第十六話:筋肉式・災害復旧
わたくしと、わたくしの筋肉信者たちが、グラン鉱山の災害現場に到着した時、そこには、絶望と、混沌が、渦巻いておりました。
巨大な岩石が、鉱山の入り口を、無慈悲に、塞いでいる。王都騎士団の方々が、魔法や、重機を使って、必死の救出活動を、試みてはおりますが、その、あまりに、巨大な岩盤の前には、彼らの努力も、焼け石に水、といったところですわ。
助けを求める、坑夫たちの、か細い声。地上で、祈り、泣き崩れる、その、家族たち。
ですが、わたくしの目には、その、絶望的な光景は、全く、違って、見えておりました。
(まあ…!)
わたくしは、思わず、感嘆の声を、漏らしました。
なんて、素晴らしい。この、自然が作り出した、天然の、トレーニングジムは!
「素晴らしいですわ!見てごらんなさい、あの、巨大な岩を!あれは、大胸筋を、いじめるのに、なんと、最適な角度なのでしょう!」
わたくしの、その、歓喜に満ちた声に、王都騎士団の方々が、ぎょっとした顔で、こちらを、振り返ります。
わたくしは、そんな、彼らの、戸惑いの視線など、気にも留めず、後ろに控える、我が、筋肉の信徒たちに、高らかに、号令をかけました。
「さあ、始めましょうか!人命救助という名の、合同トレーニングを!」
「「「ハイル・マッスル!」」」
地鳴りのような雄叫びと共に、わたくしの信徒たちが、一斉に、動き出します。
彼らは、騎士団が、魔法でも、びくともさせられなかった、その、巨大な岩を、まるで、歌うように、持ち上げ、そして、軽々と、投げ飛ばしていく 。
「そこの二人組!その岩は、ショルダープレスで、谷の向こうへ!」
「あなたは、その、倒れた大木を、クリーン&ジャークで、向こう岸まで、運びなさい!」
その、あまりに、人智を超えた光景に、誰もが、言葉を失っておりました。
救出活動は、驚異的な、速度で、進んでいく。
ですが、わたくしたちの、お仕事は、それで、終わりでは、ございませんことよ。
やがて、瓦礫が取り除かれ、坑夫たちが、次々と、救出されると、わたくしは、次に、倒壊した、橋や、家屋を、指差しました。
「これでは、皆さんが、安心して、トレーニングに、励めませんわ!復旧作業、開始ですわよ!」
わたくしたちの、本当の、神判は、ここからでした。
ただの、救助活動ではない。わたくしたちは、その場で、倒壊した、橋や、家屋を、驚異的な速度で、「再建」し始めたのです 。
土台を持ち上げ、柱を立て、屋根を葺く。その、全ての作業を、わたくしたちは、己の、筋肉のみで、行っていく。
その光景は、もはや、人々の目には、神々の御業のように、映っていたことでしょう 。
瓦礫の中から、人々を救い出し、そして、失われた、生活の場を、再び、築き上げていく、わたくしたちを。
民衆は、いつしか、ひざまずき、まるで、救世主を、崇めるかのように、祈りを、捧げ始めておりました 。
ええ、ええ。よろしい。
これこそが、我がツェルバルク家の、真実の姿。
言葉ではなく、筋肉で、民を救う。これ以上の、正義が、ありまして?
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