様の、隣に、立つために!)
その日から、エリアーナの、秘密の、肉体改造計画が、始まったのです。
手始めに、学園の図書館で、一番、分厚く、重い、『大陸全史・完全版』を、借りてきては、それを、ダンベル代わりに、上げ下げする。
「う、うんっ…!ふんっ…!」
令嬢らしからぬ、荒い息。汗が、キラキラと、その、可憐な顔を、滑り落ちていく。
その、あまりに、異様な光景を、ルームメイトが、目撃してしまいました。
「エ、エリアーナ!? い、一体、何してるの!?」
驚き、固まる、ルームメイトに、エリアーナは、その、潤んだ瞳を、きらりと、輝かせました。
「見て! わたし、生まれ変わるの! あの、素敵な、イザベラ様の隣に立つのに、ふさわしい人になるために!」
「だから、あなたも、手伝って! さあ、一緒に、この歴史書で、大胸筋を鍛えるのよ!」
そう言うと、エリアーナは、ルームメイトの手に、もう一冊の、『大陸全史・完全版』を、有無を言わさず、握らせるのでした。
か弱きヒロインが、初めて、手に入れた、記念すべき、最初の、弟子(犠.牲.者)の、誕生の、瞬間でしたわ。
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