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【祝45000PV】転生悪役令嬢イザベラ、婚約破棄も魔法も筋肉で粉砕します!  作者: 月待ルフラン【第1回Nola原作大賞早期受賞】
第三章:悪役令嬢イザベラ、王国の危機も筋力で踏み潰しますわ!
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第一話:嵐の後の、モーニングラン

 嵐が、去った。

 あの、メイド――リリアの、魂を懸けた儀式によって、暴走していたセレスティーナ様は、奇跡的に、その意識を取り戻した。白氷城を包んでいた、絶対零度の魔力も、嘘のように、霧散している。


 その、翌朝。

 城内は、静かだった。安堵と、しかし、先の激戦による、深い疲労。そして、まだ、どこか燻る、絶望の残り香。そんな、重い空気が、白氷城を、支配していた。

 城の兵士たちは、疲れ果てた顔で、城壁の修復作業や、負傷者の手当てに、黙々と、当たっている。


 その、静寂を、打ち破ったのは。

 わたくしの、一点の曇りもない、張りのある声でした。


「皆々様、おはようございます! 素晴らしい朝ですわね!」


 中庭に、トレーニングウェア姿で現れた、わたくしの姿。それに気づいた、兵士たちの肩が、びくり、と跳ね上がった。その瞳に浮かぶのは、恐怖と、そして、警戒の色。

 まあ、無理もありませんわ。彼らにとって、わたくしは、敵を殲滅した、救世主であると同時に、常識の通じない、赤い髪の悪魔なのですから。


 ですが、わたくしは、そんな彼らの視線など、一切、意に介しませんでした。

「昨夜は、お疲れ様でした。見事な、クエストクリアでしたわね」

 わたくしは、満足げに、頷く。

「ですが、油断は禁物ですわよ。高難易度のクエストをクリアした後は、必ず、適切なクールダウンを行い、次の戦いに備える。それが、一流のゲーマーの、嗜みというものです」


 そう言うと、わたくしは、その場で、屈伸運動を始めた。

 兵士たちは、呆然と、わたくしを見つめている。「この、世界の終わりのような状況で、この女は、何を、言っているんだ…?」と、その顔に、書いてありました。


「さあ、始めましょうか! 本日の、モーニングランを!」


 わたくしは、号令と共に、雪がうっすらと積もった、中庭を、軽快に、走り始めました。

 もちろん、ただ、走るだけではありません。

 道端に転がっていた、先の戦闘で砕けたであろう、城壁の瓦礫(推定重量50キログア)を、両手に一つずつ、軽々と持ち上げ、それを、ダンベル代わりに、腕を振りながら、走る。


 その、あまりに、人間離れした、そして、あまりに、場違いな光景。

 絶望に、沈んでいた、白氷城の兵士たちは、もはや、声も出ない。ただ、目の前で繰り広げられる、圧倒的な、生命力の奔流を、見つめるだけでした。

 恐怖は、いつしか、呆れへと変わり、そして、その呆れは、やがて、一つの、奇妙な感情へと、昇華していく。


(ああ、このお方がいれば…なんだか、もう、どうにでもなるような、気がしてきた…)


 根拠など、ありません。ですが、その、圧倒的な、揺るぎない存在感が、彼らの、凍てついた心に、小さな、しかし、確かな、勇気の火を、灯し始めていたのです。

 わたくしの、聖戦後の、完璧なクールダウンが、意図せずして、白氷城の、人々の心をも、温め始めていたことを。

 もちろん、わたくし自身は、知る由もありませんでした。

ご覧いただきありがとうございました。感想や評価、ブックマークで応援いただけますと幸いです。また、世界観を共有する作品もあるので、そちらもご覧いただけるとお楽しみいただけるかと存じます。HTMLリンクも貼ってあります。

次回は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です。

活動報告やX(旧Twitter)でも制作裏話を更新しています。(Xアカウント:@tukimatirefrain)

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