第二十四話:ボーナスステージ③
白氷城を目前に控えた広大な雪原。わたくしたちの行軍を遮るものは、もはや何も無いように思われました。その、油断が生まれた一瞬を突くかのように、斥候から鋭い声が上がります。
「イザベラ様! 前方、地平線上に人影多数!」
わたくしは、馬上で身を起こし、その方向を睨みました。
雪と氷しかない、真っ白な世界。その地平線上に、黒い染みのような一団が、静かに、こちらを待ち構えておりました。その数、およそ五十。全員が、禍々しい文様の入った黒いローブを身にまとっています。
「ふふん。歩兵や騎兵では歯が立たないとみて、ついに魔術師部隊を投入してきましたのね、律章復興派も」
わたくしの言葉に、兵士たちは、しかし、一切動じません。むしろ、その瞳には、新たなトレーニングへの期待とも言うべき、好戦的な光が宿っていました。
敵の魔術師部隊は、完璧な陣形を組み、一斉に、詠唱を開始しました。
大気が、ビリビリと震え、色とりどりの、殺意に満ちた魔力の光が、彼らの手のひらに、集束していく。
炎の矢、氷の槍、雷の礫。数百もの、死の呪文が、一斉に、わたくしたちへと、放たれました。
だが、わたくしの「筋肉信者」たちは、誰一人として、盾を構えようとはしませんでした。
「いいですわね、皆々様!」
わたくしは、味方に、檄を飛ばします。
「魔法など、ただの、少し速いだけの、ボールですわ! よく見て、タイミングを合わせれば、避けることなど、造作もありません! 気合で魔法は避けられますわ!」
「「「ハイル・マッスル!!」」」
雄叫びと共に、兵士たちは、一斉に、駆け出したのです。
降り注ぐ、魔法の豪雨の中を。
信じがたい光景が、その雪原で、繰り広げられました。
一人の兵士の顔面に、灼熱の火球が迫る。彼は、しかし、慌てることなく、上半身をブリッジのように反らし、紙一重でそれを回避。そのままの勢いで、地面を蹴って、さらに加速する。
別の兵士の頭上から、鋭い氷の槍が降り注ぐ。彼は、落下地点を完璧に予測し、スライディングでその下を潜り抜けた。
敵の魔術師たちは、呆然としておりました。
自分たちの、必殺の魔法が、まるで、子供の雪合戦のように、次々と、避けられていく。
彼らが、次の詠唱の準備をする前に、わたくしたちの軍勢は、既に、その懐へと、飛び込んでいました。
そこから先は、もはや、一方的な、蹂躙でした。
魔法を撃ち尽くし、無防備になった魔術師たちを、わたくしたちの、鋼鉄の拳が、次々と、雪原へと、沈めていく。
数分後。
雪原には、美しいまでに、完璧な、人型の穴が、数十個、出来上がっておりました。
わたくしは、その光景に、満足げに、頷きました。
「ボーナスステージ③、クリアですわね。さあ、皆々様。最終決戦の地は、もう、目前ですわよ!」
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