第二十三話:ボーナスステージ②
最初の罠を、最高のトレーニングに変えて突破したわたくしたちは、その日の夕方、次の宿場町へと到着いたしました。
ですが、その町の雰囲気は、どこか、よそよそしく、そして、敵意に満ちておりました。
「イザベラ様、申し上げます! 町の商人たちが、皆、口を揃えて、我々への食料の提供を、拒否しております!」
「兵糧を買い占められたようです! おそらくは、先回りした、敵の工作かと!」
副官からの報告に、わたくしは、ふん、と鼻を鳴らしました。
「なるほど。物理的な障害が、筋肉の前には無力だと悟り、今度は、兵站を断つ、という、古典的な手に来ましたのね」
兵士たちの間に、わずかな、動揺が走ります。
これだけの、大軍です。補給がなければ、どれほど鍛え上げられた肉体も、いずれは、その輝きを失ってしまう。
敵の、その、陰湿な狙いは、兵士たちの、士気そのものを、内側から、削り取ろうというものでした。
ですが、残念でしたわね。
わたくしの軍団は、もはや、ただの軍隊では、ありませんのよ。
わたくしは、動揺する兵士たちに向かって、高らかに、宣言しました。
「うろたえるではありません、我が愛すべき、筋肉信者たちよ! あなた方は、忘れたのですか! 我々には、神(エドワード王子)からの、祝福があるということを!」
そうです。わたくしたちの荷馬車には、まだ、山のような、最高級プロテインが、積まれているのです。
「それに」と、わたくしは、懐から、エリアーナからの、あの、小さな手紙を取り出しました。
「わたくしの、優秀な保護対象からの情報によれば、この辺りの山で採れる月芋と岩塩を組み合わせれば、最高の回復食になる、とのこと。あなた方の、その、素晴らしい筋肉があれば、山の幸など、あっという間に、確保できますわよね?」
わたくしの、その、完璧な解説に、兵士たちの顔から、動揺の色は、完全に、消え失せていました。
そうだ、俺たちには、筋肉があるじゃないか! そして、何より、プロテインが!
彼らの目に、再び、狂信的な光が宿ります。
ですが、わたくしは、これで、終わりにはしませんでした。
やられたら、やり返す。それも、筋肉で。それが、ツェルバルク家の流儀ですわ。
「斥候に、命じなさい」
わたくしは、副官に、氷のように、冷たい声で、命じました。
「この町の、どこかに、敵が、我々から買い占めた食料を、隠しているはずです。その、備蓄倉庫を、探し出しなさい、と」
数時間後。
斥候は、いとも容易く、町の外れにある、巨大な倉庫を、発見しました。
その夜。わたくしたち、ツェルバルク軍は、電光石火の、奇襲作戦を、敢行したのです。
倉庫を守っていた、数人の、哀れな見張りなど、わたくしたちの、敵ではありませんでした。
彼らが、気づいた時には、既に、倉庫の扉は、物理的に、破壊され、中にある、全ての食料が、わたくしたちの、屈強な兵士たちの手によって、完璧に、運び出された後でした。
わたくしたちは、敵の兵糧を、そっくりそのまま、奪い取り、その夜、盛大な、栄養補給の宴を開いたのです。
翌朝。
もぬけの殻となった倉庫と、置き手紙――『ごちそうさまでしたわ。イザベラ』――を発見した、律章復興派の残党が、血の涙を流して、悔しがったことは、言うまでもありません。
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